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宇野常寛の批評のブルーオーシャン 第43回

「指先」と「動体視力」

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──既得権益がはびこり、レッドオーシャンが広がる批評界よ、さようなら!ジェノサイズの後にひらける、新世界がここにある!

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AKB48「ハート・エレキ」

 AKB48の最新シングル「ハート・エレキ」(10月30日発売)には、表題曲に加え「快速と動体視力」というカップリング曲が収録されている。この2つの楽曲はともにある種の恋愛観、ひいては人間観を歌いあげた双子のような曲だと僕は考えている。

 そう、この2曲はどちらも、言葉の限りを尽くした深い相互理解だとか、長い時間をかけて育んできた繊細な関係性だとか、そういったものが恋愛の、そして人間関係の本質であるという思想に真っ向から「否」を突きつけている。そうではなくて、視線や指さしを交わす一瞬の承認(されたような錯覚)のほうが恋愛にとって、人間にとっては大事なのだという思想を強く訴えたのがこの2曲なのだ。

 少し歌詞を読んでみよう。「ハート・エレキ」の歌詞にはこうある。

『世界のどんな言葉探してもニュアンス違うだろう/もどかしい今の気持ち/この指でしか伝えられない』──あるいは「快速と動体視力」はどうか。これは、毎朝通学の電車で見かける女の子に主人公の男の子が片想いしていて、しかし告白する勇気はなく、どんどん電車の中で彼女を目で追う能力だけが進化していく、というちょっとストーカーっぽい曲なのだが(笑)、こちらの歌詞には、『どんどんとよくなるのは/関係じゃなくて動体視力』というフレーズがある。

 アイドルファンの多くがここで想起するのは、いわゆる「レス厨」の存在だろう。「レス」とはコンサートで、ステージ上のメンバーの名前をファンがコールした際に、メンバーが指差しなどで応答する行為のことをいう。もちろん、コンサート会場には複数のファンがいるので、この「レス」の何割かはファンの側の妄想である。しかし、この「レスをもらったような気がする」ことに強い快楽を見いだし、コールに命をかける「レス厨」が存在するのは事実だ。

 握手会などのイベントで、アイドルと直接言葉を交わして仲良くなるよりも、妄想かもしれないけれど、コンサート中にレスをもらって目と目が合って、指を差し合って瞬間的に「高まる」。これこそがアイドルのもたらす一種の疑似恋愛の本質なのではないか……というのが、この2曲で秋元康が描いた世界観にほかならない。

 そして、ここからが興味深いのだが「会いに行けるアイドル」をコンセプトにしているAKB48グループは、単にステージ上で歌や踊りを見せるだけではなく、実際に握手会やGoogle+でメンバーとファンがコミュニケーションを取れ、さらにファンが選挙を通じて運営に参加できる、というシステムを用いて勝ってきたグループであることは間違いない。言ってみれば、「指先」ではなく「言葉」。「動体視力」ではなく「関係」の快楽こそを武器にしてきたはずなのだ。

 しかしこの2曲の世界観はその逆だ。むしろ最小限の、それも実質的には一方通行のコミュニケーション(片思いと妄想)こそが、選挙や握手会やソーシャルメディアではなく、ステージの上の歌や踊りの表現が発生させる一瞬の高まりこそが本質であると訴えているのがこの曲なのだ。

 そしてさらにこれは、あの「恋するフォーチュンクッキー」の直後のシングル曲だ。「恋チュン」は誰でも踊ることができる、ダンスに参加できる曲というのがコンセプトだ。その上、"指原莉乃"という総選挙の代名詞のための曲でもある。つまりこの比喩でいうと、「指先」ではなく「言葉」。「動体視力」ではなく「関係」側の象徴の曲なのだ。そしてこの「恋チュン」の直後に、秋元康は正反対の世界観を持つこの曲を――「ハート・エレキ」と「快速と動体視力」を――持ってきた。

 実に秋元康らしい発想だ。実力主義で弱肉強食の総選挙と、完全に運で決まるじゃんけん選抜という相反するイベントを同時開催する。相反する2つのものを組み合わせて、そこでダイナミズムを発生させるのが秋元康の常套手段だ。

 しかしそれ以上に、握手会、総選挙、Google+――「言葉」の「関係」の快楽に依存してきた秋元康が最後の最後に信じているのは、むしろコミュニケーションの要素を最低限に抑えた歌と踊りの快楽、「劇場」のもたらす快楽なのではないか。あらためてそう思わせる2曲だった。

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うの・つねひろ
1978年生まれ。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。批評誌「PLANETS」の発行と、文化・社会・メディアを主軸に幅広い評論活動を展開する。著書に、『ゼロ年代の想像力』(早川書房)、『リトル・ピープルの時代』(幻冬舎)、『こんな日本をつくりたい』(共著/太田出版)など。

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