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澤田晃宏の「外国人まかせ」【2】

【澤田晃宏/外国人まかせ】失踪した技能実習生でも雇いたい……高齢化する建設業と農業の現実

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――「奴隷労働」ともいわれる外国人労働者。だが、私たちはやりたくない仕事を外国人に押し付けているだけで、もはや日本経済にその労働力は欠かせない――。気鋭のジャーナリストが“人手不足”時代のいびつな“多文化共生”社会を描き出す。

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「bộ đội」のフェイスブックグループをのぞくと、不法在留者などに向けた様々な求人情報が見つかる。この写真は、28時間制限で働く在留資格を持つ人に向けた募集である。(写真/筆者、以下同)

 彼と初めて出会ったのは、「大阪港駅」(大阪市港区)だった。大阪税関のなかでも、密輸事件などを担当する調査部が入る大阪税関本関の最寄り駅だ。

 ベトナム出身のヴォ・タン・ダットさん(31歳)。警察に押収されたパスポートなどの私物を取りに行くことが目的だったが、一人では怖いと支援団体に同行を依頼していた。

 ダットさんは2018年12月に、とび職の技能実習生として来日。福岡県内の建設会社で働いていたが、手取り給与は3年目に入っても10万円に届かなかった。朝は5時半に起き、帰りは夜8時近くになることもあり、拘束時間は長い。現場への移動時間は労働時間に含まれず、休みも週に1日だ。

 とび職は主に、建設現場の仮囲いとなる足場の組み立て、その解体をする仕事だ。高所作業が多く、危険も多い。

 ダットさんはこう話す。

「日本人は新しく入ってきても、すぐに辞めますが、3年目には未経験の日本人に仕事を教えるまでの技術がありました。建設現場で一緒になった他の会社で働く技能実習生に話を聞くと、手取りが12万円以上あり、休みも多い。自分は安すぎると思いました」

 企業は、一部の例外を除き、技能実習生を直接採用できず、国から認可を受けた「監理団体」を通して技能実習生を受け入れる。監理団体には、企業が作成した技能実習計画が計画通りに行われているかを監督したり、技能実習生を保護したりする役割がある。

 ダットさんは監理団体を通じて賃金の交渉をしたが、監理団体は「会社の社長に聞け」と言い、会社の社長に聞くと「監理団体に聞け」と言う。そんな状態が3カ月続き、ダットさんはコロナ禍の20年10月に失踪した。

 福岡駅から新幹線に乗り、同じく技能実習生として大阪市内の電子機器の組み立て作業をする友人を頼った。

 失踪後に元の建設会社から電話があり、手取りを15万円にするから戻ってきてほしいと連絡があったが、

「本当かわからないし、戻ると警察が待っていて、捕まるかもしれない」

 ダットさんは月1万円を支払い、友人宅で寝泊まりをする生活を始めた。

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都内の建設会社で働き始めたダットさん。「一日でも長く日本で働きたい」と話す。

 ダットさんも多くの技能実習生と同様、技能実習制度が掲げる「人材育成を通じた開発途上地域等への技能、技術又は知識の移転による国際協力を推進する」(技能実習法第1条)ことを目的に来日したわけじゃなく、目的は出稼ぎだ。

 ダットさんが次なる仕事探しのためにフェイスブックの検索窓に打ち込んだキーワードが「bộ đội」だ。ベトナム語で、軍や部隊を意味する。bộ độiに続き「Japan」や「Tokyo」などの地名を打ち込むと、地域別にフェイスブックグループが見つかる。不法在留者向けの仕事の情報や、偽造の在留カードの作成を請け負う会社の情報など、様々な投稿がある。具体的な職種を書いた投稿は多くないが、求人情報では太陽光パネルの設置や解体など、建設関係の仕事が目立つ。

 ダットさんはbộ độiを通じ、解体の仕事に就いた。日当1万円だが、間に入るブローカーが紹介料を取り、手取りは8000円。それでも、月に20日働けば16万円になる。税金の負担もなく、以前よりは稼げる。失踪者が絶えない理由には、こうした事情もある。

 ただ、いつまでも友人の家に住み続けるわけにはいかない。21年1月、bộ độiで住み込みの仕事の募集を見つけ、すぐさま応募した。仕事内容は、長らく使用していない工場内の清掃作業だった。作業時間は夜の8時から朝の8時までで、日当は紹介料が引かれ、1万5000円。家賃3万円で、神戸市長田区内のアパートの1室が与えられた。

 ところが、仕事を2回して、自宅に戻って眠りに就いたのも束の間、インターホンとドアを叩く音に目が覚めた。

 警察だった。

 ダットさんが与えられた部屋が覚醒剤の取引現場に使われており、部屋の契約者との関係を問われた。部屋と仕事のあっせんをした在日ベトナム人ブローカーに何度も電話をしたが、つながらない。

 身柄は拘束されなかったが、パスポートなどの私物が押収された。その後、警察に出頭し、ダットさんの嫌疑は晴れたが、再び家と仕事を失った。

 大阪の友人の家に出戻り、支援団体に電話し、押収物の引き取りの同行を依頼。ここで、冒頭に戻る。


コロナ禍で激減した技能実習生の入国

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