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第1特集
このままだと日本は経済後進国に――

“グレタさん叩き”から読み解く「環境問題後進国」日本の社会意識

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――気候変動への対応が世界で進む中、そのシンボル的存在としてメディアに登場することが多いグレタ・トゥーンベリ氏。彼女の行動は世界の若者世代に称賛・支持され、世界を大きく動かしたが、日本のネット上では彼女へのバッシングが今も目立つ。なぜ日本で彼女が叩かれるのかを、気候危機の現状の解説を交えながら考察していく。

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映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』より。全国順次公開中。©2020 B-Reel Films AB, All rights reserved.

2018年8月、スウェーデンの国会前で「気候のための学校ストライキ」という看板を掲げ、ひとりでデモを始めたグレタ・トゥーンベリ氏。当時、彼女は15歳。少女が始めたデモは若者層を中心に世界で拡大し、19年の「グローバル気候マーチ」の抗議行動は150カ国、4500カ所で行われ、600万人が参加した。また19年の国連気候行動サミットでの怒りに満ちた演説や、大西洋もヨットで横断する移動スタイルなどで、彼女の認知度は日本でも上昇。その行動を称賛・支持する人は、若い世代を中心に増えている。

ただ、それ以上にネット上で目立つのが、彼女の言動を揶揄する声だ。

SNS上では「グレタさんの背後に中共の存在」「グレタさんの後ろにウォール街」といった陰謀論も一部で拡散。その大半は明らかなデマで、ヴィーガンの彼女の食事にハムを混ぜたフェイク画像も拡散された。そして「ヨット以外は馬車でご移動されていらっしゃるのかと…」と彼女の電車移動を揶揄した登山家・野口健氏のように(批判を浴びて後に謝罪)、トゥーンベリ氏に難癖をつけずにはいられない大人は多いようだ。

トゥーンベリ氏がこのようなバッシングを浴びていることには、「現状の気候危機に関する日本人の理解の薄さ」「〝女子ども〟を蔑視する日本の風潮」などが大いに関係しているようにも思われる。そうした日本の実情も考えながら、本稿ではトゥーンベリ氏が叩かれる背景をひもといてみたい。

まず、彼女をバッシングしているのはどのような人たちなのだろうか。

「彼女を揶揄している人たちは、偏った思想を持つノイジーマイノリティといえるでしょう。というのも、令和2年の内閣府の世論調査では、脱炭素社会の実現に向けて二酸化炭素等の排出を減らす取組について、9割以上の人が『取り組みたい』と回答している。大多数の人が温暖化対策の必要性を感じているわけで、グレタさんに噛み付く人は、その対策に消極的な少数派の人だといえます」

そう話すのは、戦争、平和、人権、環境をテーマに活動するジャーナリストの志葉玲氏。その前提を踏まえたうえで志葉氏は、「彼女は非常に有名なアイコニックな存在であるがゆえ、やはりバッシングに遭いやすい」と続ける。

「ただ、日本であまり理解されていないのは、彼女は世界的に見れば、気候変動への対策を求めている若者のひとりにすぎないということ。今や同様の行動を起こしている若者は世界に何百万人といますが、そうした事実は日本では十分に報じられてはいません」

冒頭に書いたように、19年の「グローバル気候マーチ」の抗議行動の参加者は600万人で、その中心は10~20代の若者世代。各地の活動のリーダーにはトゥーンベリ氏のような10代の女性も目立っていた。志葉氏の著書『13歳からの環境問題|「気候正義」の声を上げ始めた若者たち』(かもがわ出版)によると、19年の「グローバル気候マーチ」のイベントを東京で呼びかけたのも、高校生を含む若者だったという。

そして日本では、「なぜ10代の若者たちが、そんなに熱心に温暖化対策に取り組んでいるのか」についても、今ひとつ理解されていないようだ。

「それは気候変動に関する報道の質・量が欧米に比べて低く、国民の危機意識も低いことが理由のひとつでしょう。日本では今も地球温暖化(Global warming)という言葉が広く使われていますが、ほかの先進国ではClimate Change(気候変動)という言葉が一般化し、最近はClimate Crisis(気候危機)という言葉が多く使われています。そして日本ではIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の内容を掘り下げて、現在の危機的状況を伝えるような報道がまだ少ないですが、海外ではセンセーショナルな研究結果も積極的に報道されています」(志葉氏)

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