結局芸能界は変わらない――幽霊、新しい大衆はもう猿を見ない。

――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

吉本の騒動は笑いで「空気」を操るシステムの限界を示したが、「新しい」大衆はコンテンツ消費を宗教化して社会の「空気」を握る。

 吉本興業の騒動はブラック企業に勤めたことのある身には「他人事ではない」からずっと見ていたが、結局、有耶無耶になりそうだ。最大の問題は吉本と反社の関係だったはずだが、執筆時点でキーマンのカラテカ入江は雲隠れしたままだ。そもそもの記者会見も宮迫単独では説得力もなく、ロンブー亮の愚直さに助けられたのだが、亮を巻き込んだ計算高さは能年某と同じレベルでまったく信用ならない。実際、宮迫は用意周到にさんまや紳助へ根回ししていた。反社との交友が問題だというのに、反社との交友で引退した紳助に頼る時点で何を言わんや。そして、松本人志や加藤浩次はそれぞれの立場から契約問題へすり替えようとし、有象無象の若手芸人はここぞとばかりに搾取されてきたギャラの話ばかりしている。一方で吉本は大阪維新の会、オリックス、山口組……果ては薩長政府とも結びつき、大阪を支配している巨大複合企業体の一部なので、普天間基地移転後の土地利権や教育事業への進出を口実に官民ファンド「クールジャパン機構」から融資をくすねた政治的陰謀にまで話が広がっている。これらの問題発生と同時に大阪本社が中田カウスを東京本社へ派遣したのはあからさますぎて笑ってしまったが(表向きはルミネtheよしもとへのピン出演になっていた)、加えて紳助まで介入してくると、もはや名作『仁義なき戦い 代理戦争』レベルのドタバタ喜劇だ。

 ビートたけしはこの騒動を「芸人は猿回しの猿でしかなく、猿に謝らせる馬鹿がいるか」と諭したが、それを芸人自身が言うのはインテリ崩れのやつし趣味で、立川談志が「落語とは、人間の業の肯定」と自己言及して批評家に失笑された河原乞食のナルシズムでしかない。実際、談志の野暮な下品さはワイドショーのコメンテーターになった志らくが見事に受け継いだが、志らくの薄汚さに比べれば、同じ談志系の頭でっかちでもブラックユーモアで落とそうとする太田光や神田松之丞のほうがまだ節度がある。しかし、今回の件で露呈した日本独特の前近代的な芸能界が構造改革へ向かうかというと、難しいような気もする。吉本の騒動に先んじて新しい地図のテレビ出演に圧力をかけた件でジャニーズ事務所が公取委の警告を喰らっているが、追撃したのが日本財団の笹川陽平だったのは苦笑いしてしまった。新しい地図の事務所(CULEN)はケイダッシュやバーニングの影響下にあるから、ジャニー喜多川が亡くなれば「そういう手」で反転攻勢に出るだろうさ。既存の体制に代わる新しい流れは「迫害された大衆の怨念と復讐」より生まれるものだが、結局、吉本の騒動も新しい地図の一件も、大衆と乖離した反社と紙一重の組織間抗争でしかない。

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