サイゾーpremium  > 特集  > 本・マンガ  > 【マンガ編集者】匿名座談会

――マンガ雑誌、単行本共に売り上げが下がるなど、絶好調に思われたマンガ業界にも少し陰りが見えてきた2012年。マンガ編集者たちは、現在のマンガ業界をどのように見ているのか? その本音を語ってもらったところ、どうにも景気の良い話はないようで……。

【座談会参加者】
A…30代。大手出版社勤務
B…30代。大手出版社勤務
C…30代。中堅出版社勤務
D…30代。中堅出版社勤務

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『BILLY BAT』
ストーリー共同制作:長崎尚志 作:浦沢直樹/講談社(09年~)/630円/人気アメコミ「BILLY BAT」の作者ケヴィン・ヤマガタは、自身のマンガと日本のマンガ作品との類似性を指摘される。事実を確かめるため、日本へと向かう。

A 今年は華のあるヒット作がなかったね。2010年の『進撃の巨人』(講談社)みたいに、華々しくブレイクした作品がない印象。

D 売れている作品が堅調に売れた年だった。『バガボンド』とか、10月に2年ぶりに出た新刊が初週で30万部売れた。

A 浦沢直樹と長崎尚志コンビの『BILLY BAT』(共に講談社)は、最新巻でも初版が20~30万部。第1巻の累計発行部数には及ばないけど、やはり浦沢作品ということで結果を出している。僕は、あの作品全然おもしろいと思わないんだけど(笑)、『BILLY BAT』ぐらい売れるタイトルを複数抱えているならともかく、十分売れてるんだから浦沢作品を切るわけがないよね。

C ビッグタイトルといえば、今年は『ジョジョの奇妙な冒険』(集英社)。25周年ってことで「ジョジョ展」をやって、「AERA」(朝日新聞出版)で作者の荒木飛呂彦さんが表紙を飾ったり、“ジョジョスマホ”まで売り出したり……。もう主要な購買層が限定できない次元だね。しかも、単なる過去の作品の懐古じゃなくて、原作の最新シリーズ『ジョジョリオン』も売れ行きがいい。

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『ジョジョリオン』
荒木飛呂彦/集英社(11年~)/420円/今年25周年を迎えた超人気シリーズ『ジョジョの奇妙な冒険』の第8部作。第4部の舞台である杜王町を舞台に、記憶喪失の主人公が自身の正体を追い求めて闘うこととなる。

A 「ジョジョ展」で販売された3800円もするイラストカタログが、もう2刷っていうんだからさすが。こういうグッズとかの関連商売にシフトできるならうちもしたいよ(笑)。

B 「ジョジョ展」とかは博報堂とガッツリ組んでる。一般誌への露出もそうだけど、あそこまで大きな商売になると、普通の出版社や編集者が主導してできるレベルじゃないね。

D 井上雄彦さんや大友克洋さんも原画展を開催したけど、出版社にもお金が入るの?

C 作家にも出版社にも一定のパーセンテージで入る仕組みですよ。うちみたいな中規模出版社では、代理店が入るほどの話に縁はありませんが(笑)。でも、メディアミックスは作家さんとの連絡や諸確認は全部編集部を通してやるから、かなり大変。しかも、編集部の売り上げになるかどうかは会社によるし。映像化しても、実作業は編集部なのに、売り上げは全部ライツ関係の部署に付いたりすることもあるとか。

D その辺はもう雲の上の作品って感じ。僕はここ最近の作品だと、プロ野球のお金事情を描いた『グラゼニ』(講談社)の売れ方が羨ましいな。“業界の裏ネタ”っていう一発ネタで失敗する作品が多い中、キャラ立ちもしている『グラゼニ』が売れたのは編集者冥利に尽きると思う。

B 『グラゼニ』をプッシュしたのは、やっぱりトップの人間の判断だろうね。担当編集が「モーニング」の副編集長なのも関係してるのかも(笑)。

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『グラゼニ』
原作:森高夕次 漫画:アダチケイジ/講談社(11年~)/600円/プロ野球チームの1軍に所属する投手、凡田夏之介は、「プロは金がすべて」と考える年俸マニア。そんな彼を主人公に、職業としてのプロ野球選手という立場や、解説者の苦労、球団フロント事情など、プロ野球選手のリアルな生活を描いている。

A 編集長は単行本の初版部数を増やしたりできるけど、失敗したら責任を問われるから、どうしても慎重になる。『グラゼニ』は、そういうリスクを負って成功した例。でも、実際にはそうやってプッシュしても、うまくいくほうが珍しいんじゃないですかね(笑)。

B 今は初版部数もどんどん減ってるし。

A 15~20年くらい前は、そんなに売れるはずがない作品でも初版2万部が基本だったけど、今は、期待してる作品なら1万部、あとは8000部程度しか刷らなくなってる。

C 僕の印象でも、新人の初版部数は90年代の3分の1くらい。単行本の初版部数は、7~8年前にはすでに10年前の半分くらいでした。最近は単行本が売れないから、刊行点数で数字を稼ごうと、作品数だけは増加傾向。

A しかも、今は見切りが早いんだよ。月刊誌だと単行本は年1冊程度で、1巻が売れなければ即終了なんてことも珍しくない。流れ作業的に刊行してるだけでは、新人の作品は100%討ち死にするよ。まず構造的に新人作品は不利になってる。

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