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第2特集
【プレミア限定ロングver.】読まずには語れない"新"アイドルPV論【1】

【アイドルPV談議】児玉裕一×掟ポルシェ「アイドルPVはタブー破りでなきゃ面白くない!」

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──これまで、あくまでCDを売るためのひとつの販促ツールとして考えられてきたプロモーションビデオ(文中、PV)が、昨今ではミュージックビデオ(文中、MV)と呼ばれるようになり、アーティストの世界観を表現する"映像作品"として注目を集めている。中でも、"ヴィジュアル"が重視されるアイドルたちにとって、視覚に訴えることができるPVはとても重要であることは間違いないだろう。そこで今回、こうしたアイドルたちのPV/MVに焦点を当て、業界分析からアイドルが語る制作現場での苦労、タイップPVの効果やインディーズとメジャーの違いなど、さまざまな視点から、そのクオリティを改めて論じていきたいと思う。

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(写真/佐藤博信)

「アイドル冬の時代」と呼ばれた90年代を経て、モーニング娘。をはじめとするハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)系ユニット、Perfume 、AKB48が次々とブレイクを果たし、いまアイドルグループが花盛りを迎えている。

 同時に、動画サイトの隆盛などにより、PVの露出度が急上昇。アイドルと楽曲の魅力を相乗効果で引き出す「アイドルPV」は、ただの宣伝ツールではなく映像作品として受容され、いまやファンの大きな楽しみになっているようだ。

 プロデューサーのつんく♂が「アイドルPVは顔のアップが命」と明言しているハロー!プロジェクト、CGを駆使し映像作品としての完成度が高いPerfume、岩井俊二や蜷川実花、中島哲也など有名監督を起用して話題を広げるAKB48──PVの方向性はそれぞれ。楽曲やコンサートと同様に、表現活動のひとつとして認知されたアイドルPVだが、その意味や戦略性について、じっくり議論されたことがあっただろうか?

 アイドルPVを取り巻く環境は、近年どう変化しているのか? そして、アイドル業界に求められる理想の映像作品とは──。本特集では、椎名林檎、安室奈美恵、PerfumeなどのPVを手掛ける気鋭の映像クリエイター・児玉裕一氏と、独自の視点でアイドル界を切る論客として知られる掟ポルシェ氏によるPV談議を導入に、アイドルPVの最前線を探ってみたい。

──まず、今のアイドルPVを取り巻く環境について、どうお考えですか?

児玉裕一(以下、児玉) 音楽業界全体として、CDだけではなかなか売り上げがたたない時代に入り、かつYouTubeの台頭で映像と共に音楽を楽しむスタイルが一般化したことで、PVの重要性は高まっていると思います。

 当然、ユーザーの目も厳しくなっていますが、一方で予算はドンドン減っているし、リリースの間隔は短くなっているから、制作時間も十分に確保できない。特にビジュアルが大切な要素になるアイドルは、きれいに映そうとすればするほどお金がかかるので、制作サイドは大きなジレンマを抱えていると思います。

 最近ではPVの有料配信も行われていますが、著作権を持たない制作会社やディレクターには全くお金が入りませんし、納得できる映像を実現しようとして赤字を出してしまうこともあって。それくらい、厳しい状況ではあります。

掟ポルシェ(以下、) そんな状況をアイデア一発で解決できればいいんだけれど、いまだに「顔がアップになっていて、アイドルがかわいければいいんだよ!」という無防備なPVも少なくないんですよね。インターネットで誰でも簡単に映像が見られる時代で、アイドルを生かすも殺すもPV次第というところもあるし、やっぱり、もっとお金か時間をかけないとヤバいんじゃないかな。

児玉 確かに、90年代前半の音楽バブル期には、PVにもしっかりお金をかけることができたみたいですよね。当時さまざまな試行錯誤がありましたが、SPEEDなどのPVを担当していた映像ディレクターの竹石渉さんが、現在まで続く「アイドルらしい映像」──明るく透き通ったトーンのライティングと、鮮やかな発色のセットで、かわいらしさを表現するPVの原型を作ったのではないでしょうか。後には松浦亜弥さんの作品も手掛けた方で、最近のK-POPアイドルのPVまでも、この流れが見られます。しかしながら最近の日本のPVはセットやシチュエーションが限られていて、当時のような華やかなのものはなかなか作られなくなってしまいましたが、これは完全に予算が少ないからです。

 それに、当時とは受け手の姿勢も違います。例えば、VHSの時代と違ってシークバー【編註:音楽・動画再生ソフトなどの機能のひとつで、データの再生箇所を表示する機能のこと】で簡単に映像を飛ばせてしまうから、映像に何か引っかかりがないと、ファン以外の人は、最初から最後まで見ようとは思わない。「楽曲のプロモーション」としては最後まで見てもらうための工夫も超重要なはずなんです。そういう状況で僕らは毎回追いつめられてますね。

 僕もこらえ性がないんで、けっこう飛ばしますね(笑)。最近は初回限定でCDにDVDをつけることも多いし、そこでファン向けのビデオを作ってセールスにつなげるのは、商売としては間違っていないかもしれない。でも、"ファンサービス"じゃなくて"プロモーション"ビデオなんだから、もっと外に向けて作らないともったいないと思う。

「顔見せして、はい終わり」ファンサービスではつまらない!

児玉 当然ですが、PVのクオリティはかけられる予算と時間に、大きく左右されます。最近では「撮影の1週間後に仕上げて納品してください」と言われることがあるほど、現場は自転車操業状態。デスクトップで簡単に編集作業ができる時代に、クリエイターや制作サイドが手を抜かず、どこまで映像にこだわれるか、ということに頼りきりなっています。でも本当はレコード会社がもっと頑張って欲しいところですが。

 制約は、ほかにもあるんですよ。例えば、メンバーの所属事務所がそれぞれ違うAKB48なんかは、「この子のソロを抜いてくれ!」なんて指定が、それぞれの事務所から入ってくるはず。だから、岩井俊二、蜷川実花、中島哲也と、監督として名前のある人を起用して、「監督がこう言ってますので......」というふうに、最後はゴリ押しで進められるようにしているんじゃないかと。

 やらなきゃいけないことのオンパレードを満たしながら、映像としてセコく見せないために、一番簡単なのはシチュエーションを作ること。AKB48の「ポニーテールとシュシュ」【1】(10年5月)なんて、メンバーが水着で踊っているだけだけど、海外での一発撮りでどうにか見せている。ロマンポルシェ。の「親父のランジェリー2」【2】という曲だって、シチュエーション一発で絵面を持たせればなんとかなるかと、とりあえず雪山に褌一丁で撮ったからこれと同じ(笑)。

児玉 ただ、PVはいくら知恵を絞っても、"表情一発"でビデオの出来・不出来が決まってしまうこともあるんですよね。"表情とダンスだけ"という作りであれば、予算も時間もできるかもしれないけども、最高の表情を引き出すのは簡単ではないですよね。場合によっては「撮影は数時間」ということもあるので、その中どれだけ印象的な表情を映像に残せるかの闘いでもあります。

──かなり厳しいんですね。掟さん、そんな状況がある中で、「うまく撮ったな」と思ったアイドルPVってありますか?

 児玉さんが撮ったPerfumeの「シークレットシークレット」【3】(08年4月)は素晴らしかった! あの子たちは、堀越高校に通っていた時代から"6限まで授業を受けてから仕事をする"という方針だったし、売れる前に大学進学を決めちゃったから、芸能ビジネスとは別のところからも時間的制約があるんですよ。

 そんな中で「シークレットシークレット」は、3人がこれまで歩んできた道のりと、現在置かれている状況をストーリー仕立てで表現しているから、ファンの要望を最大限に満たした上で、それ以外の人にもちゃんと伝わる映像になっていて。限られた撮影時間で、こんなグループなんです、というプロモーションをしっかりしながら、ファンもそうでない人も感動させる作品にする。かなりハードルの高いことを、ほとんど完璧にやっていると思いました。

児玉 おーうれしいですね。まさにPerfumeブレイク前夜の作品だったので、次につなげることも大きなテーマだったんです。PVって、続けて見ていくとアーティストの歴史にもなっていくじゃないですか。特に成長著しいアイドルにとっては、その「ステップアップ」や「裏切り」がストーリーにもなる。僕はトータルプロデュースをする立場ではないので、「つながっていくこと」を強く意識するんですよ。ほかに、掟さんの印象に残っている作品はありますか?

 ハロプロ系だと、スマイレージの「あすはデートなのに、今すぐ声が聞きたい」【4】(09年9月)が良かったですね。インディーズ時代の曲なのに、セットにお金をかけて、カット割りも細かくて、「このユニットで勝負しよう」という意気込みが感じられました。それと、真野恵里菜の最初期、「マノピアノ」【5】(08年6月)から3〜4作は、一貫して本人しか出てこない箱庭感が素晴らしかった。"無菌室"のような空間でピアノを弾いているだけで、嘘臭くなりがちな清純イメージを、共演者を出さないことで表現することに成功していました。

 やっぱり、売れてしまうと「顔さえ出てればいいだろう」になりがちで、もっと言えば「はい、かわいいでしょ。忙しいし、顔見せしたからもういい?」というおざなりな感じに見えちゃう。ファンはそれだけでも喜ぶかもしれないし、売り上げにつながるなら勝ちは勝ちだけど、これは寂しい。アイドルPVは総じて、時間をかけて撮られた、売れる前の作品のほうが面白いんですよ。

児玉 売れてしまうとイメージが固定化して、"余計なこと"ができなくなってしまうこともありますね。その点、椎名林檎さんなんかは自分のイメージにこだわらず、PVは制作サイドに任せて、「クリエイターによる楽曲の解釈」を楽しんでいる印象があって。アイドルPVも、もう少し"遊ぶ"余裕があるといいのかもしれませんね。

いま求められるのは、「タブー破りのアイドルPV」

 確かに、かつてのアイドルPVは、作家が遊べる場所だったんですよね。楽曲についても「アイドルが歌えばアイドル歌謡曲」という大前提があったから、作家が自分の音楽的趣味を爆発させていた。でも、それが秋葉原的な文化の隆盛で、「アイドルらしいものをやるのがアイドル」になってしまった。僕自身よく「アイドルのプロデュースをしてみませんか」というお話を頂くんですけど、まず事務所さんが何もわかっていないんです。「猫耳をつけて踊らせれば、萌えるでしょ?」とかね。そんな固定観念もあるし、人数の多いユニットに至っては、ダンスのフォーメーションでカメラ割りが決まってくることもあって、"遊べない"要素が多すぎるのも問題かな。

児玉 人数が多ければ、メンバーそれぞれの顔のアップを撮っただけで、尺が埋まっちゃいますからね。クリエイターがいいアイデアを持っていても、それを差し挟む余地がなくなってしまうというか。

──そんな中で、中島哲也監督が撮ったAKB48の新曲「Beginner」【6】(10年10月)のPVは、メンバーの腕が切断されるなどの過激な内容で、シングルへの収録が見送られました。これについてはどう思いますか?

 中島監督は、「顔一発で見せるのは限界だ」ということがわかっているんでしょうね。ファン層を拡大するためには、アイドルがやらなそうなことを、積極的にやらないといけない。規制がかかって一般公開できなくなったのは残念ですが、プロモーションとして、結果的にはありだと思う。

 かわいい女の子の腕がもげて絶叫するような映像は通常禁じ手ですけど、AKB48はどんな無茶も通る時期に来ているはずだし、スタッフが自覚的にそこを仕掛けてきたなら流石だなと。規制にあふれたアイドル業界で、どこか破壊的な要素が入った作品を見つけると、一気に好きになっちゃいますね。アイドルは往々にしてファンのほうばかり向いて保守的な表現方法をとりがちだけど、このPVは評価したい。水着で踊っているだけじゃ、ファン以外は「この子、意外に胸があるね」だけで終わっちゃうし、何か引っかかることをやってくれないと。

──理想のアイドルPVは、タブーを破る作品だと。

 アイドル業界ってもともと規制が多いんだから、予想を裏切るのは難しいことじゃないんですよ。自分なんかは、チンコを出しても「ロマンポルシェ。だからしょうがねぇな」で終わっちゃうけど(笑)。"アイドルなのに◯◯"というのは、世間に届く要素になる。そういうことがないと、コアなファンも飽きがくるから、アイドル業界が終わっちゃいますよ。

児玉 一時期はやった"美人すぎる○○"みたいに、ギャップがあればあるほどグっとくるんですかね。確かに、初期のPerfumeも"アイドルなのにテクノポップ"という新しさと共に、その世界観をPVにも生かして、生活感のまったくない映像に仕上げているのも新鮮でした。何か簡単に咀嚼できない、妙な切なさがあったと思います。

 アイドルをより世間に届かせるためには、親戚のおじちゃんやおばちゃんに「あんた、アイドルが好きだなんて、ロリコンなんでしょ!?」と言われたときに、言い訳ができる要素をなるべく多く用意しておいてほしいんですよ。PVでも、「単にかわいいから好きなのではない」という言い訳ができると、アイドルに興味があっても、露骨ないかがわしさがあるために入ってこられなかった人が、「作品としていいよね」なんて言って、好きだと公言できますし。

児玉 作る側としても、常々そういう突っ込みどころは用意したいと考えています。"○○なのに......"という引っかかりから考えてみると、高須クリニックのCMなんか、実に素晴らしいですよね。院長自身が出演していて、"院長なのに"ヘリに乗ったりしていて、インパクトがありすぎ(笑)。だから数あるCMの中でも目立ってる。

 つい最後まで見ちゃうし、それでいて「整形外科なんだ」というキッチリした説明も出来てますからね。確かに、最高のPVかもしれない(笑)。

 モーニング娘。なんかは、かつて番組で、公明党本部に取材と称して乗り込むなんて無茶までやっていたんですよ。これはアイドルのイメージを逸脱しまくっていますよね。児玉さんにも今後、アイドルのPVを撮るときには、アイドルらしからぬ要素をこれでもかと入れて、楽しませてもらえるとうれしいですね。

(構成/橋川良寛)

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児玉裕一(こだま・ゆういち)
1975年、新潟県生まれ。映像ディレクター。安室奈美恵の「NEW LOOK」や、Perfumeの「シークレットシークレット」「ナチュラルに恋して」「ねぇ」の監督も務めている。「UNIQLOCK」ではカンヌ国際広告祭、ONE SHOW、米クリオ賞の世界3大広告祭すべてでグランプリ受賞。3年連続で「SPACE SHOWER Music Video Awards」最優秀監督賞も受賞している。


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掟ポルシェ(おきて・ぽるしぇ)
1968年、北海道生まれ。ニュー・ウェイヴ・バンド「ロマンポルシェ。」のボーカル、楽器、説教担当。同時に、DJ申し訳ナイタズのメンバーでもある。また、ハロー!プロジェクトやPerfumeのファンとしても知られ、アイドル界の論客として活躍。「週刊プレイボーイ」(集英社)では仲村みうとの共同連載「音楽PVに審判をくだせ! ミューズのオ・キ・テ」も担当していた。


【1】AKB48の「ポニーテールとシュシュ」

【2】ロマンポルシェの「親父のランジェリー2」

【3】Perfumeの「シークレットシークレット」

【4】スマイレージの「あすはデートなのに、今すぐ声が聞きたい」

【5】真野恵里菜の「マノピアノ」

【6】AKB48の「Beginner」

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