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丸屋九兵衛の音楽時事備忘録「ファンキー・ホモ・サピエンス」【8】

「R&B=セックスBGM」を体現する絶倫巨匠の20年史

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人類のナゾは音楽で見えてくる! ブラックミュージック専門サイト「bmr」編集長・丸屋九兵衛が“地・血・痴”でこの世を解きほぐす。

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『Black Panties』R・ケリー (発売元:SMJ)
ゲストの人選は抜かりなく、ファーストシングル「My Story」では人気ラッパー、2チェインズをフィーチャー。日本盤は本国のデラックス・バージョンをもとに曲を追加したもので、世界最大のオトク感ありか。この後、セックスと笑いが交差する不倫ミュージカルビデオ『Trapped in the Closet』シリーズが今年中に復活予定とか。


この前のツアーでは、俺が「It Seems Like You’re Ready」を歌うたびに女性客のパンティーが乱れ飛んでいた。俺が天啓を感じたのは、ある晩、飛んできた下着が俺の手首に着地したときだ。その黒いパンティーを見て、俺は「神の思し召しだ」と思ったね。

 そして彼は、『Black Panties』というアルバムを作った。

 えらい瞬間に天の導きを感じるヤツがいるものだが、このR・ケリーという男は単なるアホではない。それどころか、米「ビルボード」誌に「この四半世紀でもっとも成功したR&Bアーティスト」と認定された存在なのだ。

 黒人音楽は、流行り廃りが激しい世界だ。「天才」「イノヴェイター」と讃えられる偉人でさえ、レコーディング・アーティストとしての全盛期は長くない。例えば……ジェイムズ・ブラウンは65年から72年の7年(でシングル約50枚、アルバム約30枚)、マイケル・ジャクソンは――ソロとしては――79年から91年までの12年(でアルバム4枚)、プリンスは82年から92年の10年(でアルバム10枚)……となろうか。各々、その後は全盛期に創造した曲たちを元手に、ライブ中心で活動していくことになる。

 いま挙げた例が、あまりに「神」クラス(おまけに2人が故人)なので、R・ケリーと同時代の人にも触れておこう。80年代末に新ジャンル「ニュー・ジャック・スウィング」でR&Bに革新をもたらしたテディ・ライリー。当時、天才と讃えられた彼も、振り返ってみると、そこそこコンスタントにヒットを出せていたのは87年から96年の9年間のみだ。

 ところがR・ケリーは、92年のデビューから、件の最新作『Black Panties』まで、21年間で発表したアルバム15枚は、程度の差こそあれ、どれもがヒット。ということは、たぶん黒人音楽史上でもっとも全盛期が長いアーティストなのだ。そして、もうひとつ重要なこととして、90年代末に血迷ってセリーヌ・ディオンとデュエットし、失笑を買ったことを除けば、音楽的な失敗が一度もない。つまり、評論家先生たちの反応はどうあれ、そのメイン支持層である黒人大衆がR&Bに求めるものを提供し続けているのだ。

 それはセックスである。

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