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更科修一郎の「批評なんてやめときな?」【53】

技術がAVとアダルトゲームを接続する――幽霊、箱の中で覗き込むエロと未来。

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――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった?生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

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本橋信宏の『全裸監督』原作本と共に読んでおきたいが、映像化で意識的に隠した要素なので、発表当時よりも読後感は悪い。

 Netflixの『全裸監督』が話題だが、80年代のアダルトビデオ(AV)の異様な雰囲気をリアルタイムで知っているのは、たぶん70年代中盤に生まれた筆者の世代が最後だと思う。とはいえ、87年の時点では小学生で、学校で村西とおると黒木香の物真似をしては教師に殴られていた。実際、「自己啓発にハマった片岡鶴太郎の代わりに出てきたブリーフ芸人枠のおっさん」という認識だったのだが、子どもでも知っているほどの時代の寵児だったからこそ、ドラマの企画も通ったのだろう。

 この頃、パソコンゲーム雑誌だった『コンプティーク』には「ちょっとエッチな福袋」というアダルトゲーム紹介の袋とじページがあり、AVも紹介されていた。どちらも似たような金主(半グレ)の出資で作っていたメディアだが、小沢奈美の単体デビュー作『好きよ!!キャプテン』の紹介写真が、バットを持った野球選手風なのに下半身は裸だったから、勃起よりも先に笑い転げたことを30年たっても覚えている。だいたい、タイトルからしてザ・リリーズの曲のパロディだ。『全裸監督』でも高校球児とバスガイドのAV撮影でバスを爆破する意味不明でキャッチーなシーンがあったが、バブルの波に乗って裏本や裏ビデオの暗さを払拭しようとしたら『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ!!』と地続きになってしまった野放図で過剰な自由を筆者は面白がり、これこそがアダルトメディアだと勘違いした。そして、エロ自体にはそれほど思い入れもないのに、学生時代からエロ本界隈でライター仕事を始めていた。もっとも、その頃には村西監督が独立して作ったダイヤモンド映像は倒産し、古巣のクリスタル映像の窮地を救った飯島愛も2年でタレントへ転身するなど、『全裸監督』の自由すぎる時代、エロが儲かる時代は終わっていた。

 それでも、雰囲気だけは少し残っていた。エロマンガ編集者だった頃の話は何度か書いているが、隣の編集部が『ビデオ・ザ・ワールド』『ビデオメイトDX』だったので、『FRIDAY』の記者が深夜、当時の人気アイドル声優が無名時代に出演していた(らしい)素人ナンパ系企画ものAVを抱えて駆け込んできたことがある。確かに専門誌なので制作者や流出元も知っているが、女優の素性まではわからないので、中澤編集長兼社長に「君、アニメ好きだったよな?」と確認を頼まれた。筆者も知ったことではないのだが、腹筋が異様に硬く割れていることに驚いたら、そのまま「事情通」のコメントに引用された。いい加減なものである。しかも、暴走族出身の知人がその声優のマネージャーで、アダルトアニメ誌編集長の友人もファンクラブ副会長だったから、あとでえらく怒られた。故・永沢光雄氏のAV女優インタビュー収録もよく横目で見ていた。ある人気AV女優はヤンキー時代の喧嘩自慢しかしないので、「どうするんだ、これ?」と思っていたが、雑誌を読むとちゃんと「物語」になっていたので不思議だった。

 そういえば、ダイヤモンド映像の倒産は「空からスケベが降ってくる」と衛星放送へ先行投資したことが原因だが、業界の先輩たちはエロとテクノロジーが不可分なことをよく知っていた。勤めていた会社にも新事業開発室という謎の部署があり、オナホール型ゲームコントローラーという謎デバイスを開発し、アリスソフトの人気アダルトゲーム『あゆみちゃん物語』の「実写版」とセット売りしたが、さっぱり売れなかった。似たような金主なのにAVとアダルトゲームのユーザー層は、いつの間にか袂を分かっていたのだ。それから20年以上がたち、両者はようやく、ヴァーチャル・リアリティ(VR)などの新技術で再接続されそうだ。少し前にゲーム用VRヘッドセットのOculus Questを体験する機会があり、「価格も下がってきたし、これでAVが観れるなら一気に普及しそうだな」と思ったら、より低価格なOculus GOやスマートフォンを使った簡易VRゴーグルによるアダルトVR動画やライブチャットが流行の兆しを見せている。一方、90年代中盤以降、膨大なテキストの物語過剰で自壊したアダルトゲームの宿痾はソーシャルゲームへ流れ、バイノーラル録音を使った人造美少女の「声」の臨場感だけがメディアの優位性として残った。一瞬、徳弘正也のディストピアSFマンガ『狂四郎2030』が頭をよぎったが、両者が融合するのは時間の問題で、エロに使えない新技術が普及するはずもないので、筆者はエロが媒介する過剰でいびつな未来を見たい。ビデオとゲームが一時代を築いたように。

更科修一郎(さらしな・しゅういちろう)
コラムニスト&〈元〉批評家。90年代から批評家として活動。2009年、『批評のジェノサイズ』(共著/弊社)刊行後、休業。15年に活動再開。未来のない現在、サブカルチャーの愛好者であることは、過去の文化の死体を掘り起こす墓荒らしでしかない。それを指摘するから嫌われるのだが。

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