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第2特集
大手新聞のニュースサイト、10年目でも迷走中のワケ【2】

時間に追われ記者は"速報疲れ"  朝日のウェブはあくまで「紙の補完」なのか?

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800万部の"プライド"朝日新聞

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「asahi.com(アサヒ・コム)」
朝日新聞のメインサイト「アサヒ・コム」は95年8月に開設。ウェブメディア掲載記事を取材・執筆するのは、基本的に本紙と同じく編集局所属の一般記者(約2500名)だが、ウェブ専用コンテンツの一部は、デジタルメディア本部専属の記者によって作成されている。

 明確にウェブに注力し、速報、ウェブ独自コンテンツにも力を入れる朝日新聞社。しかし、800万部の余裕からか、「基本は紙!!」の意識からなかなか抜け出せていないようで……。

 読売新聞の1002万部に次ぐ、804万部(出所:日本ABC協会「新聞発行社レポート半期」08年1月~6月平均)を発行する朝日新聞は、3大紙の中で唯一、「Yahoo!ニュース」などへの記事提供を行っておらず、ニュースポータルサイトへの対決姿勢を鮮明に打ち出している新聞社だ。今年1月、読売・日経と3社共同で開設したニュースサイト「新s(あらたにす)」も、対ニュースポータルサイト戦略の一環と見られる。ただし、もともと「Yahoo!ニュース」に記事を提供していない朝日・日経とは異なり、読売新聞は、当面「Yahoo!ニュース」への配信を継続する意志を表明するなど、各社の足並みは揃っていない。加えて、朝日新聞のメインサイト「アサヒ・コム」の月間PVは約3億、「Yahoo!ニュース」の10分の1以下という厳しい状況だ。

 同社のウェブメディア(「アサヒ・コム」「どらく」)に掲載されるコンテンツには、本紙から転載されるものと、ウェブ専用のものとの2種類がある。ウェブ専用コンテンツとして第一に挙げられるのが、事件・事故の経過に即応して、随時発信される「速報」だ。当然記者は、従来のように朝刊・夕刊の締め切りに合わせて出稿するのではなく、24時間態勢での対応を求められるようになった。こうした態勢は、他の大手紙も同様である。ある現役の朝日新聞記者は言う。

「上司から、『今後速報が重要になるから、どんどん発信しろ』とせっつかれていて、取材中や休刊日でも速報の原稿を書かねばならなくなりました。はっきりいって面倒ですし、常に時間に追われている感覚です」

 これについて、前出の佐々木氏はこう語る。

「本来、速報は通信社の仕事です。海外ではそれが徹底されていて、アメリカの高級紙の記者などは、論評のみ執筆し、速報にはタッチしない。新聞社が速報に労力を割いても、発信のスピード以外、各社の独自性を出せないから、紙面の価値を上げることはできません。逆に新聞社の本業がおろそかになり、自らの首を絞めることになりかねません」

 では、本紙用・ウェブ専用の記事の書き分けなど、ウェブメディアに対する記者の意識に、何かしら変化はあるのだろうか? 前出の記者は、「取材して書く、という作業になんの変わりもないので、個人差はあるでしょうが、大半の記者は、速報以外、紙とウェブのどちらに載るかなど、ほとんど意識していないと思います。社が速報に力を入れているのは、紙の売れ行きが落ちているし、ウェブで何かしなくては、という焦りがあるからでしょうね」と話す。他の朝日新聞記者からも、同様の意見はたびたび聞かれた。ウェブに対する現場記者の関心は、総じてかなり低いようだ。しかも、同社のデジタル関連事業の売り上げの規模が、社全体の売り上げの1%程度とあっては、記者が現時点でウェブメディアに興味をそそられないのも無理はない。

 さらに別の朝日新聞記者は、同社のウェブ戦略の内情をこう語る。

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「どらく」
団塊世代向けエンタテインメントサイト「どらく」は06年6月の開設。

「上層部からは、ネット時代に対応しなければ、という思いをひしひしと感じます。でも、例えば、低コストで導入でき、かつPVも稼げる記者ブログ(産経「iza!」掲載の、記者が実名で取材の現場や思いなどを綴るブログ)などには、炎上を恐れて手を出さない。結局、実際に何をすればいいのかは、わかっていないのでしょう。社内には、ウェブに詳しい人材もいます。なのに、彼らに任せるわけでもない。『わからないものには手を出さない』というのが、ウチのスタンスなのです」

 こうした状況を生み出している要因について考察する前に、一点、同社のウェブメディアに関する基本方針を押さえておきたい。デジタルメディア本部の小野高道本部長補佐【インタビュー参照】によれば、同社のウェブメディアにアップされるのは、正確な数は非公開だが、本紙に掲載された記事の半分に満たないのだという。次ページで解説する産経新聞社のような例外はあるが、他社もおおむね同程度で、ニュースサイトへの掲載割合は、平均して本紙の3〜4割といわれている。

 その理由は単純で、すべての記事をウェブで無料閲覧できるということになれば、わざわざ金を払って本紙を買う読者はいなくなる、という判断からだ。同じ理由で、朝日新聞社の場合、スクープを紙より先にウェブに掲載することはない。

 前出の複数の同紙記者にその点を尋ねると、「もともと紙メディアである以上、本紙を優先するのは当然。ウェブは二の次」と、異口同音に答えた。「本業は紙であり、ウェブメディアはあくまで本紙を補完する存在」という、小野本部長補佐の見解とも一致するものだ。

 しかし、ウェブ化の過程であらわとなった紙偏重の姿勢こそが、実は先述のようなウェブに対する記者の無関心を助長し、適切な人材配置を妨げている要因ではないのか。そして、その姿勢を支え、強化してきたのは、長年にわたり維持されてきた、数社の大手新聞社による、世界的に見ても異常な寡占状態と発行部数ではないのか。

 確かに紙には、一覧性や携帯性といった優位性がある。しかし、それと同様に、ウェブにはウェブにしかない優れた特性がある。その意味で、紙とウェブとは、並列の関係にあるメディアであり、ともに単なるツールにすぎない。どちらも一長一短であり、両者に優劣はないのだ。ことにビジネスの観点からいえば、大切なのは、メディア別のコンテンツの利用方法を模索し、いかにカネに換えるかという一点だけだ。前出の佐々木氏は言う。

「若い頃からウェブで記事を読んでいる世代は、紙に固執などしません。それなのに、紙メディア、特に新聞社は、いかに紙のイメージを損なわずにウェブへ移しかえるかにのみ集中して、ウェブの特性を無視し、迷走している。すべて、『とにかく紙はすばらしい』という発想から抜け出せていないことが原因です」

 同社がウェブ化で成功を収めるために必要なのは、「まず紙ありき」という意識にメスを入れることのようだ。ただ、発行部数を徐々に減らし、赤字に転落したとはいえ、まだ事態はさほど切迫しているわけではない。尻に火がつくまで、創刊から130年かけて築き上げられたものを変える気にはなれないだろう。

(文/松島 拡・西川萌子)
(絵/本田佳世)

[当事者に聞く!!]
朝日新聞デジタルメディア本部 本部長補佐・小野高道氏

「最大のライバルはヤフー。記事のクオリティで勝負する」

「アサヒ・コム」にとって、本当の意味でのライバルは、「YOMIURIONLINE」や「毎日jp」などの同業他社ではなく、やはり「Yahoo!ニュース」です。うちのPVは月間3~4億くらい。それに対し、「Yahoo!ニュース」は40億超ですから、そこにどう挑んでいくかが課題です。

 ただ、「Yahoo!ニュース」はユーザーを呼ぶことはできますが、ニュース自体は他社から買うしかない。うちは自前のニュースをそのままウェブに出せます。「Yahoo!ニュース」は他社からまずニュースを提供され、その上で提供されたそれら膨大な数の記事のどれをトップに持ってくるか選ばねばならず、そこで遅れが出ます。速さでは新聞社系のサイトにはかなわない。それが強みです。

 紙とウェブとでは読者の求めているものが違うとは思います。ウェブの読者には芸能人ネタも受け入れられやすい。記者には、記事によって反響に違いがあるということを認識してほしいと思っています。

 ただ、PV稼ぎのために質を下げれば、読者は離れていく。ウェブ上にはたくさんのサイトがあって、出所のはっきりしないコンテンツが大量にあります。その中で、うちのコンテンツは、動画なども含め、すべてチェックを経ていますから、朝日新聞クレジットという部分を信頼していただいていいと思います。

 精神論めいていますが、対「Yahoo!ニュース」に限らず、何よりも、スタッフ一人ひとりの熱意や、良質なコンテンツを作ろうという愚直さが重要だと考えていますね。



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