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大石始のマツリ・フューチャリズム【1】

伝統がなければ作ればいい――【ダンシング・ヒーロー】で踊る盆踊り

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――日本人のほとんどが知らないうちに盆踊りは急速に進化を遂げていた。その象徴ともいえる楽曲の背景を探る。

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東京某所での盆踊りの模様。夏になると都内各所で夏祭り的盆踊り大会が行われ、「東京音頭」「炭坑節」「オバQ音頭」など盆踊りのスタンダードが踊られる。中には荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」や、ボニーM「バハマ・ママ」のようなディスコ~ユーロビート系の楽曲で踊られる盆踊りも。(写真/ケイコ・K・オオイシ)

 今、盆踊りが注目を集めている――そう書くと驚かれる方もいるかもしれない。しかし、現在盆踊りは、ひそかに盛り上がっているのである!

〈盆踊り〉と一言で言っても、種類はさまざま。「炭坑節」「相馬盆唄」などのスタンダードや「オバQ音頭」「ドラえもん音頭」などのアニソン音頭がかかる高度経済成長期以降に一般化した都市/郊外型の盆踊りもあるし、岐阜の郡上おどりや徳島の阿波おどりなど、その土地固有の文化や習俗と結びついたものもある。前者を〈都市/郊外型盆踊り〉、後者を〈トラディショナル盆踊り〉と分類するならば、近年、「プロジェクトFUKUSHIMA!」が主催するオリジナル盆踊り大会など従来の分類ではとらえきることのできない〈ニュータイプ盆踊り〉が各地で登場しているのだ。また、従来のお祭りへの来場者が増加し、会場を拡大して開催している盆踊りもある。

 そのような隆盛の背景には、“祝祭空間としての盆踊りの可能性”が見つめ直されていることがある。つまり、盆踊りはもともと祖霊供養のための宗教儀式という意味合いを持つものだったが、戦後になってからは宗教性を薄め、地域のレクリエーションとしての側面を強めた“夏祭り的盆踊り”が盛んに行われるようになった、ということだ。現在、そうした盆踊り空間に可能性を見出した人々が、各地で新しいダンスフロアを創造しているのである。 櫓を囲んで形成される踊りの輪と、ひとつの型に則った振り付け、張りめぐらされた提灯とそろいの浴衣。こうした風習さえ守られていれば、かかる音楽はなんでも成立してしまう――。そのような解釈のもと、伝統から解放されたフレッシュな祝祭空間が各地で生み出されているのだ。本連載では、そうした盆踊り、および祭りのニューウェイヴの動きを紹介していきたい。

 戦後盆踊りの歴史において、極めて重要な楽曲がリリースされてから、昨年でちょうど30年を迎えた。その曲というのは、1985年11月に発売されて大ヒットを記録した荻野目洋子のシングル「ダンシング・ヒーロー」だ。

 えっ、あの「ダンシング・ヒーロー」が……? という声が聞こえてきそうだが、この曲は現在の盆踊りにおける、まぎれもないスタンダードとなっている。その人気の中心は愛知、岐阜、三重の東海地方、および静岡。

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