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神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第43回

民主党が知り得なかった 普天間移設問題の深淵【後編】

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2桁台の伸び率を維持する中国の軍事力とその抑制

神保 稲嶺氏・仲井眞氏はもともと沖縄の財界人ですから、経済界を代弁して発言しているところもありそうですね。それにしても、沖縄の交渉術はすごい。

守屋 議論すべき時を心得ているんです。役人は2年たつと異動するし、政治家もアメリカのように4年間も同じ部署にはいない。日本の行政組織は、継続性に乏しいのです。それゆえに、基本合意書・基本確認書の内容を明らかにすることなく、「沖縄の要望を満たしていない」とか、「ひどい案だ」と言われれば、中央の政財界・マスコミは、それに対する対応力がありません。

神保 この問題の複雑さも知らないまま、民主党は政権獲得を前に「県外移設」という実現困難な公約を打ち上げてしまった。しかし、いざ政権の座に就いてみると、軍事上・安全保障上、沖縄以外に移設の選択肢を見つけることができなかったと。今回、一応は結論を出したものの、沖縄基地問題は今後ももめそうです。政府としては、まずどんなことを考えるべきなのでしょうか?

守屋 今までの経緯を分析して、沖縄という風土とそこに住む人のさまざまな思いを理解し、何を優先すべきかを考えるのが一番大切です。普天間に関して、一番の問題は、「周辺住民の危険な生活環境を改善してほしい」と言いながら、14年間も解決されないでいる。そこから視点を外すべきではありません。

神保 もう少し端的に言ってしまうと、沖縄の中には問題を長引かせたほうが得をする人たちがいるということでしょうか?

守屋 それは大きな要素としてあると思います。沖縄では基地で苦しんでいる人と、基地で潤っている人が、イコールではないんです。私の試算では年間6000億円を超える国の予算が沖縄に投じられていますが、基地で苦しんでいる市民の生活環境改善のためには使われていません。

神保 弱者が基地の被害を受けるわけですね。

守屋 そうです。振興策の代表例であるハコモノは、基地の周辺でなく、基地から離れた、人の多い市街地の中心部につくられます。名護市に、この10年間で800億円の北部振興費が投じられましたが、大半は、基地のある東海岸ではなく、西海岸の市街地に投じられています。また、そこで潤うのは、基本的に建設業者だけです。これからは、基地で苦しんでいる個人に、直接的に手当てを行うような政策が必要です。

神保 「基地を返還してほしい、新設は嫌だ」というのもひとつの世論ですが、一方で沖縄がどれだけ基地に依存しているのか、ということを考えなければなりません。例えば、米軍基地で働く人々も約9000人いて、国家公務員より1号俸高い待遇を受けている。安全保障の問題とは別に、基地の返還には、非常に困難な部分がありますね。

宮台 問題は、なぜ膠着してしまったのかです。それを分析する必要があります。「沖縄が被害者で、米軍と結託した日本が加害者だ」という単純な図式で考えているうちは、この膠着状態を解きほぐすことは困難です。

守屋 そして、沖縄の一般市民の多くが基地に反対しているという先入観念も改める必要があります。14年前に起こった不幸な事件を契機として、米軍基地の負担を少しでも減らすために、日米両政府は、基地の返還、地位協定の運用改善、各種振興策の実施などに取り組んできており、大きく改善が図られてきています。米兵の犯罪も劇的に少なくなっています。

宮台 守屋さんの話を伺うと、沖縄米軍基地問題はレイヤーがいくつも重なっているのがわかります。まず安全保障上の問題。日米両政府が交渉したとき、米国が世界戦略上のめる案はどれか、日本が国土防衛上のめる案はどれか、を踏まえなければなりません。どちらかがのめない案は非現実的です。

 それを踏まえて、県外移設が可能だという話に日米両政府が合意したとして、戦略的意味が失われないような国内の受け入れ場所があるのか。これは「無理」に近い。それをいうなら沖縄だって「無理」なんだという人もいますが、基地機能が等価でも、現状維持に準じる選択肢と、現状の大幅変更を意味する選択肢では、合意コストを含めて意味がまったく違う。とすれば、沖縄県内で基地を統廃合するか移設するしかなくなります。

 しかしいずれの場合も、日本政府は最終的には沖縄が合意できる枠内で答えを導かなければならない。独裁政権ならいざ知らず、民主的体制の下で反基地感情が沸騰する場所に基地を置くことは、米国自身が明確に否定的だからです。そのことは過去20年間、世界各国の民主化の流れの中で米軍基地の数が半分以下に減った事実に表れています。

 そこで問題になるのは、守屋さんがおっしゃったように沖縄が交渉巧者であることに加え、沖縄に強固な血縁ネットワークがあるために沖縄の世論の所在を見極めるのが難しいこと。先に述べたようにムンチュウ内の有力者の意向に逆らえないので、有力者の意向が世論であるように見えてしまい、「沖縄の世論は基地OKだ」という話になる。

 ところが沖縄の人たちには「基地は嫌だが、生きるためには仕方がない」という二重の思いがあります。土建屋系の有力者は反対運動があったほうが犠牲を高く売れるので反対運動を利用しますが、しかし沖縄の人たちの多くには二重の思いがあるので少女暴行事件やヘリ墜落事故のような出来事で反対運動が有力者の思惑を超えて沸騰し、それまでと打って変わって「今度はみんなが基地に反対だ」と反転する。これを米国側からみれば「沖縄世論は基地賛成」から突如「沖縄世論は基地反対」に振れたと見えて、様子を見るしかないという話になります。

 それとは別に、本土の左翼の方々や、本土のリベラルな方々が、沖縄の人たちの中にある二重性「基地は嫌だが、生きるためには仕方がない」という気持ちの片側のみに光を当てる形で、「沖縄県民の誰もが基地に反対している」話にしてしまう。それをアメリカ側から見れば、沖縄の意見で基地を新設するという話だったのに、今度はみんなが反対している、という状況になる。これでは様子を見るしかなくなります。

神保 アメリカは、誰が相手なのかわからなくなってしまいますね。守屋さんにぜひ伺いたかったのは、そもそも沖縄になぜ海兵隊が必要なのか、ということ。この膠着状態においては、根本的な問題として必要な視点だと思います。

守屋 アジア・太平洋地域は、世界の経済を担う主要な海上交通路が走っており、地域の安定を国際社会は求めています。しかし、ここには領土・領域争い、イスラム過激派によるテロ、北朝鮮の問題が存在し、それに中国の海軍力・軍事力が2桁台の伸び率を維持しているという現実があり、領域内に収まらずに"外に出てくる"可能性も否めません。

 そんな中、このような多様な危機に対応できる軍事力を持つ国は、日本を含めて域内にはありません。アメリカの軍事力に頼らなければならない。そして、東アジアに米国の基地があるのは日本と韓国だけです。日本にその負担を担ってほしいというのが、多くの国のコンセンサスです。米軍基地を置くのは日本自身のためでもあるけれども、アジアを守るためにも役割を果たしている。大変な地域貢献であるということです。

宮台 在日米軍がアジア・太平洋地域の安定にとって重要だと認めた上で、しかし重要なのはあくまで嘉手納の空軍や佐世保の海軍であり、海兵隊には戦略的意味がさしてないのだから、海兵隊に限ってはグアムに集約してもよいのではないかとする議論もあります。このあたりは、僕ら素人にはわかりません。

 ところで、交渉巧者である沖縄の建設団体などがさまざまに動き回ったことで、普天間移設問題が、日米両政府に帰属できる要因とは別の要因によって膠着してしまったのは事実です。守屋さんは今後、民主党の沖縄政策にどんな展開を望みますか?

守屋 沖縄の基地問題は解決できるのです。この問題の本質に立ち返り、沖縄で基地問題に苦しんでいる人に焦点を当てた政策を打ち出すべきです。以前は東京でも基地問題がありましたが、都心から移設し、周辺部の米軍飛行場では、朝・夜の訓練飛行を少なくすることで解決しています。厚木基地でもNLP(夜間離着陸訓練)をやらなくなりました。こうした取り組みにより、米軍基地は国民が毛嫌いするようなものではなくなることを、本土の例が教えてくれています。

宮台 おっしゃる通り。僕は中学時代から大学時代にかけて米海軍厚木基地の離発着の直下に住んでいたので、米海軍横須賀基地の空母艦載機がNLPをやっているときは本当に死にそうな思いでした。これがなくなっただけで、どれだけ反基地感情が緩和したことか。

守屋 普天間移設を合意してから14年間、それを解決できない日本はどういう国なのかは、国民が考えるべき問題です。

(構成/神谷弘一 blueprint)

(『マル激トーク・オン・ディマンド 第471回』を加筆、再構成して掲載)

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『マル激トーク・オン・ディマンド』
神保哲生と宮台真司が毎週ゲストを招いて、ひとつのテーマを徹底的に掘り下げるインターネットテレビ局「ビデオニュース・ドットコム」内のトーク番組。スポンサーに頼らない番組ゆえ、既存メディアでは扱いにくいテーマも積極的に取り上げ、各所からの評価は高い。(月額525円/税込)


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宮台真司
首都大学東京教授。社会学者。近著に『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など。


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神保哲生
ビデオジャーナリスト。ビデオニュース・ドットコム代表。代表作に『ツバルー地球温暖化に沈む国』(春秋社)など。


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守屋武昌
日本通運入社後、71年、防衛庁(当時)入庁。防衛施設庁施設部長、官房長などを経て03年事務次官に就任、07年退官。

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