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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第112回

【神保哲生×宮台真司×渡辺靖】米大統領選候補トランプの「正義」とアメリカの「病巣」

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

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『トランプ自伝―不動産王にビジネスを学ぶ』(ちくま文庫)

[今月のゲスト]
渡辺 靖[慶應義塾大学環境情報学部教授]

世界中の注目を集める米大統領選の共和党指名候補のドナルド・トランプ。憎悪と偏見にまみれたトランプの言動は、日本でもたびたび報じられているが、アメリカのそれは日本の比ではない。こうした中、トランプ旋風を最も危惧しているのは、ほかでもない彼を担ぎだした共和党幹部だろう。トランプ人気とは、一体何なのか? 多角的に見ていこう。
神保 アメリカの大統領選挙がただならぬ状況にあります。ドナルド・トランプという異色の候補に支持が集まっていることは伝わっていると思いますが、その理由や背景をきちんと説明できている報道はあまり見られません。今回はトランプ現象について議論したいと思います。

宮台 トランプ候補の帰趨がどうなろうが、彼のブームに象徴される方向が今後増しこそすれ、緩和される可能性は乏しいでしょう。排外主義的ポピュリズムの流れです。ただし問題はアメリカに限りません。例えばスウェーデン。同国はEU加盟国で最も難民受け入れ割合が高いけれど、多くがダーティワークや3Kワークを担います。社会的差別の実態が可視化され、福祉大国が“他人のふんどし”で成り立つ白人国家である事実が明白になりました。結果、社民主義リベラルの正統性が疑わしくなり、抽象的に言えばリベラルという枠組みが特殊な条件に支えられてきた事実が誰の目にも明らかになったとも言える。J・ロールズに従えばリベラルとは「君が僕でも耐えられるか?」という入れ替え可能性の想定ですが、入れ替え可能性を想定する枠がいつも先取りされ、そこに難民は入れないのです。ことほどさように、アメリカで起こっている現象を一過性ないしアメリカ特殊のものと考えることはできません。各国民は、インターネット的な底抜けの欲望表出に駆られ、トランプのような候補者にますます走るでしょう。

神保 ゲストをご紹介します。アメリカ研究がご専門で、慶應義塾大学環境情報学部教授の渡辺靖さんです。渡辺さんには昨年10月にもご出演いただき、当時は「トランプはどこかで失速するだろう」と予想されていましたし、それはアメリカウオッチャーの大方の見方でもありました。アメリカの有権者も、さすがにそこまでバカではないだろうという前提でのお話でしたが、スーパーチューズデーもトップで乗り切り、今やトランプが首位のまま7月の党大会に突入する確率が、非常に高まっています。渡辺さんにとっても、これは予想外のことでしたか?

渡辺 ええ。一番の驚きは、「トランプ」という候補――つまり、政治経験がなく、しかも自由貿易を否定して、富裕層への課税強化を掲げるなど、これまでの共和党とは相入れない考えの持ち主が、同党の顔になるかもしれないということです。そうなると、我々の知っている共和党は終わるのかもしれない。

 共和党内からは「トランプは極左だ」という声もある。一方、KKK元幹部のデービッド・デュークがトランプへの支持表明をしたことに対して、即座に拒否しなかったことで、逆に「トランプは極右だ」という声も出ています。つまり、極左であり極右である。リベラルであり、レイシストでもある。そこで今、このトランプというカードだけは切り捨てるべく、共和党の主流派も保守派も取り組んでいます。

神保 新しい考え方かと思ったら、極右であり極左であると。要するに、理念的な一貫性などは無視して、面白そうなこと、盛り上がりそうなことだけをつまみ食いする究極のポピュリズムということですね。

宮台 しかしながら、今申し上げた通り、排外主義とリベラルは基本的に両立します。というより、コインの表と裏なのです。リベラルとは、限られた範囲での平等主義であるため、何かを排除しなければ成り立たない構造があるからです。

神保 なるほど。政策的なこともさることながら、移民や人種的、宗教的、性的少数派に対するスタンスなどに色濃く反映される、いわゆるヘイト(憎悪)やビゴット(偏見)というもの、あるいはレイシズム(人種差別)やセクシズム(性差別)といった差別主義的な考え方が、今後、トランプ現象の中でどういう位置づけになっていくのかということですね。

渡辺 スウェーデンの話も出ましたが、トランプの持っている移民排斥の言葉は、実はヨーロッパでの動きともシンクロしています。しかし現実として、アメリカ社会はどんどん多文化化しており、白人も少数派になっていて、無宗教の人もこの10年くらいで10%ほど増えている。トランプ現象というのは、こうした変わりつつあるアメリカに対し、それまで既成勢力の中心であった白人や男性――キリスト教徒と言ってもいいかもしれませんが、そういった人たちの“最後のあがき”という気がします。

 2012年の大統領選挙で、アメリカの共和党は「変わらなければいけない」という重大なレッスンに学んだはずです。変わるアメリカにおいて、党大会の参加者のほとんどを白人男性が占めるような状況では到底勝ちようがない。マイノリティを取り入れ、政策もより寛容なものにしなければならない。しかし、トランプ現象はまったくこれと反対です。

神保 ですが、トランプは少数の白人からだけではなく、広範な支持を得ているようにも見えます。渡辺さんは、これをどう見ていますか?

渡辺 もともとトランプの支持基盤は、いわゆるプアホワイトだったと思います。白人が少数派になっていき、転落する恐怖を持っている人たちに支えられていた。一方でグローバル経済の中で這い上がれない、経済的に困窮した人たちに対して、彼らが喜ぶことならばなんでも言う。「自由貿易には反対だ」「でも社会保障は守る」「移民は排斥する」――これはイデオロギーではなく、やはりポピュリズムです。ほかの候補者が弱いこともあり、だんだんと現状不満、あるいは職業政治家への反発を持っている人たちの声を幅広く吸収し始めた。もはやプアホワイトのみならず、あらゆる層に浸透して、南でも北でも勝てる本格候補になっています。

神保 これは政策が支持されているのでしょうか? それとも、ムードとか面白さだけで支持されているのでしょうか?

渡辺 私の理解では、今のワシントンが妥協となれ合いと利権に絡め取られているという意識が、国民の間に広く共有されていると思います。それに対して、トランプは暴言を吐き、常識では通じないことをやってきている。有権者はその大胆不敵さを見て、「彼ならワシントンを変えられるのではないか」と期待する。主流メディアも、もはやワシントンの一部と見なされており、メディアがトランプを叩けば叩くほど支持率が上がっていく状況です。

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