サイゾーpremium  > 特集  > タブー  > グルメと料理を【ウェブで牛耳るITサービス】の人気の理由とその陥穽
第1特集
食べログ? クックパッド? "食とIT"で生き残るサービス【1】

「食べログ」「ぐるなび」グルメと料理を牛耳るITサービス人気の理由とその陥穽

+お気に入りに追加

──食べ物の話をするのが好きで、食べるのも好きな日本人の国民性ゆえか、ウェブ上においても食に関するサービスは発達している。本稿では、「食べログ」「ぐるなび」「クックパッド」といった人気サイトを中心に、そのビジネスの伸びしろと陥穽、そして食文化への貢献度を検証する。

1306_az_IT.jpg
『クックパッド社員の名刺の秘密』(講談社)

 まだケータイやスマホが普及していなかった頃、慣れない街で外食をすることは一種のギャンブルだった。道を歩いていて目に付いた飲食店の店構えをじっくり品定めし、鼻を効かせて漂う匂いを嗅ぎ、覚悟を決めてエイヤっと飛び込む。当たりを引けるかどうかは一発勝負で、経験と勘が試されたものだ。

 時代は移り変わり、2013年の東京では、スマホでサッと検索するだけで“美味しい飲食店”の情報が簡単に引き出せる。口コミ評価をチェックして評判の人気店に入ればハズレを引く心配はないし、飲み会の会場を探すときは場所や予算などの条件を入力して割引クーポン付きの店を探せばいい。特別に旨いと評判のレストランに足を運んだ日は、すかさず料理を撮影して「これ超おいしい!」とSNSに投稿すれば、無数の「いいね!」が付くという具合だ。

 変化したのは外食だけでなく、自炊についても同様。料理経験の浅い一人暮らし初心者であっても、食べたいものを考えてレシピ名で検索する、あるいは冷蔵庫にある食材の名前を検索窓に入力して調べれば、なんとなく食べられるものができる。料理上級者は上級者で、凝った料理の作り方をいくらでもネットから引き出すことができる。重たい料理本をいちいち買わなくてもよくなったのだ。 

 ウェブとソーシャルの発展によって、我々の食生活はめまぐるしく変化した。ネット上に「食」にまつわる膨大な情報が流通するようになったことで、日本人の食習慣は確実に変わりつつある。

ぐるなびから食べログウェブとグルメの発展

 そもそもネット上に「食」の情報が流通し始めたのは90年代中盤のこと。96年に「ぐるなび」がサービスを開始し、グルメガイド系の定番サイトとして立場をいち早く固めていった。当時の競合には「東京レストランガイド」や「アスクユー・レストランガイド」などがあったが、先行者「ぐるなび」を超えることは出来ず、サービス終了に追い込まれることになる。ネット黎明期から10年以上の間、「ぐるなび」はグルメ系サービスにおける“一強”の地位をほしいままにしてきたわけだ。

「ぐるなび」はもともと、駅を中心とした広告業務を手がける交通系広告代理店・株式会社NKBがはじめたサービスだ。昨今のウェブサービスとは異なり、最初からIT企業だったわけではない。駅という立地を利用して始めたウェディング関連の広告を発展させ、「ぐるなび」をスタートした。4年あまりで急成長を果たし、00年4月には株式会社ぐるなびとして独立。01年3月期に単独での黒字化に成功し、05年には大証ヘラクレスに上場した。00年には月間2000万PVだったサイトが、この頃には3億8000万PVにまで到達していた。

「ぐるなび」のビジネスは、広告業で培った営業力に立脚している。毎月数多くの飲食店に人海戦術で営業をかけ続け、地道に登録店を増やし、飲食店側から支払われる加盟料で成り立つ。基本は月額1万円~だが、販促や季節ごとのフェアなどの手厚いサポート・コンサルティングを受けられる「正会員」と呼ばれるメンバーになれば、月額5万円。それに加えて、飲食店側で自由に掲載情報を更新できるアカウントを提供され、自分たちの発信したい情報をきちんと掲載することができる。つまり、「ぐるなび」にとっての“お客さん”は飲食店というわけだ。

 その「ぐるなび」独占状態を崩したのが、クチコミ系CGMサイトの台頭であり、05年に誕生した「食べログ」だ。すでにウェブ上で人気を集めていた、電気製品の価格比較サイト「価格・com」を運営する株式会社カカクコムが始めたこの新サービスは、11年には「ぐるなび」のユーザー数を抜き去り、グルメ情報サービスとしてトップに躍り出る。

「食べログ」はあくまでも“ユーザーのお店選びをサポートすること”を目的に設計され、現在の売上はバナー広告とユーザー課金がメイン。それに加えて最近は、サイト内でプロモーションを行いたい飲食店に向けて、月額1~3万円の有料会員制を設けている。ただし、あくまでクチコミという基本は崩さないために、有料会員店であっても点数やランキングに関わるような操作は行わない。月額いくら支払っていても、評価を表す星の数がまったく増えないこともあるのだ。

 このビジネスモデルの差ゆえ、両者の事業規模は大きく異なり、年間売上も一桁違うが、いちユーザーとして考えてみると、実感としては「ぐるなび」が「食べログ」に押され気味、という印象だ。

「『食べログ』の何が強かったかというと、実はSEO対策なんですよ。グーグルで店名を検索すると、お店の公式サイトより上に表示されたりする。オフィシャルじゃないのにオフィシャルっぽい存在になったというか、ちょうどウィキペディアみたいに受け入れられた印象がありますね。誰が書いているかはわからないけどもっともらしく、読み手は情報の裏を取らないという点がよく似ている」

 そう語るのは、アルファブロガーであり、日本のウェブ文化をウォッチし続けてきたライターのいしたにまさき氏だ。現在はまさに食系SNS「ミイル」(後述)の顧問を務めている。SEO(Search Engine Optimization)対策とは、ヤフーやグーグルなどの検索結果画面において自社サイトが上位に表示されるための各種対策のことを指す。無数にヒットする検索結果の中で上位に表示されることは、今やアクセス数を集めるためには必須。ウェブサービスをヒットさせるためには欠かせない工程だ。破竹の勢いの「食べログ」には、「価格・com」で培ってきたSEO対策技術が惜しみなくつぎ込まれており、PVという意味においては「勝つべくして勝った」とも言えそうである。

 しかしその「食べログ」にも、落とし穴はあった。12年の正月が明けて早々、日経新聞や読売新聞ら大手紙が「『食べログ』やらせ投稿、消費者庁が調査開始」と題した記事を掲載。そこで暴かれたのは、「食べログ」でのランキングを上げるために、飲食店から金銭を受け取ってクチコミ投稿や採点を代行する業者の存在だった。カカクコムは11年末時点で39の業者を特定し、悪質なものに対しては法的措置も辞さない、という見解を発表。確かにこの件に関してカカクコムは完全な被害者だが、「食べログ」の評判が下落することは止められなかった。ニュースサイトや週刊誌はこぞってこのやらせ問題を糾弾し、「クチコミに騙されるな」と書き立てた。カカクコム側は評価システムのアルゴリズム変更や、不適切な内容のクチコミに対する削除や修正といった対応を打ち出したが、CGMというシステムの性質上、今後も避けがたくこの問題は付いて回るだろう。

「『食べログ』に投稿されるレビューは、基本的にお店に紐付いていて、属人性がないんです。だから“やらせレビュー”みたいな問題が生まれたり、お店側にとっても批判的に書かれるリスクがあるわけですが、“レビューの数は正義”という理屈でここまで来た。運営側もレビューの信頼度を調整したりいろいろ工夫はしているけど、全部に対応するのは無理。飲食店のお客さん側に立ったサービスだけど、そのお客に顔がないという矛盾を抱えているわけです。それで結局のところ、“口コミサイトのユーザーが口コミを読まない”という状況が生まれてきてしまった」(前出・いしたに氏)

 成長速度としては劣勢の「ぐるなび」に巻き返しのチャンスがあるとしたら、この情報の信頼度というところか。ユーザーの対応としては、ひとつのサービスに頼らずに、それぞれの情報を確認するしかないという、ネットリテラシーの基本がここでも繰り返されることになりそうだ。

主婦を取り込んでゆくクックパッドの巨大化

 今度は外食から、家の中の食事に目を転じてみよう。「巣ごもり消費」なんていう言葉も生まれた通り、不況下にあって外食産業は全体に苦戦を強いられている。代わりにどこで食事をするかといえば、個人の家の中だ。そこで台頭したのが、レシピ投稿サイト「クックパッド」である。レシピサイトは数あれど、投稿型としては唯一無二の存在となっている同サービスがスタートしたのは98年。慶応大学湘南藤沢キャンパスを卒業した佐野陽光社長(当時/12年3月退任)が起業した有限会社コイン(97年創業)から始まっている。食品メーカーを中心とした企業とのタイアップという広告収入モデルを確立し、09年にはマザーズへ上場(11年、東証一部上場)。サービス開始直後は資金が底をつきそうになる時期もあったが、この頃には月間680万PV、09年10月期には売上高8億9000万円をたたき出し、ウェブ上でのポジションを獲得した。

 クックパッドのビジネスモデルは前述の通り、タイアップ型の広告収入が基本だ。例えば、若年層に向けてお酢をアピールしたいミツカンと手を組んで、「お酢のおいしいレシピコンテスト」をサイト上で開催。この趣旨に沿ってユーザーがレシピを開発して応募すると、大きく取り上げられる。あるいは、「つくれぽ」(投稿されたレシピに対して、「私も作ってみました」とほかのユーザーが投稿した写真とコメントのこと)が多くつくような優秀なものは、店頭で販売される商品に「おまけレシピ」として付随することもある。

 そしてもうひとつ、クックパッドには重要な収益源がある。クックパッドを訪れる月間数千万人のユーザーが、いつ、どこで、なんの料理や食材を検索したかといった検索データの法人向け販売だ。07年にスタートした「たべみる」という名のこのデータベースは、10年時点で売上高9億6700万円。この時期の会社全体での売上高が約22億円だったことから、半分近くを占めていることになる。いわば「食のビッグデータ」ビジネスというわけだ。

 さらに最近は、そこから一歩踏み込んで、スーパーマーケットとの提携を進めている。11年末、東急ストアや西鉄ストアといった電鉄系を始めとしたスーパーマーケット7社と提携。クックパッドのユーザーIDと、買い物時に使うショップカードのIDを紐付け、検索や購買履歴を集積し、「どこで何をいつ買って、何を作った(作ろうとした)か」というデータを集めて各社がマーケティングに活用するいうわけだ。そして12年10月、今度は、ニフティとサンケイリビング、三菱商事が合同で運営するケータイ・スマホ向け特売情報サービス「シュフモ」との提携を発表。クックパッドユーザーが、日頃利用するスーパーマーケットを登録しておくと、毎日の特売情報とそれに合わせたレシピが閲覧できるというシステムができあがった。ここまで来るともはやいちウェブサービスの範疇を超えて、食のプラットフォームとでも呼んだほうがよさそうな規模である。

専門SNSという新しい「食」系サービス

 ここまで、日本のインターネットで存在感を放つ3大「食」系サービスを見てきた。このほかにも例えば、人気の食ブログがあり、個人個人はツイッターやフェイスブックといったソーシャルサービス上で今日食べたもの、作った料理の写真を投稿し、ネットは食情報にあふれている。いったいなぜ我々は、食について語ることがこんなに好きなのだろうか?

「実際、国内のSNSで流れている情報から“食”に関する内容を抜いたら、トラフィック量は相当減るでしょうね。ただ、例えば『デジカメの性能レビュー』とかと違って、食を語るというのは個人の普段の食生活から、それこそ生まれ育った家庭環境など身体的な感性の影響をすごく受けてしまうわけで、結局それぞれが自分の生活の中で培ってきた主観で語るしかないわけです。だから永遠に終わらない井戸端会議のテーマになり得るし、日常的なコミュニケーションのきっかけとして機能する。それが日本人の国民性なんだと思いますよ」(前出・いしたに氏)

 最後に紹介しておきたいのが、そうした「井戸端会議」をより活発化させる新しいサービスだ。食に特化したSNS「ミイル」では、ユーザーが食べたものを写真に撮って投稿し、それを見た人が、フェイスブックでいう「いいね!」と同じように「食べたい!」をつけてゆく。つけられるコメントも当然、「おいしそう!」「なんという料理ですか?」「ここのお店はほかに××もおいしいですよね」といった食べ物の話ばかりだ。このSNSを作った中村仁氏は、もともと六本木の豚しゃぶ店「豚組」などを束ねる飲食店経営者。ついに当事者から、食について語るメディアが提供されたわけだ。もとよりテレビや出版物でも“食”を多く扱ってきたこの国では、ITによってますます食が語られ、我々の食欲は増強されていくことになりそうである。

(文/呉 琢磨+編集部)

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ