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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第64回

ネット企業4強の一角・アマゾンはなぜソーシャルに参入しないのか?

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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アマゾンの「ベストレビュアー」ページより。毎年上位にランクインしていると「レビュアーの殿堂」入りできる。

 フェイスブック、グーグル、アップル、アマゾンを指して「ネット企業4強」という呼び方がある。どれもプラットフォーマーとして巨大な存在感を持つが、この中で唯一アマゾンだけが「ソーシャル」を取り込んだ機能を持っていない。今月は、アマゾンがそこに手をつけた場合のシミュレーションと、デメリットを考える。

 アマゾンは巨大なプラットフォーマーでありながら、ソーシャルメディア的なものに一切興味を持たないでここまでやってきた。ネット4強と言われる企業群だと、フェイスブックはまさにソーシャルで、これに追いつけ追い越せと頑張っているのがグーグルのGoogle+。アップルも以前はPingというソーシャルメディアを運営していた(失敗して終了したが)。それに比べると、アマゾンは何もやっていないように見える。

 もちろん、ユーザーレビューはある。しかしそれは厳密にいえば、ソーシャルメディアではない。書かれたコンテンツは確かにユーザーが生成したUGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)だ。だがアメリカのベンチャーキャピタリスト、トーマス・タングズはソーシャルメディアには以下の3つの要素が必要だと定義している。

「ユーザーのプロフィール」「ユーザーとユーザーの間の関係性」「ユーザーの情報のフィードと共有」

 アマゾンにはレビュアーのプロフィールのデータがあるが、それを読むユーザー個々人のプロフィールページがあるわけではない。またユーザーはレビュアーの文章を一方的に読むだけで、交流するような仕組みはほとんど備えられていない。もちろん情報のフィードもない。これはレビュアーとだけでなく、販売している本の著者との関係でも同様だ。だからアマゾンは外見的にはソーシャルメディアとはいえない。

 しかしアマゾンは実は、ソーシャルメディア的な構造を内包している。

 これは昔からよく知られている話だが、アマゾンは協調フィルタリングという技術を使って、利用者に商品をお勧めしている。簡略化すると次のような技術だ。例えば鈴木さんという人が、ABCDの4つの商品を購入していたとする。これに対して田中さんはABCEの4つの商品を購入している。鈴木さんと田中さんはABCを共通して購入しており、趣味嗜好が似通っていることが予測される。そこで鈴木さんには「Eを購入したらどうですか」、田中さんには「Dはいかがでしょう」とお勧めする。このような考え方が協調フィルタリングの基本だ。

 アマゾンのシステムでは、鈴木さんと田中さんはお互いの存在を見ることができない。ただ「この商品を買った人はこんな商品も買っています」という表示から、「自分と同じ趣味の人がどこかにいるんだな」と、おぼろげながらに知ることができるだけだ。だから見た目上は、物販サイトの即物的な関係にすぎない。

 しかし鈴木さんと田中さんがアマゾンのサーバーの中では同じ趣味嗜好でつながっているというのは、これはまさにソーシャルメディアでいう「インタレストグラフ(興味対象でつながる人間関係)」である。

 ではなぜアマゾンはこのインタレストグラフを可視化させ、巨大なSNSへと進化させないのだろうか? アマゾンのユーザー数は膨大で、しかもフェイスブックのリアルの人間関係(ソーシャルグラフ)よりもアマゾンのインタレストグラフのほうがずっと重層的であり、広告などによるマネタイズも容易だ。アマゾンSNSが出現したら、ネット業界にとって大激震になるのは間違いない。

ソーシャル化することのメリットとデメリット

 アメリカの電子書籍関連メディア『デジタルブックワールド』に掲載された「アマゾンは非ソーシャルか?(Is Amazon Asocial?)」という記事は、もしアマゾンがソーシャルメディアになったらどのようなことが起きるのかを考察している。

 例えば書籍のレビューを見ようとすると、「最も参考になったカスタマーレビュー」という現在のランキング的な表示方法ではなく、自分のソーシャルネットワークの中で信用している人や注目している人のレビューが主に表示されるようになる。洗練されたSNSでは、ユーザーが影響を受けている人は誰なのかという情報が重要視されるからだ。フェイスブックでもエッジランクというテクノロジーによって、友人たちが流したフィードがフィルタリングされて表示されている。

 そうした人が、どんな本を買ったかもわかるようになる。書籍のページを開くと、「この本はあなたの友人の○○さんが購入しています」と表示されることもあり得るだろう。

 アマゾンで本を販売している著者と読者が、相互交流できるような仕組みも作れる。これはマス市場を相手にするベストセラー作家より、KDP(キンドルダイレクトパブリッシング)を利用して少部数で勝負する独立系の書き手にとって大きなメリットを持つ。これらの独立系作家にとっては、アマゾンが最重要の流通手段であり、最重要のマーケティングツールになっているからだ。

 アマゾンが売上データをより詳細に著者に提供すれば、この機能はさらに進化していくだろう。今のように月別ではなく、日別、あるいはリアルタイムの売上状況がわかるようになれば、アマゾン上での読者とのやりとりといった行為がどのように読者を刺激し、売り上げに反映されているのかを著者はすぐさま認識し、分析できるようになるからだ。

 アマゾンの現在のレビューは問題が多い。著者が個人的に嫌いだというだけで、星ひとつをつけるようなひどいレビューはあふれ返っている。難解な純文学作品に「ハリーポッターみたいなわかりやすさがない」とか低い評価を与えているのを見ると、ちょっと絶望的な気分になる。

 一方で、ステルスマーケティングとしか思えないようなべた褒めレビューが大量についている自己啓発本もあったりする。そういう中から、有用なレビューを見つけ出すのは結構難しい。これもレビュアーをきちんと評価する仕組みができあがっておらず、またレビュアー個人がどのような人であり、自分とどのぐらい近いところにいる人なのかということが可視化されていないからだ。

 本にはさまざまなコンテキストがある。ハイコンテキストで難易度の高い本から、ローコンテキストで誰でも読める本まで、本の世界はさまざまだ。しかしそうしたコンテキストの温度差を無視してしまっているために、アマゾンのレビューにはノイズが大量に流入してしまっている。

 そういう意味で、アマゾンは膨大な数のレビューというコンテンツを持っているにもかかわらず、ソーシャル化されていない弱点があるために、そのコンテンツを有効活用できていないともいえる。

 かといって、アマゾンではない第三のプレーヤーが独自に書籍や商品のインタレストグラフを元にしたソーシャルメディアを作ろうとしても、多分うまくいかない。なぜならアマゾンが持っている巨大な商品情報の集積には今さら到底かなわず、外部のウェブサービスがソーシャルメディアを作っても、最終的にアマゾンの商品データを利用せざるを得ないし、そこに購入導線を引いてしまえば、結局儲けはアフィリエイト収益でしか成り立たず、マネタイズの大半はアマゾンに持っていかれてしまうということになるからだ。

 そうであればアマゾンにとっては、物販のプラットフォーム自体が盤石なら、そういうソーシャルメディア的なサービスは外部に作られてもまったく構わないということになるだろう。さらに言えば人は商品を購入するときに、他人に何を買ったのかを知られたくないという問題もある。だとしたらアマゾン自体は非ソーシャルで匿名性の高いままで続いていったほうが、結局はいいということになる。これこそが、アマゾンがソーシャルメディアにならない最大の理由ということなのかもしれない。

佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主著に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)ほか。6月5日に『レイヤー化する世界』(NHK出版)を上梓。

ピューリッツァー賞受賞メディアの年間予算

55,000ドル
■2013.4.15 調査報道専門のネットメディアに注目
気候変動の調査報道に特化した、米ネットメディア「InsideClimate News」の年間予算。スタッフも7人しかいないが、ピューリッツァー賞を受賞する快挙を成し遂げた。ニュースメディアもスモール化の時代。

【佐々木が注目する今月のニュースワード】

■iTunes Radio
アップルが、いよいよラジオ的な定額音楽配信サービスに乗り出す。アメリカでは9月に開始。後発だが、iTunesの個人の購入・視聴履歴のビッグデータをフル活用できるのは大きなアドバンテージになりそう。

■Kindleオーナーライブラリ
Amazonプライムに加入しており、Kindle端末を所有しているAmazonユーザーは、数千冊のタイトルから好きな本を1カ月に1冊、無料で読めるように。ただ、今のところはなぜか古いヤクザマンガが多い。

■ライアン・ヒガ
YouTubeの新しい王者。23歳ながら、動画を配信して広告で儲け、3人のスタッフも雇っている。そしてファンは970万人。ハワイ出身。

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