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「テクノロジーから見る! 業界アウトルック」No.09

「Google glass」で再過熱するウェアラブル 普及のための最大の課題は"格好悪い"こと!?

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もはやどんな事物もテクノロジーと無関係には存在できないこのご時世。政治経済、芸能、報道、メディア、アイドル、文壇、論壇などなど、各種業界だってむろん無縁ではいられない──ということで、毎月多彩すぎる賢者たちが、あの業界とテクノロジーの交錯地点をルック!

[今月の業界と担当者]
ウェアラブル業界/森山和道(サイエンス・ライター)

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Googleが発表したGoogle glassは、開発者向けに販売されて以降、多くのメディアで賛否両論を巻き起こしている。カメラを標準装備しているため、プライバシーの侵害を懸念する向きも多い。

 今月の「ファッション特集」では触れられなかったが、現在、ITをファッションに取り込もうとする動きが散見される。今年5月、Googleが一部開発者向けとして、新しいウェアラブル・デバイス「Google glass」を販売し、大きな話題となった。果たしてウェアラブル・デバイスは今後人々の生活に浸透していくことになるのだろうか? 気鋭のサイエンス・ライターが、その未来を考える。

 最近また「ウェアラブル・デバイス」という言葉が流行し始めている。ファッションあるいはアクセサリーのように、身につけるデバイスだ。

 アイデア自体は1980年代からあり、10年ほど前にも言葉自体は流行った。だが市場は拓けなかった。しかし、Woodman Labsの「GoPro」に代表されるアクションカメラが業務用として活用されたり、アウトドアスポーツを楽しむ様子が撮影された動画が動画共有サイトに出回ってから、リバイバルし始めた。

 動画共有を通じて人々は気づいたのだ。自分が楽しんでいる様子を撮影し、多くの人と共有することは、とても楽しいことなのだと。

 楽しさだけがウェアラブルの用途ではない。Nikeのようなスポーツメーカーも運動量計測やカロリー推定用の小型デバイスを出している。睡眠・運動・食事などライフログを取るためのリストバンド「Jawbone UP」も人気がある。

 さらに最近はGoogleによる眼鏡型の透過型ヘッドマウントディスプレー(HMD)兼カメラ「Google glass」が一部開発者向けに配布され、アップルも腕時計のようなデバイスを発表するのではないかと言われている。市場化探索の新たなムーブメントが始まったことは間違いない。

 背景には、センサーや入出力インターフェースが軽量化・小型化され、身につけるための負荷がだいぶ下がったことがある。

 そしてデバイスを開発し、業界を牽引している企業は、ネットワークサービスがあまねく普及した今、さらなるサービスを考え出さないといけなくなっているのだろう。なんにせよ、多くのサービスをブラックホールのように吸収するスマートフォンとの連携は必須だ。

 IT最大のアプリケーションがコミュニケーションにあることは、もはや自明だ。誰もがあらゆる隙間時間にSNSを使っている。スマフォの操作性とコミュニケーションアプリの中毒性は恐ろしい。

 だが、現在のようにスマフォを下を向いて使い続けるのは、どう考えても最適解ではない。新たな解の模索のひとつとして、ウェアラブルのコンセプトである、常に身につける透過性の高いインターフェースの可能性を探るのは必然である。

 だが、GoProのようにスポーツを楽しむような「ハレの場」に身につけるデバイスならいざ知らず、Google glassのような常時着用型にはどんな利点があるのだろう。

 世の中には幸せそうな家族もいなければ素敵なペットも飼っておらず、旨そうなランチ写真を共有する友達もいない、そして拡張現実で初音ミクを見ることにも興味がない人間もいるのだ。そういう人はHMDで何を撮ったり見たりすればいいのだろうか。You Tube上には既に、そういう人はHMDにスクリーンセーバーでも表示することになるんじゃないの、と揶揄するパロディ動画まで作られている。

 また、今年5月、ニュースサイト「WIRED」は、glassのデザインは致命的に格好が悪い、よって普及しないだろうとする記事を載せた。

 目新しい批判ではない。ウェアラブルデバイスは格好悪い──。これまでにも何度も繰り返されてきた批判だ。受け入れられるためには格好良くなければならない。もっと言えば、ファッションとして受け入れられるものでなければならない。今は社員証を首から下げるためのIDカードホルダーでさえ会社から支給されたものではなく、自前のものを買う人がいる。人は、身につけるものに対しては高いデザイン性を求めるのだ。ウェアラブルデバイスも、業務用の場合はともかくとして、一般用や普段使いとなればなるほど機能以外の部分にまで重きが置かれるようになる。

 いや、見た目も機能のひとつだ。大昔から衣装やアクセサリー、化粧や髪型はステイタス・シンボルとしても使われてきた。そして時と場所、場合に合わせて、人はファッションを変える。ファッションは、文化やライフスタイルそのものを包含する概念だ。ここにウェアラブル機器は入れるだろうか? 残念ながら、業務用や特別なシーンで使う場合以外は難しいと考えざるを得ない。

下着メーカー参入が要?ウェアラブルの未来

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「目玉のおやじ」ロボットは、目玉型ロボットの「Miruko」を元に製作された(写真上)。脳波を感知してネコミミが動く「脳波ネコミミ」は海外でも話題となった(写真下)。

 ではどうなると良いのだろうか。筆者は、ファッションのなかにデバイスを溶け込ませて消すか、表面からは見えない下着にこそ、ウェアラブルの用途があるのではないかと考える。衣服のもっとも基本的機能は、寒暖から体を守ることだ。ウェアラブルも快適でなければならない。むしろ身につけることで身体と衣服間の温度や湿度を積極的に調整し、より快適に感じるようなデバイスが求められる。今の衣服が既にそちらに舵を切っていることは、ユニクロのような量販店でも機能性アンダーウェアの類いに力を入れていることでよくわかる。

 もちろん、身の回りの環境をセンシングし、データベースへと自動アーカイブするといった機能は普通に付けられるだろうが、あまりやりすぎて介護用下着みたいなものになってしまうことは避けなければならない。介護用下着としてのウェアラブルデバイスの可能性はまた別にありそうだが。むしろ、下着メーカーがウェアラブルに乗り出したときこそが、本当の普及期到来と見たほうがいいのかもしれない。

 いずれにしても、ウェアラブルデバイスは、現在のファッションに響くようなものであってはいけない。腕に巻く程度のものならなんでもいいと思っている人もいるようだが、そうでないことは、腕時計売り場を見れば明らかである。

 繰り返すが、ウェアラブルなアプリケーションは、ファッションのなかに溶け込ませなければならない。となると、洋服や時計、ボタンやカフスのような既存の衣服のなかに回路を埋め込むというSF的アイデアのほうが、むしろ現実的なのだ。折り畳んでも機能するアンテナや回路の技術は既に存在する。ただし、洗濯に対する耐性の課題は最後まで残るかもしれない。

 では、現時点でのウェアラブルデバイスの生きる道はなんだろうか。ひとつは、あえて奇異な外見を積極的に活かすという方向性がある。日常ではないハレの場、スペシャルなイベントで使うためのデバイスだ。

 一部のファッションデザイナーが取り入れ始めているロボティック・ファッションはその一例だ。ユカイ工学の「Miruko」や、neurowearの「脳波ネコミミ」のような、メディアアートのようなロボットもある。こういう用途は、それなりにはあり得る。

 ただ、本来のウェアラブルは、人間の五感を拡張するデバイスであるべきだろう。でないと、着用している意味がない。

 人間は、生身ではコンピューターとはつながらない。だが、ウェアラブルデバイスを介することで、コンピューターやネットと接続できるようになるのである。本当に普及するウェアラブルデバイスのためには、ここに絶えず立ち返って考えることが重要なのではなかろうか。

 ファッションは外界と個人との「界面」である。ウェアラブルデバイスも、やはり「界面」なのだ。

森山和道(もりやま・かずみち)
1970年、愛媛県生まれ。サイエンスライター。93年にNHKに入局後、教育番組や科学番組の制作を経て、97年に退職。その後フリーのライターとして、ロボティクスや脳科学などを中心に、科学技術分野全般を対象に取材を行う。著書に『クマムシを飼うには』(共著/地人書館)がある。

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