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第2特集
大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【3】

完全ウェブ化戦略は奏功! 一方、PV至上主義のワナを産経は回避できるか?

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ウェブ・パーフェクトの"覚悟"
産経新聞

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「MSN産経ニュース」

「ウェブ・パーフェクト」なる題目で、どんなスクープでもウェブを優先させることを宣言した産経。 紙中心の新聞を変革する有意義な試みとなるのか、それとも……。

 今年、創刊75周年を迎えた産経新聞。02年に全国紙としては初めて東日本地域で夕刊を廃止し、購読料の値下げに踏み切った同紙だが、これが奏功し、ライバル紙の多くが部数を減らす中、約202万部(02年)から約220万部(08年)へと、着実に部数を積み上げている。

 ウェブメディア事業においても、他社と比べ、フットワークの軽さが顕著だ。05年11月、他社に先駆けて、デジタル部門を株式会社産経デジタルとして分社化。ニュースと記者ブログなどを融合させたニュースサイト「iza!」を開設したほか、各サイトを次々にリニューアルし、現在、メインの「MSN産経ニュース」を含め5媒体を運営する。

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「iza!」
産経デジタルのウェブサイトオープン(06年6月)と同時に開設された「iza!」は、ブログ機能など、ウェブの特性を活かしたサイト構成になっており、各紙媒体所属の記者による多数のオリジナルコンテンツを掲載している。

 産経新聞東京本社編集局次長で、ウェブ編集長を務める鳥居洋介氏の話では、住田良能代表取締役社長の「ウェブ・パーフェクト」宣言(速報性に加え、質・量ともに充実したニュースサイトを実現するため、スクープを本紙に先行してウェブ掲載することなどを表明したもの)の通り、基本的に本紙掲載記事のほぼ100%をウェブに掲載しているという。また、それによって本紙の販売部数が落ちた、ということもないようだ。前ページで触れたが、各社が二の足を踏んでいる「ウェブへの全記事掲載」のハードルを、あっさりとクリアしてしまったわけだ。その効用か、昨年10月にマイクロソフト社と共同開設した「MSN産経ニュース」は、わずか1年で月間4億1000万PVを稼ぐまでに成長し、5媒体の合計も、9~10億PVに達している。

 問題は、コンテンツの内容だ。「iza!」などに掲載される、ウェブの特性と記者の能力とを生かした「法廷ライブ」「記者会見ライブ」などの試みは、人気を博しているだけあって、確かに興味深く、報道としても意義あるものだろう。ただ、その一方で、「ZAKZAK」「SANSPO・COM」にならともかく、公益性を重視する中核ニュースサイトたる「MSN産経ニュース」のクレジットで、例えば「杉本彩、胸元パックリで『男の理性を破壊』」(08年10月21日付)といった記事を掲載するのは、少々やりすぎの観がある。よくいえば、ウェブメディアの読者の目を惹くテクニックに長けた、悪くいえば、単にPV稼ぎを目的としているとしか思えない記事も多々見受けられるのだ。産経新聞本紙のほか、「MSN産経ニュース」「iza!」用の記事も作成している、ある現役の産経新聞記者はいう。

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「ZAKZAK(夕刊フジ)」

「本紙に載せる記事に関しては、正確性や社会的意義を重視しています。でも、PVの多い記事は社内で噂になることもあるので、ウェブ用の記事は、ついつい面白いかどうか、目を惹くかどうかを重視して書いてしまいます。夕刊紙やスポーツ紙ならまだしも、一応まじめな新聞の記者として、たまに不安になりますね」

 本紙であれば1面トップを飾る重要な記事であっても、ウェブで人気記事になるとは限らない。それどころか、通常、政治・経済といった硬派な記事より、芸能・スポーツのような軟派な記事のほうが、圧倒的にPVを稼げるものだ。これについて、ある独立系ウェブメディアの編集者は、自戒を込めつつ警鐘を鳴らす。

「確かに『PV=広告収入』なので、誰だってPVは欲しいですよ。でも、PVのみを追求していくと、そもそもメディアとしてサイトを運営している意味がなくなってしまう。そのあたりはバランスですよね」

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「SANSPO.COM(サンケイスポーツ)」

 前出の鳥居ウェブ編集長も、読者離れにつながるような引っかけ見出しや際どい内容の記事でPVを稼いだりしないよう、記者に念を押しているという。ただ、一方で、そのさじ加減は非常に難しい、とも述べている。

 結局、単純な「PV=広告収入」という収益モデルだと、新聞社は、そうした板挟みから永久に逃れることができない。加えて、ネット広告のPV単価が、10年前の100分の1にまで落ち込んでいる現在、単なるPVの追求だけで大きな利益を生み出すのは、ほぼ不可能になっている。では、産経新聞社の選ぶべき道は? その疑問に対する、前出佐々木氏の回答は明快だ。

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「フジサンケイビジネスアイ」

「PVというものは、実は多ければいいというものではありません。かつては、PVと広告単価は比例していたので、ウェブメディアは、とにかくPVを増やすことに必死でした。ところが、06年頃から、広告査定がしっかりと行われるようになり、PVの量ではなく質が重視されるようになった。つまり、PVは少なくても、質の高い記事であれば、インテリ層など、比較的富裕な読者を呼び込み、広告のクリック率を上げられるというわけです」

「MSN産経ニュース」を例に平たくいえば、芸能ゴシップや下ネタばかり閲覧する読者より、お堅い政治・経済記事を好む読者のほうが、高額な商品を買ってくれる可能性が高い、ということだ。さらに、記事ジャンルごとに読者をグループ分けし、広告とマッチングさせることで、報道機関の本分を全うしつつ、収益を上げられる。今、産経新聞社にとって必要なのは、面白記事を大量生産することではなく、ネット広告の潮流をしっかりとおさえることのようだ。

(文/松島 拡・西川萌子)

[当事者に聞く!!]
産経新聞編集局 局次長・鳥居洋介氏

「"身軽さ"が最大の 武器。ウェブの重要性を記者にも徹底周知」

 弊紙は、朝毎読と比べて、いい意味で身軽だと思っています。「ウェブ・パーフェクト」も、身軽さゆえに思い切ってやれた部分があった。

 チャレンジングなことが大好きな会社なので、ウェブも、新しい表現の舞台だと考え、オリジナルコンテンツをたくさん用意しています。例えば「法廷ライブ」。あれは来年5月に始まる裁判員制度を意識したものです。先日は、元Vシネマ女優の傷害致死事件の裁判を取り上げました。たとえ最初は興味本位で来てくれた読者も、詳細な裁判の様子を読むうちに「自分が裁判員だったらどんな判決を下すだろう」と考えてくれるようになればと思っています。

 ネットならではのアプローチで、社会性があり、かつ読者に喜んでもらえるツールが、産経のサイトに行けばいつでもあると思ってもらえればありがたいですし、そういうサイトにしていかなくてはいけない、と思っています。

 ウェブを編集していると、どうしてもPVが気になってしまいますが、「新聞に載らないものはウェブに載せられるが、新聞に載せられないものはウェブにも載せられない」という発想を持つことが大事。新聞と同じで、中学生が楽しく読んで理解できる、というのが基本です。

 いまは、記者を束ねているデスクたちに、記事をアップするまでの一連の流れを見学してもらい、これからはウェブが会社の大きな柱のひとつになる、自分たちの待遇にもかかわってくるのだから、一生懸命書いてもらいたい、ということを現場の記者にも周知させている最中です。



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