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第2特集
極私的 MJ(マイケル・ジャクソン)論──町山智浩[映画評論家]

にわかファン面してる奴らは今すぐ代わりに死んでこい

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 ここ最近、マイケル・ジャクソンについてコメントを求められることが多いんだけど、もう断ってるんだ。

「週刊文春」ではマイケルが死んですぐに長いコメントしたけどね。連載が始まったばかりだから、断るわけにいかなかったから。「マイケル・ジャクソンとは生きたディズニーランドであり、人工的国家アメリカを病的に象徴する存在だ」と書いたところ、「あんたは最低だ!」「死ね!」なんてメールが山のように届いた。特に彼が身体を「漂白」したことについては「あれは病気なんだから、ひどいこと書くな!」って。

 マイケルが患っていたとされる「尋常性白斑」という皮膚病は、実際の症例の写真がネットに山ほど載ってるし、日本でもかかっている人をたまに見かけるからわかるんだけど、皮膚がまだら状にピンク色になるものなんだよね。マイケル・ジャクソンみたいに皮膚全体が均一に真っ白にはならない。しかも、ごく短期間で真っ白になったしね。本人の発言だけをうのみにするのはどうかと思うよ。

 また「マイケルは偉大です! それを変態扱いするのは許せない!」というメールも多かったけど、マイケルを偉大な音楽家だと思うことは別に異論はない。ただ、奇人だし変人だったのも事実じゃん。そこまで否定して無理やり聖人扱いするってのは、やりすぎだよね。そもそもマイケル・ジャクソン本人が自分がヘンテコだって知っててやってたからね。『メン・イン・ブラック2』なんて自分でノーギャラで出演志願してコケにされてるんだから。

 この前、「SPA!」(扶桑社)を読んでたら、福田和也と坪内祐三の対談連載で、坪内が「私はマイケルのファン」とか言ってるの。ウソつけ! あんた、彼の生前に一度でも「ファンだ」って言ったことあったのか? 本当にファンなら、あの売れなかったアルバム『インヴィンシブル』も買ったんだろうな?

 アメリカでも状況は同じでさ、急に偉人扱いだよ。6年前の映画『最"狂"絶叫計画』では、子どもをさらいに来るブギーマンがマイケル・ジャクソンだったのに。ついこないだまでマイケルは、ジェイソンやフレディみたいな存在だと思われてたんだよ。
 
 特に黒人たちの手のひら返しがヒドい。

 急に「人種の壁を越えた英雄です」とか言って。
 
 実際、今まで黒人たちはみんなマイケル・ジャクソン、大ッキライだったくせに。黒人であることを捨てて白くなっちゃうし、白人のスペルマで子ども作るしさ。黒人の裏切り者だもん。『インヴィンシブル』が売れなかったとき、マイケル・ジャクソンはレコード会社のソニーに対して「僕が黒人だから差別して、マジメにプロモーションしなかった」と訴えたんだけど、黒人コメディアンのクリス・ロックなんて怒ってたよ。「テメエは白人より白いくせに何言ってるんだ!」って。
 
 そもそもマイケル・ジャクソンをジェームズ・ブラウンよりも重く大きく扱うのは、音楽史、文化史上の間違いだよ。マイケルは音楽的にJBほどの革命をしたわけではないし、JBが叫んだ「俺は黒人、誇りに思う」というシャウトとは正反対のことばかりしてたわけで。
 
 アメリカのテレビも7月上旬は朝から晩までマイケル・ジャクソンのニュースばかりで嫌になったね。だから下院議員のピーター・キングはブチ切れて、自分でビデオを作ってYouTubeに上げたんだ。「朝から晩までマイケル・ジャクソン賛美でうんざりだ! あいつは変態だったんだぞ!」って怒鳴ってるビデオ。「あんた、自分の子どもをマイケル・ジャクソンと一緒に寝させるつもりか?」って。

 キング議員はすごく非難されたけど、彼の言いたいこともわかる。「ただの歌手をここまで英雄扱いするのは異常だ! 本当の英雄とは人々のために命を捧げている消防士や医者や兵隊さんだ!」っていうんだけど、確かにアメリカではオバマ大統領がアフガニスタンにものすごい兵力を投入していて、かなりの兵士が戦死し続けている。

 イラクと違って、タリバンを倒すことはアフガン国民も周辺諸国も望んでいることだから、これは本当に正義の戦いなんだけど、アメリカのテレビはマイケルのことばかりで、戦場で兵隊が何人死のうと全然報道されなかった。
 
 アメリカではほとんどすべての週刊誌がマイケル特集号を出して商売してる。日本でも、なんと「現代思想」(青土社)からマイケル特集をやるといって原稿依頼が来た。もちろん断ったよ。そんなに重要だと思うなら生きてるうちになんで特集しなかったんだ? まったくハイエナやハゲタカと同類だね。これはマイケルだけに限らないけど、有名人が死ぬと、今までファンでもなかったくせに便乗して追悼文を書くような奴らには「代わりにテメエが今すぐ死ね!」って言いたいよ。
(談)

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まちやま・ともひろ
本誌人気連載「映画でわかる アメリカがわかる」でおなじみの、サンフランシスコ郊外在住の映画評論家。近著に『アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない』(文藝春秋)など多数。


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