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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第77回

ブログからツイッターへ、進む世代交代と裾野の拡大でネット論壇はどこへ向かう?

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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ツイッターで学んだいちばん大切なこと――共同創業者の「つぶやき」(早川書房)

 1990年代後半の個人サイト文化、2000年代のブログ論壇、そして10年代のツイッターと、インターネットの言論空間はその誕生以来、舞台となる場所を移してきた。現在のネット論壇は、果たしてどういった状況にあるのか? 複層化し続けるこの世界を、今回はあらためて総括してみたい。

もともと日本のインターネットの言論空間は、ブログを中心に広がってきた。私は2008年に『ブログ論壇の誕生』(文春新書)という本を書いたこともある。このブログ文化が急速に変容し、ネット言論がより重層的な形に変わってきたのは、11年の震災後といえるかもしれない。こうした変わりようを今回は追ってみたい。

 変化の要因は3つある。まず第一に、ツイッターという新たな情報基盤が普及してきたこと。第二に、雑誌文化が急速に衰えて存在感をなくしてしまったこと。第三に、ネットの世代交代が進み、デジタルネイティブ第一世代だったロスジェネに加えて、80年代以降生まれが台頭してきたこと。

 第一のツイッターの普及は、ブログの時代と比べてネット言論への参加者を格段に増やしたという影響がある。都市住民を中心とした一部の知的な遊びだったブログと比べると、ツイッターやフェイスブックを使う人は老若男女、都市地方にまたがって広がってきたからだ。一方で、ソーシャルメディアはその特性から、閉鎖的なクラスターになりやすいという問題も起きている。

 第二の雑誌の衰退は、今のところあまり論じられていないが、非常に重要な問題をはらんでいる。ひとつは、「鉄道文化」「建築文化」「アウトドア文化」「家庭料理文化」など、さまざまな分野の多様な文化を下支えするメディアがなくなってしまったこと。パソコン系やガジェット系、萌え系などネットに基盤が移行していった文化もあるが、全体として見ればそういう移行がスムーズに行われたのはごく少数であり、趣味や専門分野の空間を包含するメディアがなくなったことで、文化が宙ぶらりんに置いていかれるという問題が起きている。また雑誌の衰退によって、「プロの書き手」が激減してしまったという事態も起きている。具体的に言えばフリーライターやフリージャーナリストといった職業の人たちだ。この人たちが雑誌で食べられなくなり、かといってネットメディアではそれほどの収入を得られず、結局は職を離れるケースが相次ぎ、ライターという職能集団が消滅しつつある。これに加えてネット言論が浸透してきたことで、プロ並みの文章が書ける専門家も増えて、プロのライターとアマチュアのライターの境界がなくなってきている。これまで専業ライターの牙城だった雑誌や書籍にも進出して原稿を書いたり、本を出したりするような人が増えた。フラット化が進み、文章を書く「プロ」という仕事は消滅していくのかもしれない。

 第三の要因である、ネット世代の交代。私は99年頃からネットの世界をずっと見てきたが、ここに来て台頭してきた80年代生まれ以降の世代は、70年代生まれのロスジェネ世代と比べると際立った特徴がある。端的に言えば、被害者意識に乏しく楽天的で、冷笑的ではなく共感的、ということだ。

 こうした新世代の文化を象徴しているのが、例えばシェアハウスなどの共有文化であり、フェイスブックのような悪意の少ないメディア空間であり、「意識高い系」などと旧世代から揶揄されるような社会参加意識の高さだといえるだろう。かつて梅田望夫さんが「日本のネットは残念」と発言して物議を醸したことがあったが、彼が期待していた「アメリカ的なインターネット」に近い層がいまの80年代以降生まれなのかもしれない。

「意識高い」とマイルドヤンキー混在 多層化した言論空間をどう貫くか

 この世代のネット言論の特徴を説明するためには、彼らの文化的なバックグラウンドを考えておく必要がある。 

 この世代は、先進国の経済的状況を反映し、ライフスタイルは質素でミニマルだ。しかし必ずしもそういう質素な生活を彼らが求めているわけではなく、そこにはきちんと合理的な判断が働いている。

 そもそも生活の豊かさとはなんだろう。バブル経済の頃までの、ブランド品を持ち、カッコいいクルマを所有するというような記号消費的な豊かさはもはや消え失せている。そもそも、そうした記号消費の豊かさが成立するのは、「ブランド品を持っているのがカッコいい」「高いクルマを所有するのがカッコいい」と他者が認めてくれたからだ。しかし今の時代は、そんなものを他者が認めてくれなくなり、収入がたいして高くないのにブランド品を持っていても「無理してるねえ」「背伸びしすぎだねえ」と憐憫の情を持たれるだけになってしまった。

 そこで生活の豊かさを示す指標として、記号消費ではなく、もっと別のスタイルが浮上してきている。それがシェアハウスのような共有文化であり、フェイスブックの「いいね!」のようなソーシャルメディアでの他者からの承認である。

 こういう新しい豊かさ、新しい文化を担っているのが、80年代以降に生まれた若い世代であるといえるだろう。

 この世代は、10年代半ばになってネット言論の中で可視化されてきた。一方で2ちゃんねるやブログに体現される古いネット世代は最年長組が40代に達しており、中高年の仲間入りをし、これはこれでまた別のかたちのネット層を形成してきている。さらに最近は、スマホが地方にも普及することによって、地方住民も都市住民と同じウェブのサービスを使うようになり、ツイッターやフェイスブックに流入してきている。このような「マイルドヤンキー」層のソーシャル流入も注目すべき動きのひとつだ。

 このようにして、格差社会化と世代交代、都市と地方、そしてパソコンから携帯電話へ、携帯電話からスマホへというネットのテクノロジーの進化が起きてきている中で、ネット言論空間の重層化が加速しているのが2014年の現実と言える。

 今後、この複雑に多層化した言論空間をどう横断的につなぎ、どう新たな世論を形成し、民主政治を維持していくのかということが大きな社会的課題になっていくといえる。そしてそのような状況変化が続く中で、ネットメディアの市場もここに来て大きく変わってきた。

 その最大の変化は、キュレーションメディアやキュレーションアプリなどと呼ばれている新しいジャンルのウェブメディアの普及である。グノシーやスマートニュース、LINEニュース、ニューズピックスなどがそれに当たる。ウェブ上に流れている新聞や雑誌、ネットメディアなどさまざまなニュースソースを収集し、アルゴリズムによって自動判別し、パーソナライズするなど読者に最適化した形で記事を届けているメディア群だ。これらのメディアの将来可能性にはかなり期待感が高まっており、実際、小規模なベンチャー企業であるグノシーとスマートニュースは、両社とも10億円を超えるような巨額の資金調達に成功している。

 こうしたキュレーションメディアの特徴は、従来のような都市部の一部のネットユーザーだけでなく、スマホの普及を背景にして都市も地方も、また広い年齢層を取り込んだ幅広い利用者層へとリーチしていく可能性を持っていることだ。つまりは、新聞やテレビなどのマスメディアの代替物になる可能性を持っているということである。

 今後はテクノロジーの進化によって、新聞の世論調査よりずっと精緻なビッグデータ分析も行えるようになるし、世論をそのようにして正確にすくい上げることもすでに可能になってきている。技術的基盤を活用することで、キュレーションメディアが公共圏の土台となり、政策決定や社会の関心事の設定へと結びついていくのは十分に可能だ。これが新しい民主主義の萌芽になっていくことが、ひょっとしたら期待できるかもしれない。

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佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主著に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版)ほか。

【佐々木が注目する今月のニュースワード】

■Talko
ロータスノーツを作ったことで有名なレイ・オジーが、音声通話と音声メッセージの共有、通話しながら画像共有などができる「音声ソーシャルメディア」を開発。リアルタイムでなくても可能な音声の会話という新しいあり方。

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■ゲーム実況
海外でも日本でも、人気動画コンテンツとなりつつあるゲーム実況。ビデオゲームをやりながらその様子を配信するというだけだが、ニコニコ動画の再生数のうち34%はゲーム実況。海外でもアマゾンがゲーム実況サービスのTwitchを巨額買収して話題を呼んでいる。

■体温発電
フィルム状のグラスファイバーに熱発電装置を印刷し、体温で発電する超軽量の仕組みを韓国科学技術院が開発。これが実用化されれば、ウェアラブルの電池問題は解決するかも。

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