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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第60回

ネオヒルズ族は稼げてライターは稼げない 情報産業でメシを食うのに必要なこと

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

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インプレス「できる」シリーズは今も続いている(画像は「できるポケット LINE」と「同 facebook」)。新しいサービスが世に広く出た時には、今でも需要があるようだ。

 ウェブメディアの定着と雑誌の低調によって原稿料が下げ止まらなくなり、いわゆる「フリーライター」が飯を食っていくことが難しくなった。しかしこれは、メディア構造の変化に伴い、できる人/できない人の淘汰が進んだだけなのかもしれない。自身もフリージャーナリストである佐々木氏が考える、これからのフリーランスに必要な条件とは?

 雑誌などのメディアに原稿を書いて収入を得る「フリーライター」と呼ばれる職業が、急速に終わりを迎えようとしている。インターネットの普及で情報の価値が落ちたことに加え、書くことが専業ではない人たちが安いギャラで原稿の仕事を請け負うようなことが増え、原稿料単価が驚くほど下がってしまったからだ。

 少し前に、グーグルの及川卓也氏の呼びかけで『セミプロに駆逐されるプロという構図勉強会』という変わった名称の勉強会があった。集まったのは主にIT分野で記事を書いている専業や副業ライターの人たち40人。雑誌時代には1ページで2~3万円ぐらいだった原稿料単価が、最近のウェブメディアではどれだけ長く書いても1本1~2万円程度で、生活できなくなるレベルにまで落ちていることなどが語られた。驚いたのは、音楽ライター業界に「アルプス」という用語があるという話。

「最近は音楽ライターが『アルプスでやってくれない?』とメディアから言われるらしいですよ。『アルプス一万尺、小槍の上で』という歌があるでしょう。……つまり1万円弱でどうか、という意味なんです」

 ……笑うに笑えない話である。

 私自身のことを振り返ってみても、この原稿料の低下は体感している。私は1999年に毎日新聞社から月刊アスキー編集部に移り、ライターの人たちとお付き合いするようになった。2002年頃からアスキーの仕事と並行してライター仕事もこなすようになり、03年にフリーとして独立して今に至っている。

 私がアスキーに移った99年頃はまだ雑誌が非常に元気で、10万部余り出ていた月刊アスキーの原稿料は、1ページ2万5000円前後だった。1ページは1500~2000文字ぐらいなので、文字単価が一文字10~15円だったことになる。専門性の高い記事や著名人への依頼の場合などでは、1ページ3万円払っていたこともある。ちなみに総合週刊誌の原稿料はもっと高く、だいたい1ページ3~5万円だった。いま振り返ると夢のような金額である。

 とはいえ、この時期でさえすでに、古株のライターには「原稿料はもう何十年も上がっていない」というような愚痴を言う人もいた。バブルの頃はライター稼業もかなり羽振りが良かったらしい。

 90年代でもまだその残滓はあった。例えばコンピュータ業界では95年以降、Windowsの爆発的人気でパソコンが一気に普及したが、当時はまだ初心者にはかなりハードルが高かったこともあって、解説本が売れに売れた。その象徴がインプレスの「できる」シリーズで、全体の累計はなんと現在までに4000万部に達しているというから驚かされる。

 雑誌も同様で、一時は書店の雑誌棚の3分の1ぐらいを各種のパソコン雑誌が占領していた。自作系、エクセルなどの実用系、総合系、初心者系、プログラマー系、エンタープライズ系などさまざまなジャンルに分かれ、膨大な雑誌から依頼される原稿を書き分けているだけでも、ライターは十分に生活できたのである。

ある意味では当然のライターの淘汰

 しかしこの「パソコン解説本バブル」が続いたのは、せいぜい00年代初頭ぐらいまでだ。WindowsもXPが出る頃にはたいへん使いやすくなり、エラーで落ちたりフリーズすることもあまりなくなって、誰でも使えるコモディティ商品に変わっていった。さらに、ブログが広まり、ちょっとした解説やお悩み相談程度なら、ネットで検索すればすぐに回答が見つかるようになった。これによってパソコン雑誌もパソコン解説本も市場は冷え込んでいく。

 加えてブログ文化の勃興は、ネット検索での情報を豊かにしただけでなく、雑誌や書籍の分野でもプロとセミプロの境をなくしていった。それまではセミプロの書く文章は「素人くさい」「専門的すぎてわかりにくい」と思われていたのが、ブログで平易な文章を書き慣れる人たちが大量に現れ、雑誌や書籍にも進出して原稿を書いたり、本を出したりするようになったのだ。これによって専業ライターの領域は極端に狭まり、食えない人がたくさん現れてきた。それがこの10年代の現状だ。

 とはいえ先ほどの勉強会では、こんな真っ当すぎる指摘もあった。

「そもそも、これは果たして悪いことなのでしょうか? プロと呼べる質の高い仕事をしていない人もたくさんいたわけで、そうした人たちが食べられなくなっていくのは仕方ない。問題は、良質なものが生き残るためにはどうするのかということ」

 インターネットが普及する以前、情報の需給バランスは著しく供給側に傾いていた。つまり、情報を求めている人はたくさんいるのに、供給は雑誌や新聞、テレビなどに絞られていた。この需給バランスがメディア側に余剰の富をもたらしており、放送局や出版社、新聞社の高給はここから来ている。そしてフリーのライターやディレクターなどにも、そうした余剰が回ってきて業界全体を潤してくれていたということなのだ。

 ネットが普及したことで需給バランスは逆に振れ、今や需要側に傾いている。つまり供給は膨大にあるけれども、そんなにたくさんの情報を全部読める人はいない、という情報洪水状態になったのだ。旧来の余剰が消し飛んでしまうのは当然である。

 ではこのような状況で、専業のライターはどのようにしてメシを食っていけばいいのか。

 ひとつは、自分の専門性を磨き、自分の仕事に付加価値をつけていくことである。勉強会では、今も元気に活躍されている女性ライターのひとりが「プロが食えなくなっているなんてことはない」と断言していた。

「ソフトやハード、開発系の記事は専業ライターでは結構難しい。でも発表会の取材記事や海外イベントの取材、企業の作るコンテンツに合わせた記事を書くことなどは、専業ライターの仕事としてちゃんと残っています」

 彼女は、淘汰されるダメライターの5つのポイントをこう挙げた。

「特定の編集者とつながっている」

「英語が苦手」

「ソーシャルが苦手」

「昔話ばかり」

「文章が下手」

 かなりきつい言葉が並んでいるが、これには私はまったく同意だ。

 加えて、これからのライター稼業では、自分の売り方をきちんと戦略を立てて考えていく必要がある。

 以前は、特定の編集者やセミナー会社などに人間関係だけでぶら下がり、仕事をもらう人が多かった。このようなやり方は、時折飲みに行って「なんか仕事ないっすかね」「こんな本書けないですかね」と駄弁っているだけで営業活動になるので、楽ちんだったのだ。しかし今やこういう人たちの大多数は、仕事がなくなってしまっているだろう。

 そうではなく、自分にどんな付加価値があり、それがどう市場にマッチするかを分析し、その上でソーシャルメディアを駆使してセルフブランディングを構築し、読者を獲得する必要がある。ツイッターやフェイスブック、ブログの活用は必須だ。

 単体の記事コンテンツの原稿料は下がっていっても、自分のブランドを確立できれば、ライター自身の価値は低下せず、自分自身というキャラクターを売っていくことで生計を立てていくことができる。そういう戦略が重要なのだ。

 反語的だが、勉強会ではこんな意見も出たことを付け加えておこう。

「ライターは食えなくなったと言うけど、同じように情報で商売してるネオヒルズ族の与沢翼はメシが食えているということなんですよ。そういうこと言うと皆さん笑うけど、これはもうちょっと分析してみてもいい問題なんじゃないかな」

(文/佐々木俊尚)

佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主な著書に『電子書籍の衝撃』(ディスカヴァー・21)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)ほか。

アメリカにおける2012年のネット広告収入

366億ドル
2013.4.16 前年比15%増!まだまだ数字は伸びてゆく
2012年の米国市場における、インターネット広告収入。前年比で15パーセント増と急増している。同時期の日本のネット広告費は伸び率7・7パーセントで、倍以上の加速ぶり。

【佐々木が注目する今月のニュースワード】

■Kindle Comic Creator
自分の作品を出版する人が、マンガやコミックを簡単にKindle本に変換できるアマゾン公式の電子書籍無料ツール。これを起爆剤にマンガのセルフパブリッシング化が進行するか。

■データエディター
ツイッター社が、膨大な数のツイートの中から魅力的なストーリーを発見する「データエディター」という職種を作り、初代に英ガーディアン紙の元データジャーナリストを採用。

■Twitter  #Music
ツイッターを通じて新しい音楽を発見、共有するツイッター公式サービス。音楽をソーシャルで見つけられる時代がやってきている。

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