サイゾーpremium  > 特集2  > “ラップスター”を生み出す現場【1】/『ラップスタア誕生』の裏側
第2特集
その名に恥じぬ“ラップスター”を生み出す現場【1】

文化の浸透と拡大、現場を支える者に聞く『ラップスタア誕生』の裏側

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――日本初の“ヒップホップ・オーディション番組”としてスタートした『ラップスタア誕生』(ABEMA)。去る10月末日の放送でシーズン4のファイナルを迎え、横浜出身のラッパー〈ralph〉がスターの座を獲得した。これまでにも数多くのスターを輩出した同番組だが、アンダーグラウンドに根差したヒップホップカルチャー視点で言えば、“オーディション”という形態は、どこか敬遠してしまいがちな側面も持つ。それを払拭しているのは、番組に応募した出場者のスキルはもちろんだが、「ヒップホップカルチャーを拡大したい」という制作現場を支える有志の姿勢にほかならない。本稿では、普段光の当たらぬ場所にいながらも、誕生する新たなラップスターを輝かせる裏方にスポットを当て、そこから見える日本語ラップの未来も照らしてみたい。

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(写真/cherry chill will.)

未来の原石が集う『ラップスタア誕生』とは

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17年5月5日開始~放送中(ABEMA)

 次世代を担うラップスターを発掘すべく誕生したヒップホップ・オーディション番組。メジャーレーベルや事務所に所属していなければ、誰でも応募することができ、審査用のトラックは国内を代表するプロデューサー/トラックメイカーが提供する。

 応募者は一次審査、二次審査でふるいにかけられ、審査員のジャッジのもと勝ち進む。ファイナルステージへは5人が進み、東京都内のライブスペースで最終審査が行われる。「楽曲で審査」することに重きを置くことから、審査方法は「楽曲部門」と「パフォーマンス部門」に分けられ、そのポイントを合算した得点で優勝者が決定。賞金として300万円が授与される。これまでに各シーズンからは、惜しくも優勝は手にできなかったが、WILYWNKAやTohjiなどのスターが生まれている。

[歴代優勝者]
Season1―――DAIA
Season2―――Leon Fanourakis
Season3―――¥ellow Bucks
Season4―――ralph

 10月19日、あいにくの空模様となった東京地方。ヒップホップ・オーディション番組『ラップスタア誕生』(以下『ラップスタア』)シーズン4ファイナルの収録が行われる渋谷「WWW」へと足を運ぶ。新型コロナウイルスの影響で、残念ながら無観客ライブとなった当日だったが、15時過ぎからスタートしたリハーサルにおいて、手を抜く出場者は皆無だ。ファイナルまで勝ち進んだnoma/week dudus/ralph/麻凛亜女に加え、敗者復活投票によって出場権を得たItaqの計5人は、重圧と戦いながらも、各々が現場スタッフとステージパフォーマンスの構成を綿密に打ち合わせる。リハーサルが終了すると、番組の進行役を務めるRYUZOをはじめ、審査員のANARCHY/SEEDA/HUNGER(GAGLE)/伊藤雄介/Kダブシャインが定位置につく。着々と準備が進み、緊迫した空気の中、シーズン4ファイナルの幕が上がった――。

 そもそも『ラップスタア』は、フリースタイルバトル番組『フリースタイルダンジョン』(以下、FSD)のカウンターともいえる形で放送がスタートした。“カウンター”である理由は、「MCバトル」を軸としたヒップホップ番組ではなく、「楽曲審査」を基盤とした番組構成となっている点だ。惜しまれながら番組が終了してしまった前者は、音楽業界だけにとどまらず、お茶の間へも「フリースタイルバトル」の概念を認知させた功績を持つ。しかし後者は、フリースタイルバトル=ヒップホップという概念に囚われすぎぬよう、ヒップホップが持つエンターテインメント性に特化し、楽曲で審査することに重点を置いた。しかも、それをオーディションというフォーマットを用いた上で――。

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(写真/cherry chill will.)

 だが、“オーディション番組”と耳にすると、どこか大味で華やかさだけが目立ち、結果的に無味乾燥なイメージを抱かれてしまう懸念もある。結果、その番組名から導かれる“ラップスター”も、果たして本当のスターなのかの疑問も残る。それを払拭しているのは、間違いなく番組を支えるスタッフの努力に他ならず、本誌9月号掲載「『フリースタイルダンジョン』の終了と『フリースタイルティーチャー』で見据えた未来」にてZeebraが語った「(ヒップホップに関わる番組の)制作陣は知識も意識も理解力も高まっていた」という発言にもつながるだろう。

 本稿では、『ラップスタア』の制作に関わる裏方にスポットを当て、その番組作りや姿勢から見えるヒップホップとテレビのあり方、さらには日本語ラップシーンの未来も占っていきたい。まず、『ラップスタア』の発起人であり、同番組のホストも務めるRYUZO氏に、番組誕生の経緯から話を聞く。

「当時はFSDが盛り上がっていて、とにかくフリースタイルバトルが流行していた。もちろん、それもヒップホップのカルチャーではあるけど、『ヒップホップ=フリースタイル』のような印象になっていたから、もっとヒップホップの深さや素晴らしさを世間に伝えたかった。そこで藤田社長(サイバーエージェント/ABEMA代表取締役・藤田晋氏)に『(ヒップホップ版)イカ天をやらせてほしい』って企画を提案したのがきっかけです」

 RYUZO氏とは古くからの戦友であり、ANARCHYをはじめ、WILYWNKAやLeon Fanourakis――後者2人は『ラップスタア』の過去出場者でもある――などが籍を置く事務所兼レーベル〈1%丨ONEPERCENT〉のディレクターを務める福岡彬氏も、番組の立案から制作まで深く関与しているひとりだ。

「FSDの人気が加速した頃、韓国では『SHOW ME THE MONEY』、中国では『The Rap of China』というヒップホップのオーディション番組が大きなムーブメントを作っていました。その番組がきっかけで両国ではラッパーが台頭し、ヒップホップシーンの拡大につながった。もしかしたら日本でもこうしたオーディション番組をテレビで放送したら、シーンはもっと盛り上がるんじゃないかと思ったんです」

 RYUZO、福岡両氏の提案に賛同した藤田社長は、ABEMAの制作プロデューサーに指揮を執るよう告げる。そのプロデューサーであり、『ラップスタア』の番組責任者を担うことになった白石堅太郎氏は「僕たち制作陣が大事にしているのは、ネット配信時代にフィットし、地上波では見られない番組作り」と話す。そして、同番組の総合演出を担当するのは、民放の音楽番組やドラマ、ドキュメンタリーなどの監督も手がける長島翔氏。両者が依頼を快諾した背景には、ヒップホップに対する知識と意識、そして理解力に長けたマインドが功を奏している。

「地上波のバラエティやドラマなどに登場するヒップホップの描写には、ずっと違和感を覚えていたんです。『ラップスタア』を制作するにあたり、過去のそうした番組を反面教師にしつつ、まずは『ヒップホップを好きな人が視聴者になる』番組作りを意識しました。僕自身ヒップホップが好きなので、制作を共にするスタッフとの意思の疎通も図りやすかった」(長島氏)

 スタッフ間の意思の疎通は図れたが、シーズン1は手探り状態だったこともあり、後につながる課題が見つかったと白石氏が続ける。

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