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丸屋九兵衛の「バンギン・ホモ・サピエンス」【16】

【William Shatner】艦長、90歳で宇宙へ

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――人類とは旅する動物である――あの著名人を生み出したファミリーツリーの紆余曲折、ホモ・サピエンスのクレイジージャーニーを追う!

William Shatner

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(絵/濱口健)

実は音楽アルバムも多数発表、「カバーだが歌わず、歌詞を朗読」という形式だ。宇宙テーマの有名曲を集めた11年作はリッチー・ブラックモアやマイケル・シェンカーから、トゥーツ(&ザ・メイタルズ)やブーツィー・コリンズまでが参加!

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宇宙、そこは最後のフロンティア。

フロンティアを「開拓地」と訳してしまうと、アメリカ帝国覇権主義者の「マニフェスト・デスティニー」宣言とも響きかねないセリフで開幕する、そんなSFテレビ番組が始まったのは1966年のことだ。

しかし同番組でアイオワ州出身の熱血モテモテ男性艦長を演じたその人が、オーストリア・ハンガリー帝国とロシア帝国から移民した──おそらく反ユダヤ暴動を逃れて──(全員)ユダヤ系の祖父母を持ち、英仏両言語環境で育ったカナダのシェイクスピア俳優だと知ると、印象はだいぶ変わる。「横暴なアメリカ人と、それに耐えるが最後に怒りを爆発させる日本人」を演じたシャープ兄弟(カナダ人)と力道山のように。

去る10月13日、90歳にして10分強の宇宙空間滞在を体験し、宇宙に飛び出した地球人として最高齢記録を更新したばかりのウィリアム・シャトナーのことだ。

父方の祖父ウルフ・シャトナーの姓は本来〈Schattner〉だった。いかにもアシュケナージ(中欧~東欧ユダヤ)なスペルを英語風に変えて〈Shatner〉とした彼らシャトナー家は、保守派のユダヤ人一族。1931年3月22日、カナダのケベック州モントリオールに生まれたウィリアムは小中高と地元の学校に通う。やはり地元の名門マギル大(McGill University)で経済を学んだ後、オタワのシェイクスピア劇団へ。あの独特の間合い、テレビや映画の基準で考えれば大袈裟な演技(あとでパロディの対象となる)は、このシェイクスピア経験に由来するものなのだろう。

50年代後半から映画界に本格進出。ロジャー・コーマンが監督した(のに)社会派スリラー『侵入者』(62年)で主演、スタンリー・クレイマー『ニュールンベルグ裁判』(61年)で書記官役、ユル・ブリンナー主演の『カラマゾフの兄弟』(58年)で末弟を演じたシャトナーは一時期、「スティーヴ・マックイーンやポール・ニューマンと並ぶ期待の新星」という評判だった。しかし、のちのサミュエル・L・ジャクソンに通じる「薄利多売で役を選ばず顔を出す」という労働倫理は、彼のキャリア形成に悪影響を及ぼしたようだ。全編エスペラント語による珍ホラー映画『インキュバス 死霊の祝福』(81年)などもあったが、テレビドラマでのゲストが増えていくシャトナー。『トワイライト・ゾーン』(60年)と『アウター・リミッツ』(64年)の二大SFアンソロジーへの出演や、『0011ナポレオン・ソロ』(64年)で未来の相棒レナード・ニモイ(ミスター・スポック)との出会いを経た66年、一世一代の当たり役を手に入れることになる。

それが『スター・トレック』オリジナル・シリーズ、いわゆる『宇宙大作戦』(66年)の主役。惑星連邦・宇宙艦隊の旗艦エンタープライズを指揮するジェイムズ・タイベリアス・カーク艦長だ。

とはいえ、3シーズン79話で打ち切られることからもわかる通り、決して超人気番組だったわけではない。だが、異星人とのアレコレに託して現実の政治や倫理や人種問題を問う同番組は、カルト的な支持を集めた。米テレビドラマ史上初の黒人&白人(ユダヤ系だが)キスシーンもあり、先見の明があったことは間違いない。

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史上最年長で宇宙へ旅立ち、無事帰還したウィリアム・シャトナー。この宇宙船「ニューシェパード」に乗船した経験が、また新たな物語を生むきっかけになるかもしれない!(写真/Allen Berezovsky/Getty Images)

ただし、「艦長役なのだから自分がメイン」と信じていたシャトナーは、ニモイ演じるスポックが文化アイコンとなったことにショックを受けた……という話からもわかるように、シャトナーはエゴで知られる人物でもあり、俳優陣に軋轢を生んだのも事実だ。かつて☆TaKu TaKahashiがm-floのデビュー時を振り返って「あの頃の方が音楽界はギスギスしてた」と語ったのと同様で、『スター・トレック』のキャストは後のシリーズのほうが和気あいあいと申しましょうか……。

話を戻すが、『スター・トレック』が3シーズンで打ち切られた後、シャトナーは強烈な「カーク艦長」イメージゆえに仕事にあぶれ、つらい日々を過ごした。だが、地方局での再放送で愛されるようになった『スター・トレック』は、ナードなファンたちの自主コンヴェンションや同人誌等のサポートもあって、79年に映画として復活。シャトナーは94年まで7作の劇場版『スター・トレック』に出演し、地位を不動のものとする。

その間の82年から86年は熱血警官トーマス・ジェファーソン・フッカー役で主演する『パトカー・アダム30』(82年)こと“T・J・フッカー”があった。さらに、のちの00年代は法廷ドラマ『ザ・プラクティス~ボストン弁護士ファイル』とスピンオフ『ボストン・リーガル』(共に04年)で、有能だがエゴが強烈な弁護士デニー・クレイン役で活躍。「シャトナー演じるシャトナー」と評判になった。

そもそも80年代以降は、シャトナー自身が「エゴの塊」と呼ばれることを楽しんでいる節がある。それを象徴するのが彼自身による小説各種だ。まずは『電脳麻薬ハンター』というものすごい邦題で知られる〈TekWar〉シリーズ(94年)。実際の執筆はゴーストライターだろうが、主人公のエゴ感を含めてシャトナー原案と思われる。このシリーズは思わぬヒットとなり、90年代にテレビ映画4本と1シーズン18話のドラマも作られた。

また、シャトナー自身が「カーク艦長の大活躍」を描く『スター・トレック』小説シリーズ! 「シャトナー独自の世界」ゆえにシャトナヴァースと呼ばれるこれらは、『スター・トレック』全体の設定と矛盾しまくってOKという超治外法権を持つ聖域だ。

先に挙げた「90歳で宇宙飛行」の偉業も、労働倫理と粘り強さ、そして強い意志と自己主張があってこそ成し遂げたもの。我らが艦長は、そのエゴの強さでいつまでもどこまでも飛び続けてほしい、と思う。

丸屋九兵衛
ストレイト・アウタ・伏見稲荷なオンライン・トーカー。そろそろ「ラジオDJ」と呼ぶのはやめてほしい。現在は著書を執筆。11月までオンライン会【秋の万物文化祭2021】を開催中、SFやファンタジーを超絶濃縮紹介したり。12月からは冬シリーズか。詳細はPeatix、もしくはツイッター〈@QB_MARUYA〉にて。

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