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サイゾー×プラネッツ『月刊カルチャー時評』VOL.29

『STAND BY ME ドラえもん』 高完成度な“電通の『ドラえもん』”が残した違和感と哀しみ

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批評家・宇野常寛が主宰するインディーズ・カルチャー誌「PLANETS」とサイゾーによる、カルチャー批評対談──。

宇野常寛[批評家]× 真実一郎[現役サラリーマン]

 今夏公開の3Dアニメ映画『STAND BY ME ドラえもん』は、すでに興行収入70億円を突破する大ヒット作となっている。「泣き」の側面を強調した宣伝手法や、広告と結託したやり方には批判の声もあるが(こちら参照)、果たしてこの映画は、新しい『ドラえもん』の形を示すことができたのだろうか?

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3Dでも思った以上に可愛いしずかちゃんとドラえもん。

真実 僕はまんまと泣かされました。今作の印象は、物語として非常によくまとまっているな、と。僕は「コロコロコミック」を創刊号【1】から読んでいた『ドラえもん』直撃世代なんですよ。しかも子どもの頃は海外にいて、『ドラえもん』で日本の学校文化のすべてを学んだといっても過言ではないんだけど(笑)、その目線で観ても今回の3D映画に違和感はなかった。表現的には、例えば雪山のシーンとか『モンスターズ・インク』(01年)を彷彿させて、ピクサーをかなり意識しているのかなという印象も持ちました。

 今回批判があるのは、「成し遂げプログラム」の設定なんですよね。セワシくんがセットしたこのプログラムでドラえもんはイヤイヤ現代にいる、という。否定派は「ドラえもんとのび太は友情で結ばれていないと」ということなんでしょうけど、『トイ・ストーリー』のバズとウッディみたいに、当初仲が悪かったからこそ最後に仲良くなることに意味があるのはよくある話だし、個人的にこの改変はそんなに気になりませんでした。

宇野 僕は、完成度は高いし、企画としては満点だと思いました。これまで3DCGの作品ではなかなかかわいいキャラが作れなくて、人間に似せれば似せるほどうまくいかなくなるという”不気味の谷”問題があったんだけど、今回はそれがほとんど気にならなかった。その問題を乗り越えて、この規模でヒットしたものって、日本でおそらく初めてですよね。しかもそれがいわゆるオタク系のアニメ文化とは少しズレたところであるROBOT・山崎貴ラインから出てきた。彼らの作ってきたものは全部メジャー路線だし、オタク的なフェティッシュとも切り離されたところにあるのでちょっとマニアには敬遠されがちなところもあるんだけど、全然馬鹿にしたもんじゃないな、というのが第一印象です。さらにそういうテクニカルな部分に加え、シナリオ的な泣かせ演出も優れていた。あれは真実さんの指摘通り、完全にピクサーですよね。対象喪失の使い方や、子ども向けにわかりやすい物語を提示しつつも、大人になってしまった親世代の郷愁を誘う構造なんかは完全にゼロ年代ピクサーのノウハウで、非常に良くできていた。

 ただ一方で、「これは果たして『ドラえもん』なのかな?」という気持ちがどうしても残ってしまった。一番大きいのは、ひみつ道具によるワクワク感というか、センス・オブ・ワンダーの感覚がほぼ消滅している点。『ドラえもん』のメインテーマって、「あんなこといいな、できたらいいな」じゃないですけど、「科学する想像力」ですよね。でも、今回の映画では「のび太の成長物語」が主題になっていた。原作だと、のび太の成長物語は”方便”にしか使われていなかったと思うんですよ。『さようならドラえもん』や『帰ってきたドラえもん』だって、一旦連載を終わらせることにしたけどやっぱり再開するってことで、便宜的に藤子・F・不二雄が描いたもの。その方便でしかなかったはずの成長物語が全面化していた点が、僕は非常に気になった。むしろ『ドラえもん』は本来、のび太を成長させないことによって無限反復を可能にしていた作品で、藤子・F・不二雄はある時期までは、大長編ですらのび太をいかに成長させないかというゲームを戦っていた。だから成長するのはいつもジャイアンやスネ夫だったし、物語の解決も「のび太が勇気を出して皆が感動して危機に立ち向かう」とかではなくて、『のび太の大魔境』(82年)や『のび太と鉄人兵団』(86年)みたいにひみつ道具のアクロバティックな使い方によって勝ったり、『のび太の日本誕生』(89年)みたいにタイムパトロールが勝手に助けに来て勝つとかだったわけです。あれは、いかにのび太を成長させないまま、日常的なセンス・オブ・ワンダーの話を描くか、フロンティアが消滅しつつあった20世紀後半の社会の中で、どう子どもに冒険を提供するかということだったはず。そういう藤子・F・不二雄の知的格闘がすべて忘れ去られ、のび太のウェルメイドな成長物語になってしまったことが、僕は結構ショックだった。

真実 今回、いちサラリーマンとして思ったのは「これは”電通のドラえもん”だな」ということ。今まで『ドラえもん』はアサツーディ・ケイ(ADK)がアニメの版権を独占していて、ほかの広告代理店が手を出せない構造になっていた。でも聞いた話では、「2D(平面)のドラえもんはADKのものだけど、3Dはまた別コンテンツのはずだ」というアクロバティックな理屈を考えた天才がいて(笑)、「3Dは電通の版権」ということになったようなんです。考えた人はサラリーマンの鑑だなと思うんですが、これによって今までの規制や呪縛から離れたドラえもんを作れるようになり、原作改変的なことも含めてできるようになったんだと思います。おそらく意識的にだと思いますが、いろんなレベルでADKの『ドラえもん』と差別化しているんですよ。映画の中に広告をガンガン入れたり、大人をターゲットにしたパブリシティを展開したり、「ドラ泣き」って言葉を作ったり、とにかく広告的な仕掛けが満載。だからこれは、”電通のドラえもん”の始まりにすぎないんじゃないか。3Dでシリーズ化を目論んでいると思う。

宇野 最近の大手広告代理店が手がけるCMは本当に寒いな、と思うことが多いけれど、その中で『ドラえもん』絡みは外していないもののひとつだと思う。『ドラえもん』は、1950年代後半生まれから平成生まれまでを貫く強力なコンテンツ。日本人に刻み込まれたその記憶資源を有効に活用して、そこにピクサー的な脚本術を加えているわけで、大人の巻き込み方のレベルは子ども向けアニメ映画の基準を圧倒的に超えている。

真実 『ドラえもん』ほどの国民的コンテンツでも、少子化で先細りするという危機感があったんじゃないかと思うんです。そこに電通が超一流のナショナルスポンサーを連れてきて、親子に限らず大人だけでも観られるものを作って活性化した。今作は、やって正解だったと僕も思います。これで興行成績的に頭打ち状態の2D【2】のほうも刺激を受けて、「このままじゃいけない」と進化するのでは。

宇野 アニメの『ドラえもん』、特に大長編は佳作はちらほらあるけれど苦戦してきていますよね。80年代の大長編シリーズは藤子不二雄がすごく力を入れて書いていただけあって、レベルがめちゃくちゃ高かった。その脚本術を失ってしまったときに取るべき道として、「藤子・F・不二雄と同じようなことをやりたいけど追いつかない」ということを繰り返している今の路線がいいのか、藤子・F・不二雄が便宜的に作ったものを抜き出して、まったく別の泣かせストーリーを捏造してしまった今作がいいのか選択を迫られていて、少なくとも市場の支持は後者にあることがはっきりしてしまった。

『ドラえもん』はこれから『妖怪ウォッチ』とどう戦うか

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