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「マル激 TALK ON DEMAND」【171】

地球温暖化を防ぐために有効なコロナ対策の“力”

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――ビデオジャーナリストと社会学者が紡ぐ、ネットの新境地

[今月のゲスト]

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平田 仁子(ひらた・きみこ)
[NPO法人気候ネットワーク国際ディレクター・理事]

1970年、熊本県生まれ。93年、聖心女子大学文学部卒業。2019年、早稲田大学社会科学研究科博士課程修了。出版社勤務、米・環境NGO「Climate Institute」を経て、98年、NPO法人気候ネットワーク設立時より活動に参加。13年より現職。21年、ゴールドマン環境賞受賞。


国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表した報告書は、地球温暖化が人間の経済活動に起因するものであることに「疑いの余地はない」とし、直ちに温室効果ガスの削減を始めたとしても、向こう20年間は自然災害の発生頻度は悪化の一途をたどると警告した。あまりに大きすぎるこの問題に対し、我々は一体なにができるのだろうか?

神保 8月9日、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次評価報告書を公表し、現在の地球温暖化が人間の経済活動に起因するものであることに「疑いの余地はない」と、初めて断定しました。また、世界中で発生している昨今の異常気象の原因が地球温暖化にあることも、はっきりと指摘しています。

今回は地球温暖化を防ぐための活動で日本を代表するNGOの気候ネットワークで国際ディレクターを務める平田仁子さんをゲストに迎え、いま地球温暖化・気候変動がどんな状況にあり、世界はどう動いているのかをしっかり見ていきたいと思います。

まず、平田さんは現在の日本の最大の問題点は石炭火力発電所を今も増設し続けているところだと言われています。石炭火力の現状から教えて下さい。

平田 日本のエネルギー利用は、最初は石炭から入り、石油になって、オイルショックがあって原子力へ、という流れをとってきました。90年以降は原発を増やすことが温暖化対策だとして注目されてきましたが、その裏で、石炭火力は脈々と増えてきたんです。90年には電力の9%くらいだったところが、いまは30%ほどを占めている。現在では沖縄から北海道まで、全国に165基ありますが、それが具体的にどこにあり、どんな影響があるのか、まったく知られていません。

神保 地図を見ると、東京湾岸にたくさん火力発電所があるんですね。

平田 東京湾はガス火力が多く、石炭火力発電所は横浜の磯子に一基あるだけなのですが、しかしここ数年で千葉に3カ所、横須賀に1カ所の建設計画が生まれ、世界も驚きました。つまり、こんなに人口が密集している場所に、どんなに効率がよくても多くのCO2と大気汚染物質を出すものを、これから建てるのかと。

宮台 90年代から原子力のスロットルが踏まれていたはずなのに、石炭火力が急増しているのはなぜでしょうか。

平田 ロジックは原子力と非常に似ていて、コストが安く、安定供給が可能だからだと説明されます。地政学的にも、中東からではなくオーストラリアやインドネシアからの輸入が多いので安定しており、資源のない日本が大規模に、大量に電気を作ることができるのだと。

神保 現在、日本に石炭火力発電所は165基あるとのことでしたが、今後これはどうなっていくのでしょうか。

平田 165基というのは把握できる限りの数で、工場で使うために独自に電気を作っている発電所などは実態がわからないので、見落としもあるかもしれません。そして、福島第一原発事故のあと、新たに50基の建設が計画されました。そのうち17基は中止になりましたが、すでに建設されたものも多く、建設中が9基もあります。東京湾でいうと、横須賀にある大型の発電所が2基、建設中で、数年後に運転を開始します。

神保 「カーボンニュートラル」(脱炭素)を長期の政策目標に掲げる菅政権(当時)は、石炭火力についても抜本的に見直すとしていましたが。

平田 2050年までにカーボンニュートラルを目指す、ということ自体は、世界が目指すべきゴールであり、歓迎できることです。しかし、実際に抜本的な政策変更はない。いまエネルギー基本計画の見直しをしており、「2030年までに石炭火力の割合を26%にする」というこれまでの目標を「19%」にするとしており、その裏返しで、再生可能エネルギーを36%から38%に増やすということで、方向性としては数字を絞った案が出ているものの、そのために何をするのか、という具体的なことはまだ何も決まっていない。石炭火力発電所の新規建設が進んでいる経緯からしても、本当に19%まで落とせるのかもあやしいところです。

神保 原発については、原子力ムラなるものがあって、それが日本の政官学のあらゆるところに根を張っているために、簡単にこれを無くすことができないことが明らかになりました。一方で、この石炭火力がなかなか減らせない背景にも、何か構造的な原因があるのでしょうか。

平田 原子力発電とかなり重なっていると思います。結局、進めているのは電力会社であり、発電所の建設や運用にかかわる会社ですから。加えて、石炭は電力だけでなくて鉄を作るためにも多く使われており、製鉄業、鉄を使う自動車産業も一体となって、石炭を守ろうという非常に強いつながりがあります。この壁は分厚く、やはり大きなインフラで大きな利益を上げる、というスタイルからの変更が非常に難しい、という状況にあります。

宮台 まさに原子力と同じで、巨大独占電力会社の利権ネットワークです。マル激でも、原子力の問題の背後にそれがあることで、原子力の技術的な合理性の問題ではなく、利権を動かせない合理性/不合理性の方が大きいという話をしてきましたが、石炭火力においても同じことがあると。

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