サイゾーpremium  > 連載  > 稲田豊史の「オトメゴコロ乱読修行」  > オトメゴコロ乱読修行【44】/【カーネーション】フェミ論点全部乗せの名作朝ドラ
連載
オトメゴコロ乱読修行【44】

フェミニズム論点全部乗せ! 傑作朝ドラ『カーネーション』は女の一生を描ききったのか?

+お気に入りに追加

――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

1812_cyzo1812_inada_JK_200.jpg

「朝ドラ史上最高傑作」として名高いNHK連続テレビ小説『カーネーション』(2011~12)が、この4月から再放送され話題となった。大正時代、岸和田の呉服屋に生まれた小原糸子(尾野真千子/晩年は夏木マリ)が17歳で服飾の道を志し、21歳で洋装店を起業、92歳で没するまで生涯現役のファッションデザイナーとして働き詰めだった人生を描く。糸子のモデルは小篠綾子。日本を代表するファッションデザイナー、コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコ三姉妹の母親である。

『カーネーション』の内容を一言で言うなら、野心あふれるイノベーターのワーカホリック働き女子が、男に頼ることなくビジネス上の栄誉を獲得するサクセスストーリーだが、ドラマが世に出るのは少々早すぎた感がある。糸子が人生で挑むのは「女性の起業」「自尊心と自己肯定感の確保」「良妻賢母像の否定」「シンママ育児と仕事の両立」「不倫」「同調圧力への反発」「女子の承認欲求」「長女が割りを食う問題」「母娘対立」「老いと衰えの受容」など。その徹底したフェミニズム論点全部乗せ仕様は、むしろ2018年ぽい。

 そんな糸子の生涯でとりわけ興味深いのは、超実力派の女起業家たる彼女の結婚相手が、モブキャラの如くどうでもいい男だという点に尽きる。糸子の人生における夫の役割は塵にも等しく、糸子の価値観や仕事にこれっぽっちも影響を与えない。完全に雑魚キャラとして描かれているのだ。

 しかも、プロポーズをしたのは夫のほうだが、糸子は同業者である夫が自分の仕事人生を邪魔しないという理由でパートナーになることを「許可」したにすぎず、結婚になんのロマンチックな期待も意味も見いださない。プロジェクトとしてのドライな婚姻契約だ。糸子、すげえ。

 やがて夫は出征するが、出征後に彼の安い浮気が発覚。糸子に問いただす機会が与えられることなく、(雑魚キャラらしく)あっさり戦死。以降、糸子は、生涯を通じて夫に何の思い入れも見せないまま最終回まで突っ切る。実に清々しい。

 経済的にも精神的にも男に頼らない、自立女子の完全体。ある種の最終形態たる究極のフェミニズム。2018年現在、この志向に外野が反対する理由はない。実際、糸子はそうすることで栄誉を得た。気高く生きた女の充実人生バンザイだ。

 しかし、現代日本に生きる独身30代働き女子が糸子を両手放しでロールモデルにできるかというと、そうは問屋がおろさない。糸子は「子ども」という、人生のある一定期間にしかゲットできない限定カードを3枚もキープしているからだ。実は『カーネーション』において糸子が獲得した人生の充足は、どこまで行っても「子どもがいる」ことでしか得られないものとして描かれている。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2021年5月号

新タブー大全'21

新タブー大全'21
    • 【森発言は女性差別?】高齢者座談会
    • 広がる【陰謀論とGAFA】の対応
    • 【Qアノン】の主張
    • ビジネス的な【福音派】の布教
    • 【ザ・ボーイズ】が描く福音派
    • 【反ワクチン運動】の潮流
    • 取り沙汰されてきた【ワクチン4種】
    • 【メガIT企業】が触れたタブー
    • 【民間PCR検査】の歪な構造
    • 【NHK】に問われる真価
    • 【テレ東】が身中に抱えた爆弾
    • 【キム・カーダシアン】の(危)人生
    • 【仰天修羅場】傑作5選
    • 月収12万でアイドルが【パパ活】
    • 【パパ活】の背景にある雇用問題
    • 金融の民主化【ロビンフッド】の闇

「小川淳也」政治とコロナと与野党を語る

「小川淳也」政治とコロナと与野党を語る
    • 【小川淳也】政治とコロナと与野党を語る

NEWS SOURCE

インタビュー

    • 【朝日ななみ】新人役者は“嫌われるほど悪い役”を目指す!
    • 【はるかりまあこ】新風を巻き起こす三人官女のサウンド
    • 【SILENT KILLA JOINT & dhrma】気鋭ラッパーとビート職人
    • 【松居大悟】自身の舞台劇をどのように映画化したのか?
    • 【BOCCHI。】“おひとりさま。”にやさしい新人7人組

連載

    • 【都丸紗也華】ボブ、マジ楽なんです。
    • 【アレンジレシピ】の世界
    • 【愛】という名のもとに
    • なぜ【AI×倫理】が必要なのか
    • 【萱野稔人】人間の知性と言葉の関係
    • 【スポンサー】ありきの密な祭り
    • 【地球に優しい】企業が誕生
    • 【丸屋九兵衛】メーガン妃を語る
    • 【町山智浩】「ノマドランド」ノマドの希望と絶望
    • 【総務省スキャンダル】と政府の放送免許付与
    • 【般若】が語った適当論
    • 【小原真史】の「写真時評」
    • 【田澤健一郎】“かなわぬ恋”に泣いた【ゲイのスプリンター】
    • 【笹 公人】「念力事報」呪われたオリンピック
    • 【澤田晃宏】鳥栖のベトナム人とネパール人
    • 【AmamiyaMaako】イメージは細かく具体的に!
    • 【稲田豊史】「大奥」SF大河が示した現実
    • 【辛酸なめ子】の「佳子様偏愛採取録」
    • 伝説のワイナリーの名を冠す【新文化発信地】
    • 【更科修一郎】幽霊、ラジオスターとイキリオタク。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』