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第1特集
歴史を見るなら映画に限るが……

『ナポレオン』に期待――映画会社が敬遠しがちな歴史大作映画の醍醐味

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――今年末、巨匠リドリー・スコット監督による歴史大作映画『ナポレオン』が満を持して公開される。近年、このスケールの歴史大作は結構久しぶりな気がしなくもないが……。歴史映画はなぜ減ったのか? そもそも集客が弱いのか? 同ジャンルの現状をひもといてみたい。

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『ナポレオン』監督:リドリー・スコット 脚本:デヴィッド・スカルパ 出演:ホアキン・フェニックス、ヴァネッサ・カービーほか。2023年12月、全国の映画館で公開。配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

「見届けよ 皇帝であり 情夫であり 暴君であり 伝説の男を」

そんなキャッチコピーとともに、迫力の戦闘シーンや華麗な宮廷シーンの予告編が公開されているのは、日本では本年12月に公開予定の映画『ナポレオン』である。

フランス革命後、同国の覇者となり、一軍人から皇帝へとのし上がり、ヨーロッパを戦乱の渦に巻き込んだナポレオン・ボナパルト。彼を演じるのは、『ジョーカー』(19)での怪演も記憶に新しいホアキン・フェニックスということで、ナポレオンのダークな側面にどこまで焦点が当てられるのかが期待されている。メガホンを取るのはリドリー・スコット。『エイリアン』(79)、『ブレードランナー』(82)などのSFで知られる一方、歴史大作の分野でも古代ローマの剣闘士を描いた『グラディエーター』(00)、十字軍を描いた『キングダム・オブ・ヘブン』(05)、旧約聖書にあるモーゼの十戒を独自の解釈で描いた『エクソダス:神と王』(15)など、多くの作品を監督している巨匠だ。『ナポレオン』の上映時間は2時間38分とのことだが、さらに長尺の4時間半バージョンもあり、スコット監督はこちらの公開も希望しているという。これほどのスケールの歴史大作を手がけられる監督は、今やリドリー・スコットくらいしか見当たらないというのが映画界の現状であるかもしれない。

というのも、特に21世紀になってから20年あまり、ハリウッドの大手製作会社は歴史大作を敬遠しているという。映画評論家のなかざわひでゆき氏はこう話す。

「現在のハリウッドの潮流は、片方にはマーベルやDCなどのスーパーヒーロー映画や『ミッション:インポッシブル』『ワイルド・スピード』といった、巨額の製作費をかけたシリーズもの。その一方では、話題になった『ミッドサマー』(20)や、アカデミー賞を受賞した『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23)に代表される、アメリカの新興映画スタジオ『A24』のような賞レース狙いの低予算アート作品に二極化しています。大作歴史映画は、1960年代頃のハリウッド黄金期には映画の花形として盛んに製作され、90年代以降にも『ブレイブハート』(95)、『エリザベス』(99)、『トロイ』(04)などのヒット作はありますが、近年は『ポンペイ』(14)や『ベン・ハー』(16年製作)が興行的に大失敗したこともあり、敬遠されるようになりました。要は失敗した時のリスクを負えないので、大予算の映画はアメコミものかシリーズものしか作れなくなっているということですね」

特に悲惨だったのが、16年版の『ベン・ハー』。古代ローマを舞台にした作品で、アカデミー賞11部門を受賞した60年日本公開版が有名だが、16年版は興行成績・評価ともに散々な結果に終わり、日本では劇場公開すらされなかった。

そして、なかざわ氏は、歴史大作映画がはやらなくなったもうひとつの原因として、テレビドラマにお株を奪われたことを挙げる。

「1シーズン全12話で1億ドル以上をかけたとされる『ROME(ローマ)』(05〜07)を筆頭に、イギリスのチューダー朝を扱った『THE TUDORS〜背徳の王冠』(07〜10)、ローマ教皇アレクサンデル6世を主人公にした『ボルジア家 愛と欲望の教皇一族』(11〜13)など、主にケーブルチャンネルで大作映画並みの予算を組んだ歴史ドラマが作られるようになりました。映画だとどんなに長くしても3〜4時間が限界ですが、テレビドラマでは十分な尺で歴史人物の一生を描くこともでき、映画で歴史を描くことがかつてほど観客にアピールしなくなってきた、ということなのだと思います」

アカデミー作品賞受賞作を見ても、かつては『ガンジー』(83)、『アマデウス』(85)、『ラストエンペラー』(88)など、しばしば歴史大作が受賞していたものだが、近年の受賞作は現代や比較的近い過去を舞台にした作品が中心となっている。製作費がかかるうえに、観客にもある程度の歴史の知識が求められる歴史映画は、ハリウッドのプロデューサーからは敬遠されているのかもしれない。

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