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友清哲のビールの怪人【31】

JRの高架下に登場したわずか3坪の小さな醸造所――次なる目標はブルワーを育てるスクールを作ること

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――すべてのビール党に捧ぐ、読むほどに酩酊する個性豊かな紳士録。

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「サイゾーは愛読誌なので嬉ションが出そうです!」と語る見木久夫さん。ちなみに「26K」という名称の由来は、東京駅から26キロ地点に存在することに由来しているそうだ。

 ほんの10年前くらいまで、東京を突っ切るJR中央線沿いのあちこちに、いわゆる“開かずの踏切”があった。そのひとつが武蔵野市の武蔵境駅周辺で、かつては踏切ひとつを渡るのに何十分もかかる交通の難所として知られたものだ。

 ところが今日、再開発によって線路は高架の上に移り、町並みもきれいにリニューアル。高架下に生まれたスペースには飲食店を中心に多様な店舗が連なり、実に住み心地の良さそうな環境に一新されている。

 今回ご登場願った「26Kブルワリー」は、まさにその高架下に出現したマイクロブルワリーである。

「もともとはJRさんから、『テナントが空いているので何かやりませんか』とお声がけいただいたのが、ブルワリー立ち上げのきっかけでした。はやりのクラフトビールは、この地域のひとつの売りとしてうってつけに思えたんです。ただ、割と広めのテナントなので、単独でやるには手に余りそう。そこで、地域のカフェ事業者と提携して新しいスペースをつくることにしました」

 そう語るのは、26Kブルワリーのオーナー・見木久夫さんだ。かくして2017年に誕生した26Kブルワリーは、「Ond(オンド)」と名付けられたフードモールの一角、3坪の小さなスペースに設けられた。カフェや惣菜デリ、焼き菓子店などと軒を共有し、今では昼夜を問わず近隣住民がひっきりなしに訪れる、界隈の人気スポットとなっている。

 そんな見木さんの本業は、広告企画会社の経営者。美大を出たあと、フリーカメラマンとしてキャリアをスタートし、その後、複数の会社で制作関連の職を経て独立したという。起業の際、縁あって武蔵野市に拠点を据え、地域振興に取り組むうちに、クラフトビールの世界に導かれた。

 そうした出自もあり、26Kブルワリーのラインナップには、武蔵境産のトウガラシを使用したレッドエールなど、地域の産物を使ったビールが散見される。これには単なる地産地消の精神だけでなく、地域の交流を見据えた深い狙いがある。

「都心には多くの農地がありますが、実はこうした住宅地の農業は、近隣住民と折り合いが良くないケースが少なくありません。土埃や堆肥の臭いなどが、クレームの元になるからです。しかし農家さんとしては、農作物を育てなければ農地に税金が課せられるため、農業の手を止めることはできません。ただでさえ労力と対価(収入)が見合わないのに、これでは発展するはずがありません」

 こうした問題の原因は、農家と住民の間に接点がないためだと見木さんは言う。そこでビールを接点作りに生かしたいと考えた。

「ビールのいいところは、副原料にいろんな原材料を使えること。地元の産物が使われたビールであれば関心を呼びますし、それが農業を身近に感じていただくきっかけにもなるでしょう。人を集めるノウハウは持っているし、ついでにビールが売れればまさに三方良しです(笑)」

 そんな地域密着のスタンスの成果なのか、今では外販(※他の地域や店舗に卸すこと)に回す分がほとんど確保できないほど、造ったそばから売れていくという。

 しかし、そもそもビールを売って儲けることに重きを置いていないことも、26Kブルワリーの特徴だろう。

「醸造規模が小さいこともあり、現状では利益はほとんど出ていません。でも、このブルワリーが交流のきっかけになったり、イベントの場になったりすることのほうが重要で、それによって地域が活性化すれば、本業のほうで十分にペイすると考えています。いわばIPAみたいなもので、苦さの中にちゃんと旨みがあるんですよ」

 実際、今春からは、武蔵境駅構内の一角でホップの栽培がスタートするなど、JRや自治体が一体となった取り組みも実現している。26Kブルワリーは地域交流の起点として、しっかり機能し始めているのだ。

 しかし、見木さん自身が醸造と社長業を両立するのはさすがに困難。そこで26Kブルワリーでは、在野のブルワーに声をかけ、異なる造り手をスポットで起用する、ユニークなスタイルを採っている。これも実は、次の一手を見据えた上での施策である。

「次の目標はブルワーを育成するスクールを作ること。まだまだビール造りに興味を持つ人は多く、人材不足のブルワリーも少なくありません。そこで、設備や環境に左右されず、均一的な品質を担保できる造り手を育てる場を設けたいんです」

 順当なら年内にも動き出せるよう、準備を進めているという見木さん。実現すれば、クラフトビール文化全体の向上にも繋がるに違いない。

友清哲(ともきよ・さとし)
旅・酒・洞窟をこよなく愛するフリーライター。主な著書に『日本クラフトビール紀行』(イースト新書Q)、『一度は行きたい「戦争遺跡」』(PHP文庫)ほか。

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