サイゾーpremium  > 特集  > 裏社会学  > 【ロック】が年寄りの文化に
第1特集
ロックンロールが老いていく【1】

時が止まってしまった音楽雑誌たち ロックが年寄りの音楽になっていく

+お気に入りに追加

――毎月、30年前のロックスターが表紙の「ROCKIN'ON」(ロッキング・オン)、年老いた速弾きギタリストが表紙の「BURRN!」(シンコーミュージック)……。かつての音楽誌はもっと多様性があったはずだが、どうしてこんなに年老いてしまったのか? ロック中年の〈元〉批評家の更科修一郎が過去を振り返る。

2207_12_kage_r_200.jpg
【1】『ROCKIN'ON JAPAN』(1986年/ロッキング・オン)

3月、 『ROCKIN'ON JAPAN』【1】のメインライターとして活躍した音楽評論家の松村雄策の訃報が伝えられたが、同誌の読者ではない筆者が思い出すのは、1991年に小林信彦と繰り広げた「ビートルズ論争」だけだ。筆者は小林のファンなので、まさか19歳年上な小林のほうが生き残るとは、と驚いたが、当時のロキノンには「嫌なマニアの雑誌だな」という不信感を抱いた。坂本冬美がセーラー服を着ていたHIS特集号は面白がって買ったし、山崎洋一郎編集長時代の熱烈なエレファントカシマシ推しも嫌いではなかったが、結局、ロキノン文化圏とは疎遠なまま30年が経過した。もっとも、音楽雑誌は馬鹿みたいに読んでいたから、結局、別の意味でひねくれたロック中年になってしまったのだが、今回はその歴史を振り返ってみたい。


ソニーとアニメの蜜月 主題歌の〈1980年代〉

幼少期は横浜に住んでいて、テレビ神奈川/TVKのロック番組『ファイティング80's』を観ていた記憶がある。なんで観ていたのかは両親も覚えていないが、嫌な小学生だな。当時のロックは『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ系)あたりの歌謡曲に比べると熱く泥臭いイメージで、ARBやPANTAは子ども心に怖かったし、TVK以外で観ることも稀だった。実際、シーナ&ザ・ロケッツが80年の『夜ヒット』に出演した録画を観ると居心地が悪そうで、GS出身なのにロックを知らない井上順から差別的に紹介されていたが、その後、YMOやRCサクセションがイチ抜けて垢抜け、和製MTV番組の『ミュージックトマトJAPAN』でミュージックビデオが流れるようになると、急激にポップ・ミュージック化していく。80年の結成時点では『狂い咲きサンダーロード』に出てくるような群馬の不良少年だったBOØWYが、85年頃にはジャンポール・ゴルチエを着るお洒落でポップなロックバンドになっていたのだから。

というか、86年放送開始の『LiveTOMATO』で観たロックアーティストたちは『ファイティング80's』と違って、みな禍々しくも小綺麗になっていた。84年2月の『夜ヒット』で戸川純が歌った『玉姫様』のパフォーマンスの衝撃は、後に『幽☆遊☆白書』(集英社)の名場面にもなっているが、ロックのポップ化&アイドル化で芸能界の保守本流だった『夜ヒット』はジャンル毎に分裂。『幽白』で描かれた92年にはすべて終了していた。

実際、その流れを加速させたのは、エピックソニーが次々と繰り出してくるテレビCMや人気マンガのアニメ化とのタイアップ戦略だった。特に後者は『CITY HUNTER』(87年/読売テレビ)と言えば、パブロフの犬のようにTM NETWORKの『Get Wild』が脳内で流れるほど不可分な関係だが、小比類巻かほる、大沢誉志幸、岡村靖幸、PSY・Sといったエピックソニーの若手アーティストをこのアニメで知った70年代生まれは多かろう。小室哲哉ソロの変な声も(V2『背徳の瞳』も買ったよ)。15秒や30秒のCMはワンフレーズ勝負なので楽曲との相性は難しいが、人気アニメのOPやEDは毎週定時で89秒流れる完全なMVなのだから、そりゃ曲も売れるってもんだ。この成功を源流として、ソニー・ミュージックエンタテインメントは楽曲を売るためのアニメ制作会社・ANIPLEXを作り、『Fate/Grand Order』という巨大な集金システムを構築するなど、さらなる大成功を収めている。

2207_12_kage_l_200.jpg
【2】『PATi PATi』(1984年創刊 ソニー・マガジンズ)

当時のソニーはソニー・マガジンズという出版社も持っており、硬派な『GB(ギターブック)』(77年)から枝分かれした 『PATi PATi』【2】がチェッカーズやC-C-B推しで成功したことから、さらに『PATi-PATi ROCK'n'ROLL』(86年)に枝分かれした。こちらは創刊号からして渡辺美里が表紙のソニー系アイドルロック推し雑誌だったが、ビジュアル系の台頭で、UNICORN、バービーボーイズ、電気グルーヴなどを推す号の本誌譲りなポップさと、氷室京介、BUCK-TICKなどを推す号のスカした落差が大きくなり、やがて奥田民生ソロですらスカした表紙になった。

80年代後半、「新しいロックアーティスト」はアニメやマンガ経由でその存在を知ることが多かった。新しいかどうかは微妙だが、あがた森魚を『うる星やつら』のED曲だったヴァージンVSの『星空サイクリング』で知った友人もいるし、わかつきめぐみの少女マンガの作者コメント欄でZABADAKを知った70年代生まれも多かろう。

ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2024年5月号

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ