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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第111回

【神保哲生×宮台真司×杉之原真子】安倍政権が掲げる「女性政策」の矛盾と期待

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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女性政策推進を掲げる首相官邸のHP。

[今月のゲスト]
杉之原真子[フェリス女学院大学国際交流学部准教授]

日本が抱える問題の中でも、最も深刻なもののひとつに「人口減少」が挙げられるだろう。財政赤字から経済成長、さらには移民政策の是非にまで、その背景には人口の減少問題があるといっても過言ではない。その原因には、出生率の低下があるわけだが、現政権は女性政策を前面に打ち出している。この「ウーマノミクス」は期待できるのだろうか?

神保 今回のテーマは安倍政権の女性政策「ウーマノミクス」です。安倍政権が掲げる、「一億総活躍社会」の中核的な政策として位置づけられていますが、どうも話を聞いていると、女性の権利を尊重するのではなく、経済成長のためには女性の労働力が必要だという動機から出てきている政策のようにも見えます。

宮台 目的と手段の関係が逆転していないか、ということですね。

神保 ゲストはフェリス女学院大学国際交流学部准教授の杉之原真子さんです。杉之原さんは『「戦後保守」は終わったのか 自民党政治の危機』(角川新書)という本の中で、自民党の女性政策の歴史的な経緯を検証されています。

 ただ、本当の専門は女性政策ではなく国際政治経済だそうです。ジェンダー論の専門家ではない方が、このテーマで論文を書くことについて、ご自身はどのような意味があるとお考えですか?

杉之原 ジェンダーを中心にされている方ですと、どうしても人権の面から捉えることが多い。もちろんそれは重要なことですが、経済的な面も含めて、別の視点からプラスαで捉えられるところもあると考えています。

神保 まさにそこが、今回議論したい点です。安倍政権になってから、「女性が輝く社会」などといわれ始めました。安倍政権の女性政策、少子化対策などは、どうも経済政策としての色彩が前面に出ているように見えるため、人権やジェンダーを専門に研究されている方は、「あんなものはインチキだ」と見ている方が多いようです。気持ちはわかりますが、経済政策としての妥当性も、きちんと問う必要があります。

杉之原 結果的にそれが経済政策として効果的なのか、というところも議論の余地があり、現時点ではこうだと断言はできません。ただ、「女性の活躍」というテーマにおいては、どちらかというと民主党がリベラルな視点を持っていることから、自民党は逆に保守的になりがちなところもあった。そういう対立軸を乗り越え、あるいは無視して、経済視点で女性の活躍が促進されるのであれば、そういうこともあってもいいのかな、と思って見ているところです。保守的な価値観で女性の活躍を否定する人に対して、「経済的に必要なのだ」という説得が効くかもしれない。ただ、現在の進め方でいいのかということについては、今日お話しできればと思います。

宮台 「保守」を自称する人たちが、古き長き伝統を守るというより、むしろそれに無知であるがゆえに、最近できた体制を守っていたりします。専業主婦を中心とする二世代少子家族(核家族)が典型です。専業主婦になる割合が最も高かったのは団塊の世代です。戦後史を知っていれば当たり前ですね。団地化に並行して専業主婦が増えたのですからね。専業主婦がいる核家族こそが戦後レジームです。つまりアメリカナイゼーションの賜物です。日本の自称「保守」がこの程度だから、杉之原先生がおっしゃるように、日本では、戦略的にいろいろな言説を利用する立ち回り方が有効になるわけです。

神保 昨年12月に第4次男女共同参画基本計画が、閣議決定されましたが、その中身を見ると、200 3年に出された「2020年までに指導的な地位に就く女性の割合を30%にする」という目標が事実上放棄されています。こちらについてはいかがでしょうか?

杉之原 これは、そもそも無理です。民主党政権の第3次計画でも、「2020年に30%」には到底追いつかない数字が現実的な目標として掲げられていて、実際、第4次に至るまでその目標すら達成できませんでした。非常に残念なことですが、現実問題として、中堅層の幹部候補生に女性が少ない状態で30%というのは無理がある。ただ、そのことについては、第4次基本計画を出す際に政府がきちんと説明をしなければなりませんでした。

神保 現在、霞が関の本省で働く国家公務員の女性は、課長級が全体の3・5%くらい。一応、202 0年の目標が7%となっています。それから民間企業においては20年の目標が15%。これは事実上、20年までに30%という目標を断念したことになります。

 ただ、国家公務員の女性の割合の推移を見ると、国家公務員Ⅰ種・総合職試験の事務系区分においては申込者数が、90年の10%台から15年には33・7%に増え、採用者も38・8%へと、いずれも一応は増えています。

杉之原 これは国家Ⅰ種・総合職のうち幹部候補生といえる人たちの比率なのですが、採用者では90年代から女性の割合は増えてはいるものの、あまり劇的ではない。ただ15年度の採用ではかなり政策的に増やしているということがわかります。ですが、現状で幹部になれる女性が十分にいるかという意味で難しいのは確かです。

神保 これはあくまで新たに採用された人に占める女性の割合なので、全体で見ると、まだ上のほうは圧倒的な数の男性の年長者が占めています。全体の比率を上げるためには、今のような増加のペースを、向こう30年くらい続けなければなりません。

宮台 大卒で採用して15年くらいたって管理職になります。その意味で、今から15年くらい前、つまり00年に入った頃に女性の雇用を政策的に劇的に増やさなかった以上、民間であれ官庁であれ、今管理職になれる人はわずかしかいなくて当然です。社会を理念的に設計して「15年後、20年後のために、今どうするか」という組み立てをしなければならないのに、日本はそれが不得意です。

杉之原 20年までに30%、すなわち“ニイマルサンマル”というのを政府が初めて掲げたのが03年で、そこから確かに採用者の比率は増やしてはいますが、目標を達成するなら、より劇的に変えなければなりませんでした。

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