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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第78回

情報発信のオープン化がもたらしてしまった白黒つけたがりすぎる社会

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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『フェアトレードのおかしな真実――僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た』(英治出版)

「エシカルジレンマ」という言葉がある。「ジレンマ」は、2つの選択肢があって、どちらを選ぶのかが決められない状態を指す。ではここに、倫理的という意味を持つ「エシカル」が加わるとどう変わるのだろうか。具体例を挙げてみると、わかりやすいだろう。

 例えばあなたが食品会社の経営者だとしよう。あるヒット商品を発売したおかげで、それまで傾いていた会社は持ち直し、社員たちを解雇しなくても済むようになった。このまま進めば、会社は儲かり、社員も身分が安定し、ヒット商品で社会にも価値を提供でき、「三方良し」になる(「三方良し」とは、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の3つの「良し」で、昔の近江商人が使った言葉として有名だ)。

 ところが世の中は、何が待ち受けているかわからない。

 ある日、このヒット商品に、日本では認められていない食品添加物が加えられていることが社内の調査で判明してしまう。ここで経営者は大きな悩みに直面することになる。彼は外の社会と自社の従業員の両方に対して責任を持っているのだが、もし外の社会に対する責任を遂行しようと思えば、この事実を公表しなければならない。しかしそうなれば、このヒット商品ひとつに社運を賭けている会社は、多分一巻の終わりだろう。社員、そしてその家族たちは路頭に迷ってしまうことになるのは間違いない。

 これは大いなるジレンマだ。社会に対する倫理を優先するのか、それとも社員の生活を優先するのか。

 これこそがエシカルジレンマである。

 こういうケースはあちこちに転がっている。例えば建設会社の談合などが典型的だ。社会的には、談合は法律違反であり許されない。しかし談合があることで、業界の各社は血を流すような値引きをせずに済み、各社が平和にビジネスを展開していける。その状況で、担当者は自社を告発できるのか? 法律違反の自社を告発することは社会正義かもしれないが、それによって同僚や部下が窮地に立たされ、最悪の場合は逮捕されて一生を台無しにしてしまう可能性もあることをどう引き受けるのか?

 選択肢のどちらを選んでもすべてが解決できるわけではなく、大きな副作用が生じてしまう。かといって選択しなければ状況はさらに悪化してしまう可能性がある。そういう時に、人はどう判断すればいいのか?

 このエシカルジレンマを乗り越える方法について、ハーバードビジネススクールのウェブメディアに「『何ができるか』と考えることが良い結果を生む?」と題された興味深い研究内容が掲載されていた。

 エシカルジレンマに直面したとき、多くの人はこう考える。「私は何をするべきなんだろう?」会社の悪事を告発するのか、黙っておくのか、どっちをすべきなんだろうと悩むわけだ。

 しかしハーバードの研究では、この質問の立て方自体が間違いだと指摘している。質問は「何をすべきか」と立てるのではなく、「私は何ができるだろう?」と立てるほうがいい。それによってより良く創造的な答えに持っていくことができるというのが、研究の結論だ。

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