サイゾーpremium  > 特集  > アダルト  > 【夫婦別姓制度】の最前線
第1特集
夫婦同姓の強制は日本だけ

実現しない選択的夫婦別姓制度と“主人”の呼称に通底する主義主張

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――先の衆院選の自民党勝利で、選択的夫婦別姓制度の実現はまた遠ざかった感がある。主要政党の党首の中で、岸田総裁だけが別姓制度導入への反対を表明しているからだ。今回はこうした問題と、「主人」「嫁」「家内」といった配偶者の呼び方の関係について考えてみたい。

「来年の通常国会に選択的夫婦別姓を導入するための法律を提出することに賛成という方は挙手をお願いします」。記者のこの質問に対し、9人の党首のうち、8人の党首が挙手。手を挙げなかったのは、中央の自民党・岸田文雄総裁、ただひとり──。

この情景が展開されたのは、衆院選公示前日の10月18日。希望する夫婦は、結婚しても結婚前のそれぞれの姓を使い続けられるようにする、「選択的夫婦別姓制度」の導入に対する与党自民党の姿勢が浮き彫りになったのだ。

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阪井裕一郎氏の著書『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)

「法律的な結婚をしないで、事実婚をして夫婦別姓で生活している人というと、すごくリベラルで左翼的な人なのではないかと思われがちかもしれませんが、決してそうではありません。多くの人はむしろ普通の結婚を望んでいるのです。さまざまな事情で名字を変えられない、変えたくないのが理由で夫婦別姓にしているということは、私が行った調査でも非常にはっきりしました」

そう話すのは、福岡県立大学で教鞭を執る、家族社会学が専門の阪井裕一郎氏だ。阪井氏の著書『事実婚と夫婦別姓の社会学』(白澤社)には、同氏が聞き取り調査したさまざまな夫婦別姓の夫婦が登場するが、そのスタイルを選んだ理由は「職場が旧姓使用を認めず、それまでの人脈を変えたくなかったから」「日本の婚姻制度に違和感があるから」「養子縁組をした姉の子どもの名字が変わるのが嫌だったから」などさまざまだ。男性はつい意識から外れがちだが、名字が変わることで免許証、パスポート、銀行口座などさまざまな方面で変更の手続きを強いられるのは、ほぼ女性の側だ。日本の法律では結婚すると夫か妻の姓どちらかに統一しなければならないが、現行では96%のケースで女性が姓を変えるといわれている。

「特に名前で検索される論文が実績として評価される研究者にとって、名字が変わるのは致命的な事態。現在、日本では結婚した女性研究者のほとんどが社会的には旧姓をそのまま使用しています。会社でも旧姓のまま仕事をする女性は多いし、実質的に日本の社会はすでに夫婦別姓の社会になっていると言ってもいい。しかし、法律だけがそこに追いついていない。というより、ある種の人たちが、法律的には絶対に夫婦同姓の制度を守ろうとしているようです」(阪井氏)

それはすなわち日本の保守層であり、自民党とその支持者とみられるのだが、その反対の理由について阪井氏は、「論理的な反対ではなく、自民党が言う伝統こそが日本の家族なのだという、宗教的な信念のようなものすら感じますね」と言う。

実際、自民党では選択的夫婦別姓制度の法制化について、「家族の絆を弱める」「通称使用を認めればそれで十分」といった意見が多く、法案提出には至っていない。岸田総裁も就任前は選択的夫婦別姓制度導入に前向きな発言をしたこともあったのだが、総裁就任後はすっかり現制度を守る方向に傾いているようだ。

姓を変えることで被る不利益

世界的にも、法律上の夫婦同姓をこれだけ厳密に定めているのは日本くらいで、阪井氏の著作によれば、西欧諸国の制度では、夫婦が同姓、別姓、複合姓のいずれかを選択することができ、70年代以降、婚姻後も出自の姓を名乗る女性が増加している。とはいえ、近年のデータでも、アメリカ女性のおよそ70%、イギリス女性のおよそ90%が結婚した際に夫の姓を選択しているとのことであるが、ミドルネームとして元の姓を使用したり、フランスでよくあるケースとして、事実婚で法律上は別の姓だが、通称として家族で同じ姓を利用するなど、多様な姓のあり方が実現している。阪井氏は言う。

「夫婦別姓反対論者は、別姓だと家族の絆が壊れるということのほかに、子どもと親が違う姓だと可哀想だと言いますが、普通子どもは友達の親の名字などそれほど気にしていない。それを言うなら現在の制度の下、離婚して母親に引き取られると子どもの名字が変わってしまうことの弊害も大きい。子どもの名字が変わるのが嫌で離婚後も元夫の姓のままにする女性が一定数いることを考えても、女性と子どもばかりが姓を変えさせられがちないまの仕組みをやはり検討するべき時期にきているのではないでしょうか」

夫婦が同姓を強いられることで、姓を変えざるを得ない側(主に女性)が被る不利益はほかにも多々ある。自身も夫婦別姓で生活し、『母と娘はなぜ対立するのか 女性をとりまく家族と社会』(筑摩書房)などの著書がある作家・生活史研究家の阿古真理氏は、次のように話す。

「私が法律的な結婚をしないで事実婚のまま夫婦別姓で生活しているのは、家父長制をそのまま引き継いだ戸籍のあり方に反発したことも大きな理由です。個人的な理由としては、いざ結婚するとなると、ずっと使ってきた『阿古』という名字を変えることに抵抗があり、かといって夫が私の主張のために犠牲になって姓を変えるのもおかしいと感じたことがあります。夫婦のどちらかが姓を変えることで我慢を強いられる日本の制度はおかしいと、自分が結婚するにあたってよりはっきりと感じるようになりました」

結局、阿古氏は戸籍上の婚姻をしないことで、名字の変更にまつわるさまざまな手続きに煩わされずにすんだ。困ったのは、生命保険の手続きの時に一悶着があったくらいだという。

「プライバシーの点でも、夫婦別姓だと結婚しているかどうかを親しくない人にまで知られなくて済む。夫婦同姓が前提だと、姓を変えた人は否応なく結婚したり離婚したことが明らかになってしまうのも、夫婦同姓強制制度の不都合な点だと私は思っているのです」(阿古氏)

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