サイゾーpremium  > 連載  > 続・関東戎夷焼煮袋  >  【連載】町田康の「続・関東戎夷焼煮袋」
連載
町田康の「続・関東戎夷焼煮袋」第6回

肉欲に取り憑かれたSMの老人たちをかき分け、お好み焼きミックスで魂の回復を図る

+お気に入りに追加

――上京して数十年、すっかり大阪人としての魂から乖離してしまった町田康が、大阪のソウルフードと向き合い、魂の回復を図る!

1305_machida_01.jpg
photo Machida Ko

 若い頃には過剰な欲、功名心、虚栄心、嫉妬心、猜疑心などに自ら苦しみ、また、それによって他を苦しめる、といったこともあるのだけれども、だんだんに年をとってくるとそれらが薄れてくる。

 例えば若い頃は、同じ年頃の多くの者が女にもてているのを見て、自分も女にもてて気色のよい行為に耽りたい、と強く念願する。なぜ、あいつがもてて俺がもてないのだ、と怒りすら感じる。

 中年になっても状況はあまり変わらない。女にもてたいと強く思う。なぜなら同じく中年でありながら女にもてる者が半数程度いるからで、見るにつけ羨ましく思う。ただし、若い頃のようにそれを理不尽に思うことはない。あいつは金持ちで人間もどことなく粋だからなあ、と寂しく納得する。

 初老になると少し違ってくる。それくらいの年になると女にもてる者はごく少数で、もてないのが普通だからである。女にもてたいという気持ちは変わらずあるので、もてない苦しみ、悲しみは変わらないが、若い頃と比べると、それも随分と薄らいでいる。

 そしてもっと年をとると、女にもてたい気持ちそのものが薄らぎ、そういう面倒くさいことはできれば避けたいなあ、なぜならしんどいから。と思うようになる。身体は衰え、しかし、心は澄んで、庭石と美女を同じ心で眺められるようになる。

 こうした状態を、枯淡の境地、という。

 楽器がアホみたいにうまくなりたい。というのであれば、アホみたいに楽器の練習すれば二年くらいでなれるかもしれないが、枯淡の境地に至りたいと思って二年間、アホみたいに枯淡の練習をしたところで、枯淡の境地、に至ることはできない。

 なぜなら枯淡の境地に至るためには実際の時間すなわち、老い、が不可欠だからである。

 そんなことで、自分もいつかは枯淡の境地に至ることになり、そうすればいろんなことが楽になるので早くそうなりたいなあ、とこれまでは思っていたが、SM老人をかき分けてようやっとたどり着いた肉売り場で、「無理かも」と思った。

 肉売り場には無数の人間が殺到しており、その数は野菜売り場の比でなかった。その多くは老人であったが、肉に群がるその姿は枯淡とはほど遠い、肉に憑かれた肉の亡者そのもので、その肉に対する執着・執念たるや凄まじく、立ちこめる妄執の気配はキャベツ売り場の比ではなかった。

 肉、肉、肉。頭のなかには肉のこと以外、なにもないように見えた。誰も目を血走らせ、或いは、ギラギラ光らせ、髪を振り乱して肉を渇仰していた。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2020年2月号

新しいニッポンのタブー

新しいニッポンのタブー
    • 暴力団だけじゃない【反社】の定義
    • 【山口組分裂】報道の最前線
    • 【嵐】休止後の芸能界にタブーはあるか?
    • 本当の【氷川きよし】論
    • 【社会学者】きーちゃんを苦しめる疑惑フォーマット
    • 【湯山玲子】ミサンドリー時代に合った戦略
    • 【音楽学者】芸能の性別越境を回復する存在に
    • 【丸屋九兵衛】ヒップホップときよしの交差点
    • 【ANARCHY】初期衝動を落とし込んだ映画
    • 【SEEDA】ラッパーの禁忌な生き様を描く
    • 世界の過激な【保守派リーダー】
    • 【元芸人】が政治の世界に進出するワケ
    • 【アナ雪】ステマ問題ほんとの戦犯
    • 時代を先取りする【新・麻薬王】の肖像
    • 【医療観察法】の知られざる実態

川瀬もえ、エロくてキュートで清らかに。

川瀬もえ、エロくてキュートで清らかに。
    • 小悪魔【川瀬もえ】が脱ぐ

NEWS SOURCE

インタビュー

連載

    • 表紙/華村あすか「イオンで十分なんです」
    • 【桜田茉央】ミスマガ受賞者の箱入り娘
    • 【AV界】期待の新人セクシー下着
    • 【鈴木ふみ奈】タレントと企業のカンケイ
    • 【増田と鷲見】のラブゲーム
    • 【AI】がインターネットを根底から揺さぶる
    • 【五所純子】「ドラッグ・フェミニズム」
    • 【萱野稔人】"殴り合い"はなぜ人間的なのか
    • 機構影響を受けぬ【雪まつり】
    • 【丸屋九兵衛】キアヌ・リーブスを語る
    • 【町山智浩】「リチャード・ジュエル」FBIとマスコミの欺瞞
    • 【薬物事件】をめぐる刑罰と報道の問題点
    • 小原真史の「写真時評」
    • 笹 公人「念力事報」/ゴーンの大脱出
    • おたけ・デニス上野・アントニーの「アダルトグッズ博物館」
    • 稲田豊史/「アナと雪の女王」にモヤる理由
    • 辛酸なめ子の「佳子様偏愛採取録」
    • 大手ビールメーカー出身者が【ブルーパブ】を開業
    • 更科修一郎/幽霊、闘争で情念を語る少年マンガ。
    • 『花くまゆうさくの「カストリ漫報」』