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神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」 第110回

【神保哲生×宮台真司×上村達男】NHKの病巣はトップにあるのか、組織にあるのか?

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]
上村達男[早稲田大学法学部教授・元NHK経営委員]

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『NHKはなぜ、反知性主義に乗っ取られたのか』(東洋経済新報社)

『クローズアップ現代』ヤラセ問題に続き、社員アナウンサーの危険ドラッグ所持やタクシー券の私的流用が明るみに出たNHK。これまで多くの問題、事件が噴出してきた同局だが、今回は籾井勝人会長の適正を疑問視する声が多く聞かれる。これは、日本の組織に共通した問題ではないだろうか? コーポレート・ガバナンスの視点で考えてみたい。

神保 今回は不祥事が相次ぐNHKの問題を取り上げます。今年に入ってからもアナウンサーが危険ドラッグ所持の疑いで逮捕されたり、タクシー券の私的流用が明らかになるなど、NHKの不祥事が続いています。その一方で、責任を取るべき立場にある籾井勝人会長は、どんな失言が続こうが、また不祥事が起ころうが、会長の座に居座ったままです。

宮台 昔は「国民的メディア」「国民的番組」と呼ばれるものがありました。お茶の間にテレビが置かれ、古くは街頭テレビもありました。ゴールデンタイムや7時のニュースといえば誰もが観ているという前提があって、床屋政談や井戸端会議の形で話題にできたのですね。

 そういう時代のメディアにおける矜持の持ち方と、現在のメディアにおけるそれは、相当違います。インターネットとの間で人々の「可処分時間」を取り合うことになって、ビジネスモデルが脅かされつつある民放では、公共に対する貢献よりも損得勘定が専らになっています。「公共放送」であるはずのNHKにも同じ流れが忍び込んでいます。

神保 最近のNHKで僕が個人的に気になっているのは、この3月末で『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターが降板することです。『クロ現』は菅義偉官房長官が生出演した際に、国谷さんが台本になかった質問をしたために官邸の怒りを買ったと言われています。それが今回の降板の原因だったのかどうかは定かではありませんが、国谷さんの後任は局のアナウンサーが務めることになるそうです。

 これは『報道ステーション』(テレ朝)の古舘伊知郎さんの交代や、もうひとり交代が取り沙汰された『NEWS23X』(TBS)の岸井成格さんについてもいえることですが、これらの番組がほかのニュース番組と違っていた理由のひとつが、キャスターを局の職員ではない、外部の人間が務めていたことでした。

 局の職員も能力的には優秀かもしれませんが、会社から給料をもらっているサラリーマンの社員は、キャスターになっても社の方針に従わざるを得ません。しかし、フリーのキャスターは局の意向がどうであろうが、自分の看板に傷がつくようなことはしたがりません。

 政治が放送局に介入することが多くなっている今、ニュース番組の司会を社員キャスターが務めた場合、フリーのキャスターの場合と比べて、番組に政権の意向がより色濃く反映される恐れがあります。無論これは、フリーのキャスター自身が、権力と対峙する強い意志を持っていることが前提ですが、その意味で残り少なくなった「とんがった」ニュース番組で一斉にキャスターが交代になるというのは、現在の政治とメディアの関係を象徴する出来事のように思います。

 今日はそんなことも念頭に置きつつ、NHK問題を考えていきたいと思います。

 ゲストをご紹介します。早稲田大学法学部教授の上村達男先生です。上村先生はもともとコーポレートガバナンスの専門家ですが、昨年2月までNHKの経営委員会の委員長代行も務めておられました。

上村 はい。3年の任期のうち、監査委員を半分やり、残り半分で代行をやりました。

神保 まずは、今NHKで起きていることについて、ガバナンスの観点から見ていきたいと思います。先ほども例を挙げましたが、今年に入ってからはNHKアイテックというNHKの子会社で架空発注とカラ出張による着服などがあり、それ以前には別の子会社のNHKビジネスクリエイトで不正経理、NHK出版で架空発注というのもありました。なぜNHKやその周辺で、これだけ不祥事が続くのでしょうか?

上村 NHKのガバナンスには根本的な欠陥がありますが、その上で一言いうと、こういうことはどんな企業でも起こるのです。東芝のような巨大な粉飾も行われている中においては、NHKの不祥事の規模は大きくない。しかし、緊張感が非常に緩んでいるのは間違いない。NHK関係者からは「もう限界だ」という声も聞こえてきます。要するに、ここでガバナンスの問題とはさまざまなことがありますが――権力を行使するトップに対するガバナンスが利いていない。こんなトップの下ではやってられないという気分が横溢しているのは確かではないでしょうか。

 記者会見の中で籾井会長が4つのとんでもない発言をしていますが、それをまだ撤回していないのです。「個人的見解」だとしていますが、そうであるなら放送法違反を個人的な信条としている人が会長ということになってしまう。現場は一生懸命やっていますが、そういう人がトップにいて、上の層は現場に平気で介入してくる。一つひとつの不祥事についてそれが決定的な原因だとは言えませんが、NHKは上から腐ってきているのではないかと思います。

神保 新年早々、すでに国会でNHKの不祥事が問題になり、1月13日の衆院予算委員会で籾井会長が弁明をする場面がありました。ガバナンスについて問われた籾井会長は、「グループ会社の規律ある経営の確立、グループ会社に必須の機能の再精査、コンプライアンス、不正防止策の徹底を実務的に方針に沿って、可及的速やかに施策を策定して順次実行していく」と回答しています。しかし、上村先生からすると、会長のこの発言は見当違いだということですね。

上村 ガバナンスというのは、経営権の正統性の問題です。正統性の根拠がない人がトップにいて「ああしろこうしろ」と言っても、現場は「どうせ自分たちが一生懸命やっても、上はくんでくれないのだ」と思うでしょう。だから不祥事が当然に起こる、ということにはならないのですが、経営の公正さが疑われている中では、何が起きてもおかしくないと皆が思ってしまうという状況があると思います。

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