サイゾーpremium  > 特集2  > 【Zeebra】が語る自戒と課題と未来への鍵

――ヒップホップ・シーンでは当たり前に存在していた“MCバトル”という概念を一般層へわかりやすく紹介し、果てには社会現象まで巻き起こした『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日)が、去る7月1日、約5年間の放送に幕を下ろした。民放でヒップホップを題材とした番組が、これほどまでに長く続いたことは、控えめに言っても快挙だ。番組終了の翌週からは『フリースタイルティーチャー』(同)なる番組がスタートし、SNSでは辛辣な意見も飛び交う現状だが、両番組でMCを務めるZeebraは、至って冷静だ。本稿では、日本でヒップホップ文化を浸透させるために自ら矢面に立ってきた彼に、ダンジョン終了の背景から、ティーチャーの放送で描くヒップホップの未来を問う。

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(写真/cherry chill will.)

――まずは『フリースタイルダンジョン』(以下、ダンジョン)を語る前に、『シュガーヒルストリート』(06年10月から07年3月まで日テレ深夜枠で放送されていた音楽番組。以下、SHS)までさかのぼってもらいます。SHS終了時とダンジョン終了時では、ヒップホップカルチャーの一般層やマスメディアへの理解度や浸透度に大きな差を感じましたか?

Zeebra 全然違ったね。正直、SHSのときは俺自身、世の中をまったく理解していなかった。つまり、「一般とは何か?」「民放とは何か?」なんていう意識がなかったんだよ。「ヒップホップを扱った番組があったらいいのに」という考えを形にしただけで、楽しむのも俺だけ、ヒップホップ好きだけでいいやってマインドが、番組を終了させてしまった大きな要因。当時、参考にしたのは『Yo! MTV Raps』【編註:アメリカのMTVで88年から95年に放送。米テレビ番組史上、最初のヒップホップ番組といわれている】でさ、番組ではヒップホップに携わるラッパーやDJ、ダンサー、グラフィティライターといった演者が、いかにイケてるかを紹介して、視聴者側も楽しんでもらえたらいいかなと思ってたけど、自分の理想を形にすることと、数字を出すということは別物ってことに気づかされたね。

――“シュガーヒルストリート”というタイトルは、Zeebraさんが命名した番組名で、もともとは「ヒップホップこんにちわ」という仮題があった。さらに「ヒップホップ=怖い」というイメージを払拭するために、〈Oh Tento Sun(おてんとさん)〉なるユニットを組まされるかもしれない、という時代でもあったわけですが、それから約15年間でテレビ番組の制作陣の理解力が高まった、ということですよね。

Zeebra そんな時代、あったねー(笑)。SHSがスタートした06年って、日本語ラップのメジャーバブルも落ち着いてた頃だと思うんだよ。でも、そのバブルがテレビ局のスタッフたちにまで届いていたか、といったら、そうではなかった。当時ですら「チェケラッチョでしょ?」っていう世代が番組を仕切っていたからさ。それと比較すると、ダンジョンの制作陣は知識も意識も理解力も高まっていた。プラス、俺自身の環境の変化も大きかったんだよ。SHSの頃は自分もアーティストであって、プレイヤーだったから、常に最前線を走らなくちゃいけない使命感を背負ってた。でも、ダンジョンがスタートする頃は自分のレーベル〈GRAND MASTER〉を立ち上げたりしたことで、裏方仕事に重きを置くようになったんだよ。そこで気づいたよね、プレイヤー目線と裏方目線で取り組む番組作りってのは全然違うんだってことに。つまり、「自分の思いを述べて番組にするだけ」がSHSだとしたら、「どうしたらヒップホップを面白く見せることができるか?」がダンジョンだったんだよ。SHSの打ち合わせが毎度絶望的だったのに対し、ダンジョンの打ち合わせは毎回刺激的だったしね。だから、放送当初の「モンスターが旗を振って山車で登場する」って番組提案の演出も、放送直後から不評だったんだけどさ(笑)、「これが民放でやる見せ方かもしれない」と一度のんだんだよ。でも、番組を進めていくうちにスタッフ側から「バトル自体の訴求力のほうが高いので、旗と山車の演出は不要じゃないか?」って、ふるいにかけてくれた。その時がダンジョンの制作陣の意識が変わり始めたと思えた瞬間だったよね。ヒップホップというカルチャーを形だけのエンタメじゃなく、内容面でのエンタメに落とし込もうとした変化であったわけだからさ。

 そうした制作側の裏も見つつ、表舞台では般若と俺の二人三脚が功を奏したと思う。漢(a.k.a. GAMI)やウエチョ(サイプレス上野)、R-指定、T-Pablowのモンスターたちの意向を吸い上げて、放送作家と内容を詰めていく。とにかくこの初代の5人のバランスが、番組を続けていく上で見事にハマったんだよ。しかも、みんな各々の活躍の場を広げて、自分のあるべき居場所を確立したじゃん。彼らの良い意味での気負いが、番組を継続する元気玉になったからさ、本当に彼らの意識の高さには助けられたよ。

――放送中に一部からは「ヒップホップカルチャーの“バトル”の要素しか紹介していない」という意見もありましたが、少なからず「チェケラッチョ」や「ズクズク(スクラッチのジェスチャー)」といった表層的なイメージは葬り去られた。さらに、他のテレビ番組でのラップ/ラッパーの扱われ方や、ラップを採用したCMなども飛躍的にクオリティが高まったように思います。

Zeebra おかげさまで8割5分は払拭できたんじゃないかな。挑戦者やモンスターのリリックをテロップで表示させたことで、しっかり韻を踏んでいる事実も理解させることができた。「なんかラッパーって好き勝手ラップしてるだけかと思ってたけど、意外と頭使ってるんじゃね?」っていう知的な側面を伝えられたことが大きいよね。さらにバトルが終わったら審査員が解説をするじゃんか。審査員長の(いとう)せいこうさんが的確に解説、ジャッジしてくれたら、たとえとんでもないワルや、とんでもないバカみたいなヤツが出てきたとしても、目と耳でその頭脳明晰さが伝わるんだよね。

 あとはやっぱり、ネットとスマホの普及だよね。昔はケーブルテレビと契約してアンテナを設置しないとコアな音楽情報にはたどり着けなかったけど、今は誰でも簡単にスマホでアクセス、視聴もできる。そのハードルの低さが、ヒップホップをより身近なものとして感じやすくなった。そこに意識の差はあれど、番組に関わる多くの面々がヒップホップが好きなわけだからさ、おのずと厚みを増していくことができたんだよ。

本当は10年以上続く長寿番組にしたかった

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