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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第84回

【クロサカタツヤ×伊藤大貴】国際ルールの策定は戦争だった!? 日本の敗戦と闘病をきっかけに起業した元市議会議員の挑戦

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

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●地方公共団体の総職員数の推移(平成6年~令和2年)
(出典)総務省

――地元の役所に行って手続きするたびに「なんでこんなに効率が悪いの?」と愚痴のひとつも言いたくなる今日この頃。マイナンバーカードを申請してから数ヶ月待ちという有り様は、まるで人気ゲーム機の入荷待ち。でも、手続きがまともにできるだけまだマシで、財政破綻して行政サービス自体を取り止める自治体だってある。下り坂をまっしぐらのニッポンが、それでもデジタル改革を進めながら効率化するには、一体どうしたらいいの?

クロサカ 今月のゲストは、新たな公共の形を模索するため自治体と民間企業とのマッチングを目指すスタートアップ、株式会社Public dots & Companyを創業した伊藤大貴さんです。伊藤さんは、横浜市議会議員を10年務めた後に起業されていますよね。

伊藤 大学院を出たのがちょうど2002年で、就職氷河期でした。理工学部の情報通信学科でしたが、「技術系ジャーナリズム」が面白いと思っていたので日経BPに就職しました。そこで僕がおもしろいと思ったことは「産学連携」と「ルールメイク」だったんです。特にルールメイクについては、ちょうどヨーロッパで新たなRoHS指令【1】という有害物質規制の準備が進んでいて、電子回路基板のハンダに含まれる鉛も対象となるので日本企業が右往左往していたんですね。

クロサカ なるほど。私も情報プライバシーやセキュリティの標準化に係わった経験がありますが、国際的なルールの策定なんてまさに戦争そのものですよね。ルール1つで、企業どころか産業全体の売り上げが変わるじゃないですか。

伊藤 日本メーカーは真面目なので、規制ができるとそれに合わせて新素材で対応しようとします。この時も鉛を使わないハンダを開発して対応しようとしていた。でも、規制する側は、鉛をなくすことだけでなく、日本の産業競争力を削ぐことが目的。なのに、日本はルールメイクで頑張ろうとはしなかった。取材していて、「産業って、こんなにルールで右往左往しちゃうんだ」というのを目の当たりにして、ルールメイクの重要性を意識しました。

クロサカ 日本が今現在もルールメイクが下手だというのには、非常に残念ながら共感します。そうしたところから、次のステップに進まれたのは何がきっかけでしたか。

伊藤 間接的と直接的なきっかけがあります。間接的なのは、20歳の頃に靖国神社に行ったことです。基本的にノンポリなんで、あの戦争が正しかったのかどうかなんてわからないんですが、靖国神社で1つだけわかったのは、20代前半の夢や希望を持った若者が、個人ではどうしようもない歴史のあらがえない流れのなかで、兵士として死にに行くしかなかったということです。戦争によって誰かの人生が終わったのは、イデオロギーに関係なく現実のことじゃないですか。国際の場でのルール作りを見誤ると、こういうことになるんだと気がついて、不意に涙が流れてくるほど衝撃でした。

クロサカ それが、日経BP時代の経験にもつながっているんですね。

伊藤 直接的なきっかけは、26歳の時に過労が原因で白内障になったことです。手術をして回復したのですが、失明するかもしれないという状況にショックを受け、人生を考えてしまいました。職場は楽しいし、給料はいいけれど、目が見えなくなったとしても後悔が残らない仕事なんだろうかと。その時に、20歳の時の経験を思い出して、自分も少し世の中に足跡を残せたらと思い、細い伝手を辿って選挙に出ました。

クロサカ 僭越な言い方ですが、私も似たような経験をしているんです。叔父のひとりが19歳で戦死しているのですが、その戦友たちから壮絶な体験を聞きました。本人たちは酒を飲んで笑いながら話すのですが、聞くほうとしてはとんでもない話で、いろいろ考えてしまう。それこそ、叔父は女を知ってから死んだのか、とか。どうしようもない、と思われるかもしれないけれど、とてつもなく深刻な話でもありますよね。

伊藤 はい、そういう話ですよね。

クロサカ もうひとつは、前職を辞める直前に、事故で左ひじを骨折しているんです。かなりひどい怪我で、今でもボルトが入ったまま。それで、怪我をする前よりも「自分はこのままでいいのか」と考えるようになった。ただ、そこから政治の世界に飛び込んだ伊藤さんの行動力はすごいです。

伊藤 やっぱりネジが外れていたんだと思います(笑)。偶然ですが、手術の1年前にいわゆる郵政選挙があって、地元で江田憲司さん【2】が無所属で当選したんです。彼のことはまったく知らなかったけれど、駅前で演説を聴いて、良いと思って彼に投票しました。それで当選後に「僕はあなたに投票したから、あなたの話を聞く権利があると思う」とメールを送ったんですよ。そうしたら、1回だけ会ってくれました。

クロサカ それは確かにネジが外れていますね(笑)。

伊藤 手術後、いろいろ考えているときに江田さんのことを思い出し、彼のウェブサイトを見たら「選挙に出たい人がいたら応援する」といったことが書いてあったので、一度だけ会ったことがある彼のところへ行ったら、「選挙に出る?」と言われたので「出ます」と。そういう流れだったんです。

クロサカ 当選を経て実際に横浜市議会議員になってみて、それ以前と以後とで何か違いはありましたか。

伊藤 僕らの年代は子どもの頃から、リクルート事件や佐川事件、山一証券の破綻など、日本の仕組みが破綻していく様を見てきました。なので「政治家は駄目な人たちだ」という思い込みがあったんです。でも、政治のなかに入ってみてよくわかったのは、ほとんどは普通の人たちだということ。確かに、一部には悪いことを考える政治家もいるかもしれない。けど、たいていの人はどちらでもないし、なかにはすごく真面目に社会のことを考えている政治家もいる。行政にたずさわる人も同じです。そこで「駄目な人たちに『駄目』と言うだけでは社会を変えられない」と思い、ならば自分は「真面目に考えている人たち」の側に立って活動しようと、議員1年目に思いました。それが、大きく変わったところですね。

クロサカ ものすごく示唆的ですね。議会だって日本社会の縮図なのだということ。パレートの法則【3】じゃないですけれど、全員が駄目なわけでも、全員がすごいわけでもない。そのなかで、なんとかしなきゃと思って自分から一肌脱いで仕事をしている人たちが、ギリギリのところを支えていたり、少しずつ変えていったりしている、と気づいたんですね。ただ、それは得てして自分の無力感にもなりませんか。

伊藤 なります。それが政治の世界にいつまでいるのか、と思い始めたきっかけになりました。結局、政治は村社会で、どの政党に所属しているかで、何ができるか、が決まってしまう。やっぱり政策が良くても多数派じゃないと、何をするのにも時間がかかるんですね。

クロサカ やってもきりがないとか、力一杯動かしても1ミリしか動いていないということもありますよね。

伊藤 もうひとつは、議員になったときに感じたことが、議員バッジがあることで民間の人との距離がすごいできるんです。わりと早い段階から「議員バッジって邪魔だな」と思うようになった。それに仮に20年議員をやれば、29歳で入ると49歳。そこからビジネスパーソンとして活動できる期間が10年あるとしても、20年も政治の世界にいてビジネスのことをどれだけ学べるのかと思った。自分自身のキャリアもきちんと考えないといけないなと。

クロサカ それは確かにリスクとしてありますよね。

伊藤 なので、議員だった頃にプロダクションみたいなものが欲しいと思っていたんです。会社員などから議員に転じた人がプロダクションに登録して、自分のスキルセットを活かせる経済活動をやると、トラックレコードとして記録される。そうしたらバッジを外した後でも、そのスキルで生きていけるという実感が得られるし、元の仕事に戻りやすい。今は、そうしたリボルビングの仕組みがないので、それをPublic dotsでやろうとしています。

クロサカ 伊藤さん自身のためでもあるし、そうすることで議員になろうとする人が増えるかもしれないわけですね。確かに、経験を積んだ人が政治と企業を行き来できたら良いし、それをマネジメントしてくれると助かりますよね。議員を辞めて、すぐにその仕事を始められたんですか。

伊藤 こういう役割の必要性をパッとわかってくれる人は、そんなにいないんです。ただ、政治の世界では数年ごとに新党ブームが起きて、ビジネスから議員に転じる人たちが一定数いる。その人たちの受け皿を作りたい、という話をことあるごとに話していくうちに「一緒にやろう」というメンバーが集まり、今の会社を作るに至ったんです。

クロサカ 議員と民間を行き来できるリボルビングドア【4】を作ろうとすると、どんな課題がありますか。

伊藤 まだまだ登山口にも立っていない状態なんです。今の業務は、企業の社会課題をテーマにした新規事業開発のコンサルが中心で、人材のリボルビングドアを作る前に、実はワンクッションが必要だと思っていて、それを始めたところです。というのも、リボルビング人材が必要とされる場面がないと、そういう人材も出て来ようがない。

クロサカ なるほど。

伊藤 私が議員になった2007年は、自治体が民間企業と連携して社会課題を解決していく取り組みが、少しずつ出始めた時期。ところが、行政の仕事を民間に委ねる取り組みは、「地元の雇用が奪われる」という思い込みで、右派からも左派からもバッシングされるんです。現実には、全国1700超の自治体の多くは、人も財源もアイデアもないので、行政だけで課題解決はできません。官と民がお互いにフラットな立場で、ビジョンを共有しながらお互いのリソースを出し合って、公共性と事業性を両立しながら住民サービスを作っていくことをやらざるを得ない段階なんです。議会で10年間それを見てきたので、こういう領域を作れば、リボルビング人材が仕事をする場にもなると思い、今取り組んでいます。

クロサカ 古くは第3セクター方式や、今ではPPP【5】とかPFI【6】コンセッション【7】といったものがありますが、それらとは何が違うのでしょうか。

伊藤 そうした手法は、箱物のための仕組みですよね。現実にはMaaSとかスマートシティとかオンライン診療とか、生活に密着した領域でテクノロジーによるイノベーションが起きているのに、運用側のルールが追いついていなかったり、現場の理解が追いついていなかったりするせいで、官と民が交わらない状況が続いている。水道や空港の運営を民間に委託する箱物の論理ではなくて、教育から福祉から医療から、テクノロジーが行政サービスを変革できる領域が拡大している。ここって、少ない予算で行政サービスに限界を感じていた自治体が、民間にサービスを合理的に委ねることができるはずなのに、まだ日本にマーケットが存在しない領域です。

クロサカ 確かに、通信分野での地方創生の取り組みを見ていると、箱物を前提にしか考えられない人たちと話が噛み合わない場面があります。伊藤さんの取り組みは、そこをきちんとつないで官と民が一緒にやっていけるようにする感じですね。

伊藤 まさにその通りです。このコロナ禍でオンライン化が進んでいるのに、公立の小中学校の多くはいまだにオンライン授業ができていない。でも、世の中には実現できるツールがたくさんあって、やっている人たちがいて、ビジネスとして解決できる。だったら、公共性は何かというところだけしっかり合意して、ビジネスの人に解決してもらえば、自治体もずっと楽になるはずです。

クロサカ そうした取り組みって、どこから手を付ければいいと思いますか。

伊藤 自治体の規模が大事だと思っています。デジタル化はアジャイルにやったほうがいいので、アジャイルが向く組織の規模は人口数万人以下の街だと思うんです。これが大阪とか横浜だとデカすぎて、効果も見えづらくて無理なんです。

クロサカ 市と町の境目くらいですね。

伊藤 そうですね。大企業の人ほど大都市と組みたがるんですが、現実には仕組みを作るだけで何年もかかる。それより、人口数千から2万人くらいのところで街と一緒に行政をデジタル化して効果検証していけば、そこでできたサービスは他の自治体にも使い勝手が良いので、横展開しやすいはず。小さい自治体ほど意思決定者が少ないのと、効果がすごく見えやすい。そのほうが実際に社会を変え、サービスを広げていくのは早いと思います。
  
―対談を終えて―

「一言で表せない会社であることに、今は価値を感じているんです」

 今回の対談の終盤に、伊藤さんからふと出てきたコメントでした。もちろん、一言で表せない葛藤は伊藤さん自身も感じているし、わかりやすさを求められる世の中では、なかなかしんどいこともある。しかし、一言で表せるようになるというのは、いわばコモディティ化している状態であって、本当に新しいものを作り出している状態ではないのかもしれない……そんなことを話されていました。

 私自身も、そんな考え方にはとても共感しますし、何しろ会社を興してから12年間、概ねそんな状態のまま仕事してきた人間でもあります。むしろ最近、自分の会社にも「らしさ」のようなものが出てきていて、少しずつコモディティに近づいていると、本当にそれでいいのかと考えるくらい、フリースタイルであることに私も価値を感じます。

 そんな私自身の経験から、伊藤さんのコメントを再解釈すると、一人ひとりの個性を犠牲にすることなく、個人の能力や力量で社会課題に挑戦するということに、価値を見いだされているのだと思います。だからこそ、文中にもある「プロダクション」のような仕組みが必要だと、伊藤さんも考えているのでしょう。

 実際、そういう取組があちこちで顕在化しつつある。たとえば、吉本興業がすでに単なる芸人のマネジメント会社でないことは、多くの方が知るところです。あるいは大阪府知事だった橋下徹さんは、タレント業に「復帰」された後も政治的な発言を続けていますが、そのマネジメントは爆笑問題の所属事務所であるTITANが担当しています。

 個人のエンパワーメントが叫ばれて久しいのですが、個人の限界を突破するためには、マネジメントが必要です。しかしそれは、従来型の企業組織ではない。なぜならこれまで組織は、個人を「鋳型」にはめ込むことで、個人の能力を使ってきたからです。

 当然ながら、個人を鋳型にはめ込めば、その人の個性はスポイルされてしまう可能性も否めない。一方で、従来型の企業組織では解けない課題に対して、個人の力量への期待が改めて高まる。その時、個性を尊重した個人でなければ、その人が備える力量は発揮できないはずです。

 そんな、新しい時代に求められるマネジメントの在り方に、伊藤さんは取り組まれています。そして本当のゴールは、その先にある「行政と民間のリボルビングドア」作りです。そんなチャレンジができるようになったと考えると、日本社会は案外「悪くない」ほうに向かっているのかもしれません。

伊藤大貴(イトウ ヒロタカ)
株式会社Public dots & Com pany 代表取締役CEO。早稲田大学大学院理工学研究科修了後に日経BP社へ入社し、産学連携やルールチェンジによる国際間の産業競争などを主に担当。2007年に横浜市議会選挙に出馬し初当選。3期10年務めた後、2019年に起業し現職に。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。07年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。

【1】RoHS指令
EUが2003年に発令した、電子機器における有害物質の使用を制限する法律。これをきっかけに世界各国で類似の規制が定められている。

【2】江田憲司
衆議院議員で立憲民主党に所属。元経済産業省職員で、1996年の橋本龍太郎内閣では内閣総理大臣秘書官を務めた。

【3】パレートの法則
売り上げの8割は全商品の2割に由来するといった、いわゆる8対2の法則と言われる経験則的な俗説。イタリアの経済学者パレートによる所得分布に関する研究に由来する。

【4】リボルビングドア
本来は回転扉のことだが、ここでは官公庁と民間企業とで人材が行き来することや、そうしやすい仕組みのこと。

【5】PPP
パブリック・プライベート・パートナーシップの略称で、公的機関と民間が連携して公共サービスを提供すること。

【6】PFI
プライベート・ファイナンス・イニシアティブの略称で、公共施設の設置と運営を民間企業主導で行い効率化を図る手法。PPPを実現する手法のひとつ。

【7】コンセッション
PFIの一種で、公共機関が接した公的施設の利用権や運営権を民間企業に独占的に与える方法。公設民営方式とも呼ばれる。

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