――雲に隠れた岩山のように、正面からでは見えてこない。でも映画のスクリーンを通してズイズイッと見えてくる、超大国の真の姿をお届け。
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
19の州が独立し、西部連合とフロリダによる同盟軍と政府軍の間で内戦が勃発したアメリカ。首都ワシントンD.C.は陥落寸前だが、4人のジャーナリストは大統領に単独インタビューを行うために、ホワイトハウスを目指すが、……。
監督:アレックス・ガーランド、出演:キルステン・ダンストほか。10月4日全国公開予定。
アメリカ合衆国から19州が離脱しました」
ニュースが告げる。大統領が反乱軍に対する空爆の成果を演説する。
「我ら合衆国政府軍は、テキサスとカリフォルニアの〝西部連合〟に大打撃を与えました」
アメリカ内戦を描く映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』、この設定はねじくれている。なぜならカリフォルニアはリベラル、テキサスは右翼で左右両極端の州だから。それが手を組む? 来日した『シビル・ウォー』の監督アレックス・ガーランドに尋ねてみた。
「大統領が憲法に反して任期を延長して軍で国民を攻撃したから、カリフォルニアとテキサスが左右のイデオロギーを超えて同盟して反乱を起こしたんだ」
実際、ドナルド・トランプ前大統領は「私が当選したらもう投票する必要はない」など、終身大統領を目指すような発言を繰り返している。
主人公は女性カメラマン、リー(キルステン・ダンスト)と、彼女に憧れるカメラマン志望の少女ジェシー(ケイリー・スペーニー)たち。彼らジャーナリストはニューヨークから自動車で反乱軍に包囲されて陥落寸前の首都ワシントンD.C.を目指して戦場を駆け抜ける。『地獄の黙示録』のように。
「ジャーナリストを主人公にしたのは、現在、彼らが軽蔑されているからだ。政治家たちはメディアを攻撃する。市民のデモでもメディア関係者は唾をかけられる。しかし、ジャーナリストは真実を伝えるために必要なんだ」
彼らは行く先々で血みどろの戦闘と拷問、虐殺を目撃する。しかし、どちらもアメリカ軍だし、誰がどちら側で誰と戦っているのかわからず、主人公たちもいつ殺されるかわからないので、観客はずっと不安だ。