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更科修一郎の「批評なんてやめときな?」【79】

幽霊、エロ本界隈が薬漬けだった頃。

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――ゼロ年代とジェノサイズの後に残ったのは、不愉快な荒野だった? 生きながら葬られた〈元〉批評家が、墓の下から現代文化と批評界隈を覗き込む〈時代観察記〉

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いまにして思うと、この本が角川歴彦の会社から出たというのが、最も興味深い。兄(コカイン密輸事件)への当てつけか?

今回は「大麻・ドラッグ」特集とのことで、担当氏から「漫画家やアニメーターのドラッグ事情とかどうですか?」と訊かれたが、そりゃ無理筋だ。確かに漫画家は高濃度のエナジードリンクを飲んでガンガン徹夜するのが日常茶飯事だが、非合法ドラッグもやったら百発百中オーバードーズしてしまう。実際、筆者も若い編集者だった頃はそうやって徹夜していたが、週刊誌の漫画家アシスタントだった担当作家に「カフェイン錠剤をカフェイン液で流し込むのはやめろ。アシ仲間が2人死んだから」と言われてやめた。

そもそも、漫画家やアニメーターはどっかのベンチャー企業がコスプレダンパ経由でエロ接待を始めるまで、クラブで遊ぶ習慣すらなかったから、ドラッグに手を出す機会もなかったのだ。というか、抑制系(ダウナー)や幻覚剤は享楽的な性格でないとバッドトリップするから、内向的で考え込むクリエイター系の仕事とは相性が悪いし、興奮系(アッパー)はアウトプットする作品の出来が安定しなくなるから手を出しづらい。

一方、エロ本業界というくくりで見ると、この界隈の人々はよくクラブへ行くから、90年代末はエクスタシー(MDMA)や個人輸入のスマートドラッグが大流行していた。流行れば関連書籍も出るから、筆者の本棚にも『スマートドラッグ生活入門』(メディアワークス)なんて本があった。当時、勤めていた編集部の上の階では『BURST』という不良性感度雑誌を作っていて、海外のドラッグカルチャーをよく扱っていたから(もちろん、書いていたのは石丸元章氏)、サブカル者のたしなみだったんだろうな。ちなみに、編集長の曽根さん(ピスケン)は数少ない仲の良い同僚だったが、筆者は80年代ジャンプ漫画の話ばかりしていた。

このあたりは男子トイレに「社内SEX禁止」と貼り紙されるようなサブカル系エロ本出版社ならではの状況だが、サブカル血中濃度の低い漫画編集者周辺ですら見かけたのはブロン中毒だ。液体風邪薬にエフェドリンやコデインが入っていた頃の話で、強烈なアップダウンがスピードボール(抑制系と興奮系の同時摂取)に似たトリップ感だと日常的に飲んでいる同業者もいた。スマートドラッグはおしゃれだからダメだけど、市販の風邪薬ならOKというのもどうかと思うが、『BURST』でもアイカワタケシ氏が『虫けら艦隊』というブロン中毒体験記を連載していたから、かなりメジャーな「ドラッグ」だったんだろうな。

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