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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第67回

エイズが「死の病」でなくなるまでの知られざる戦い

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雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。

『いかにして疫病を生き延びるか(原題:How To Survive A Plague)』

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アメリカでのエイズ拡大初期の1980年代からエイズ患者の権利拡大を推進している団体である「ACT UP」や「TAG」の活動を追ったドキュメンタリー。13年アカデミー賞ドキュメンタリー長編部門ノミネート作品。

監督/デイビッド・フランス 出演/ピーター・ステイリー、ボブ・ラフスキーほか 日本での公開は未定。


「もう死ぬんだと思った」

 1985年、ウォール街で債券のトレーダーをしていたピーター・ステイリー(当時24歳)は、HIVポジティブと診断された。ゲイであることは秘密にしていたので、誰にも相談できなかった。AIDS(エイズ/後天性免疫不全症候群)は81年にアメリカ国内で患者が発生して以降、死者は年々増え続けた。

「当時はなんの薬もなかった。死を待つだけだった」

 87年3月24日、ステイリーがいつものようにウォール街に出勤すると、結成されたばかりのACT UPという団体がピケを張り、「エイズの治療薬開発に政府の資金を」と訴え、警官隊に逮捕されていた。

 当時のアメリカ大統領だったロナルド・レーガンはエイズ発生以来、何も対策を講じていなかった。それどころか公の場ではエイズについて決して言及せず、そんな病気は存在しないかのように振る舞っていた。85年、レーガンの俳優時代からの友人ロック・ハドソンがエイズで亡くなったが、大統領は動かなかった。

 ならば無理にでも政府を動かすしかない。ステイリーはACT UPの活動に身を投じた。

 13年アカデミー賞の最優秀長編ドキュメンタリー候補になった『いかにして疫病を生き延びるか(原題:How To Survive A Plague)』は、エイズと闘った運動家たちの記録だ。

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