サイゾーpremium  > 連載  > 稲田豊史の「オトメゴコロ乱読修行」  > オトメゴコロ乱読修行【43】/【おとぎ話みたい】文化系男子が患う恋愛の病
連載
オトメゴコロ乱読修行【43】

“女子を撮る天才”が描く『おとぎ話みたい』にはいかない文化系男女の恋愛四方山話

+お気に入りに追加

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

1811_cyzo1811_inada_JK_200.jpg

 ここ数年の日本映画界で「女子を撮る天才」などと絶賛され、F1層(20〜34歳女性)の一部から、狂ったように共感を寄せられる女性監督がいる。馴染みのない男性諸氏も多いだろうが、本連載で避けて通ることはできまい。その名は山戸結希。小松菜奈主演の『溺れるナイフ』(16)をはじめ、乃木坂46、Little Glee Monster、RADWIMPSなどのPVも手がけるほか、この9月には新木優子主演のカネボウ「suisai」 ウェブドラマ『毎日、思ってた』が、公開4週間で180万回以上再生されて話題となった。平成元年生まれの俊英だ。

 そんな山戸の名を一躍世に知らしめたのが、51分の中編『おとぎ話みたい』(13)である。主人公は、地方の高校に在学中でダンサーを夢見る高崎しほ(趣里)。彼女が東京帰りの若い男性教師・新見(岡部尚)に恋をする模様が、同校の先輩たちが組むバンド“おとぎ話”の楽曲演奏と交互に綴られる。

 本作で描かれるのは、思春期の女子が年上男性に惹かれる病理のメカニズムだ。

 しほが新見を好きになったきっかけは、掃除中に廊下でバレエダンスしているのを新見に見つかり、「すごいね」「ピナ・バウシュ好きなんだね」と言われたこと。なぜそれだけで惚れてしまうのかといえば、この言葉はしほの中でそれぞれ、「同級生などという愚劣で凡庸な田舎者どもではなく、年上かつ東京仕込みの文化教養人の目に留まった自分すごい」「文化教養人たる彼がひと目で影響を見抜いたドイツの天才的舞踊家ピナ・バウシュに以前から心酔していた自分やっぱりすごい」に瞬速で昇華されたからだ。「特別でありたい自分」を担保してくれる手近な存在が、たまたま新見だったというだけである。

 しほは決して新見の容姿や性格や深遠なる知性に惚れたわけではない。「自分すごい」と思わせてくれる言葉をくれる相手なら、誰でもいい。それこそが、自意識の肥大した思春期の文化系女子が年上男性に惹かれる仕組みの、ほぼすべてだ。

 その新見に、かつて東京でダンスをやっていたが今は現役を退いた卒業生の女性が近づいてくると、物語は次の局面に移行する。嫉妬にかられたしほは、その女性ばかりか新見までも、身も蓋もなく壮絶にディスるのだ。「そんなに文化が大事なら、真ん中で戦えばよかったのに。結局こっちに逃げてきたんでしょ。出戻り文化人じゃん!」

 自分は賢く、美しく、正しいものを見分ける力があることを信じて疑わない少女期の全能感。実に微笑ましい。ただ、このあとの展開は男性諸氏にとって少々不可思議に映るだろう。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2020年2月号

新しいニッポンのタブー

新しいニッポンのタブー
    • 暴力団だけじゃない【反社】の定義
    • 【山口組分裂】報道の最前線
    • 【嵐】休止後の芸能界にタブーはあるか?
    • 本当の【氷川きよし】論
    • 【社会学者】きーちゃんを苦しめる疑惑フォーマット
    • 【湯山玲子】ミサンドリー時代に合った戦略
    • 【音楽学者】芸能の性別越境を回復する存在に
    • 【丸屋九兵衛】ヒップホップときよしの交差点
    • 【ANARCHY】初期衝動を落とし込んだ映画
    • 【SEEDA】ラッパーの禁忌な生き様を描く
    • 世界の過激な【保守派リーダー】
    • 【元芸人】が政治の世界に進出するワケ
    • 【アナ雪】ステマ問題ほんとの戦犯
    • 時代を先取りする【新・麻薬王】の肖像
    • 【医療観察法】の知られざる実態

川瀬もえ、エロくてキュートで清らかに。

川瀬もえ、エロくてキュートで清らかに。
    • 小悪魔【川瀬もえ】が脱ぐ

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

    • 表紙/華村あすか「イオンで十分なんです」
    • 【桜田茉央】ミスマガ受賞者の箱入り娘
    • 【AV界】期待の新人セクシー下着
    • 【鈴木ふみ奈】タレントと企業のカンケイ
    • 【増田と鷲見】のラブゲーム
    • 【AI】がインターネットを根底から揺さぶる
    • 【五所純子】「ドラッグ・フェミニズム」
    • 【萱野稔人】"殴り合い"はなぜ人間的なのか
    • 機構影響を受けぬ【雪まつり】
    • 【丸屋九兵衛】キアヌ・リーブスを語る
    • 【町山智浩】「リチャード・ジュエル」FBIとマスコミの欺瞞
    • 【薬物事件】をめぐる刑罰と報道の問題点
    • 小原真史の「写真時評」
    • 笹 公人「念力事報」/ゴーンの大脱出
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ博物館」
    • 稲田豊史/「アナと雪の女王」にモヤる理由
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 大手ビールメーカー出身者が【ブルーパブ】を開業
    • 更科修一郎/幽霊、闘争で情念を語る少年マンガ。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』