サイゾーpremium  > 連載  > 丸屋九兵衛の音樂時事備忘「ファンキー・ホモ・サピエンス」  > 【連載】丸屋九兵衛の「ファンキー・ホモ・サピエンス」
連載
丸屋九兵衛の音楽時事備忘録「ファンキー・ホモ・サピエンス」【9】

あの改名男、次なる挑戦 怪獣語尾はファンクの印!

+お気に入りに追加

人類のナゾは音楽で見えてくる! ブラックミュージック専門サイト「bmr」編集長・丸屋九兵衛が”地・血・痴”でこの世を解きほぐす。

『7 Days of Funk』7 Days of Funk

1403_FHS_01.jpg

(発売元:Stones Throw)
趣味が高じて形になったものなので、作業に〆切はなく、当初はリリース元のレーベルすら決まっていなかったとか。件のブーツィ・コリンズが参加、いつものブーツィ節(ヴォーカル)を披露している。また、よりマイナーなファンク・バンド「スレイヴ」のスティーヴ・アーリントンもフィーチャー。これはデイム・ファンクの趣味だろう。


 怪獣名の欧文表記について考えてみたい。

 ガメラはそのままGamera。ラドンは、ちょっとヒネってRodan。しかしゴジラは……Godzillaなのだ。知ってる人も多かろうが。

「ゴリラ(とクジラ)」という命名起源を思い出させる語尾「illa」。神罰のごとき天災(実は人災だが)を象徴する「God」、そして終末をイメージさせる文字「z」の挿入。語感の達人、ルイス・キャロルが生きていたら感嘆したであろう、絶妙な造語センスである。作品自体の知名度と、その語感に心を打たれてか、芸風(?)に取り入れてしまったアーティストまでいる。そう、ブーツィ・コリンズだ。

 ブーツィといえば、ジェイムズ・ブラウン全盛期を支えた凄腕ベーシストにして、70年代後半の米音楽界で異臭を放った「Pファンク軍団」の大物。その彼にとって最大のヒット曲は、78年にブーツィーズ・ラバー・バンド名義で発表したBootzillaである。「ブーツィ+ゴジラ」だからブーツィラ。街を破壊するファンク怪獣……ではなく「ねじまき式の怪獣人形」という設定がキュートだが、なんにせよ、このBootzillaの大ヒットによって、アメリカ黒人たちの脳裏には、こう刻まれた。「zilla=ファンク」と。

 この刻印が35年の時を経て結実したのが……「スヌープジラ」なのだ。

 本連載第1回のテーマは、「人気ラッパーのスヌープ・ドッグがレゲエに転向し、スヌープ・ライオンと改名!」という件だった。それから1年も経っとらんのに、またも改名したのだ、あの野郎は! 「スヌープ・ライオン」にレゲエという命題があったのと同様に、今回の「スヌープジラ」改名が目指すところは――文脈からおわかりのとおり――ファンクである。

 そんなスヌープ・ドッグ改めスヌープ・ライオン改めスヌープジラが結成したユニット、それが7 Days of Funkだ。相棒は肩まで伸びたストレートヘアがトレードマーク(黒人男性の直毛は「非・堅気」の証明)のデイム・ファンク。カリフォルニア州パサデナ出身のファンクなキーボーディスト兼シンガー兼DJである。デビュー作は09年だが、活動開始は88年……えらい遅咲き! とにかく、長年のあいだ西海岸や南部のギャングスタ・ラップ作品に鍵盤奏者として参加しつつ、ファンクへの情念を燻らせていた男だ。

 紆余曲折を経てソロ活動に至ったデイムのアルバム『Toeachizown』は、デビュー作にしてCD2枚組、LPではなんと5枚組という、イチゲンさんお断りのハードル高め設定。ちなみに、1曲あたりの長さは最大10分。これまたハードルが高いが、ファンクらしくもある。

 このデイム・ファンクとスヌープの出会いは2011年初頭。とあるヒップホップ・アートの展示会で音楽を担当していたデイム・ファンクの鍵盤が奏でるファンクイズムに感銘を受けたスヌープが、デイムの演奏中に飛び入りし、勝手にフリースタイル・ラップを始めたのが、二人のファースト・コンタクトだったという。

 ロサンゼルス近郊出身、四十路、そしてファンク偏愛主義者。これらの共通点を持つ二人が意気投合するのは運命だったのだろう。以来、ヒマを見つけては共にスタジオ入りし、趣味に走った音楽をコツコツと作ってきた、このコンビ。それらの曲――デイムが作るファンク・サウンドに、スヌープが歌やラップを乗せる――をまとめたのが、このユニットのセルフタイトル・デビュー作『7 Days of Funk』なのだ。

 スヌープは、「俺たちは二人ともマザーシップの子どもたちだ」と発言している。マザーシップとは「チョコレート天の川から母船に乗って地球に来た」と称していたPファンク軍団のことであり、スヌープとデイム・ファンクはその影響下で惹かれ合った、という意味だ。そんなスヌープの想いを汲んでか、デイムは自ら課した「シンセサイザーはアナログに限定」「サンプリング禁止」という制限のもと、本作のサウンドを構築した。

 チマチマと手作業を重ね、アナログでアナクロな小品(40分未満)を作り上げた長髪黒人オヤジ二人。その片割れが、ヒップホップ界最大のスターの一人、スヌープであるという事実。それ自体が事件ではないか、と思う。

丸屋九兵衛(まるや・きゅうべえ)
老舗ブラックミュージック雑誌あらためウェブサイト『bmr』の編集長。台北のストリートやオタク文化、肉食ざんまい、男装女子♡などについて書いた『史上最強の台北カオスガイド101』が1月末に発売された。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論
    • 音楽業界からの【賛辞と批判】
    • 【芸能プロ】的戦略が抱える2つの“矛盾”
    • 令和の【ジャニーズ・シングル】20選
    • 20年代のジャニーズ【ミュージックビデオ】

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

サイゾーパブリシティ