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第3特集
写真家がドイツとポーランドで撮り下ろした実像

移ろいゆくウクライナ避難者

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今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻。本誌今号の校了時点(6月初頭)では“戦争”の終わりはまだ見えず、メディアの報道も続く。この間に戦火を逃れてウクライナから周辺の国々へ脱出した人々は、今どのような環境下に置かれ、何を想っているのか――。5月半ば、写真家の西村満がドイツとポーランドでその姿を追った。

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天然ガスを買い続けて間接的にロシアを支援するか、自由を取るかを問う、ベルリンの街角のポスター。
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自宅前が爆撃され、息子とワルシャワへ避難してきた女性。写真を撮っていいか尋ねると、わずかにうなずいた。

ロシアがウクライナに侵攻した2月24日以来、メディアやSNSなどで刻々と変わる戦況に触れてきた。自国を追われた人々が身を寄せる周辺国はどんな状況なのか、自分の目で見て、写真に残したくて日本を出たのは5月9日。奇しくもロシアの戦勝記念日だった。欧州便の多くがロシア上空の飛行を避けるものの、戦勝記念日で不安だったこともあり、バンコク経由の迂回ルートを選択し、20時間以上かけてドイツのミュンヘンへ。到着したのは翌日10日の朝だった。

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寄付された衣類が並ぶ教会。ワルシャワは食料や生活用品のケータリングが充実していた。

ミュンヘンには僕が東京のシェアハウスに住んでいた頃のハウスメイトがいて、イギリス生まれドイツ育ちの彼女に通訳をお願いすることになっていた。ミュンヘン入りしてまず意外だったのは、ニュースで報道されていた混乱がほとんど見当たらなかったこと。街が避難者であふれ返っていたり、避難所がカオスになっているのを想像したが、一見すると戦争の気配はあまりなくて、正直、肩透かしを食った。聞くところによると、侵攻直後、そうした混乱が各街であったのは確かなようだ。しかしその後、支援体制が徐々に整い、ビザが発給されて各地へ散っていったり、帰国した避難者がいたため、わかりやすい形での混乱が見えなかったのだ。それはつまり、戦争が日常化していることも意味していた。

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避難所になっている、ベルリンの閉鎖された空港。荷物の量も人それぞれ。

ミュンヘンで最初に出会ったのは、ロシア人留学生の男女2人。共にプーチン政権には反対の立場を取り、男性は避難者をサポートするボランティアや、戦争に抗議するデモにも参加していた。そして、そういった場でプーチンを罵倒する人たちを見て、痛快だったと振り返っていた。一方、ボランティアで避難者と接したときは、自分がロシア人であることを隠さずにはいられなかったそうだ。彼の友人であるロシア人女性は一時期、ロシア人全員が戦争に賛成しているわけではないことをSNSで頻繁に発信していた。ロシア人にしか言えないことだと自覚したのが、その行動のきっかけになっているのだが、今はむしろ戦況よりも、自国の経済が一番の心配事になっているようだった。

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「STOP WARS」の文字が飛び込んでくる、ベルリンの街角。

戦争を機に、飛行機やヘリコプターなどの音に敏感になったウクライナ人留学生もいた。彼女はウクライナ中央部出身で、家族はまだ祖国で暮らす。個人的な経験から、ロシアとの関係は2014年のクリミア併合以降、大きく変わったと感じている。バスケットボールチームに所属していた彼女は、それ以前、練習試合でクリミアやロシアを訪れていた。だが併合後はクリミアに行けなくなり、仲が良かったロシアのホストファミリーからは「ウクライナ人は赤ちゃんを食べるんでしょう?」と真顔で言われ、疎遠になってしまった。ロシアのプロパガンダは当時すでに始まり、信じられないような話を真に受ける人は少なくなかったと嘆く。

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避難所になっている、ベルリンの旧空港に向かうバス。乗客の多くは女性と子ども。

ミュンヘン中央駅で活動するボランティア団体の女性スタッフは、シリア難民の対応をした経験と知識を生かし、軍事侵攻から間もなく、政府や地方自治体の指示を待たず、ひとりで机を置いて避難者の受け入れを始めた。ここでまず避難者は登録をし、ケガをしている場合は手当てをしてもらい、PCR検査を実施。ウクライナの地方から来る人の大半は新型コロナウイルスのワクチンを接種しておらず、その意味でもここはとても危険な場所らしい。ピーク時に比べて避難者はかなり減ったが、反対にスタッフはいろんな人がいて、なかには寝ていたり、酔っ払っているような人も。ミュンヘンに限った話ではないが、一般家庭などに受け入れられた女性の避難者が性暴力を受けることが後を絶たないらしい。スタッフの女性は「悲しいことです」と、避難者に向けて作った注意喚起のパンフレットを僕に手渡した。

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