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【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム列伝【5】

16歳の少女を殺した、禁断の“百合”的三角関係――遺された一遍の詩

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

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左から、シェリア、レイチェル、スカイラー。

 2012年7月6日未明、ウエストバージニア州に住むスカイラー・ニーズ(当時16歳)が突然、自宅から失踪した。自宅の防犯カメラが捉えた映像には、寝室から抜け出して一台の車に乗り込むスカイラーの姿。一体、スカイラーはどこに行ってしまったのか? 車を運転していたのは誰なのか? 少女失踪事件に謎が深まる中、重い口を開いたのは彼女の親友だった。
 

無二の親友との出会いと青春

 ウエストバージニア州スター・シティ。人口2000人未満の小さな町で、スカイラー・ニーズは、一人娘として大切に両親に育てられた。経済的には恵まれず、両親は娘に玩具や洋服を買ってあげることはできなかったが、夏には車で6時間かけてビーチに出向いて海水浴を楽しみ、クリスマスは家族だけの時間を過ごす。幸せな家庭がそこにはあった。

 スカイラーが小学生になると、シェリア・エディという新しい友達ができた。お互いの母親が長年の友人関係にあったことから、学校以外での交流も増えるようになった2人は、プールに行くのも一緒なら、放課後遊ぶのも一緒と、いつも行動を共にするようになり、急速に仲良くなる。無二の親友となった2人は、思春期を迎えると、牧歌的で何もない町を歩き回り、グロッサリーストアの前に置いてあるベンチに腰をかけては語り合う毎日を送った。会えない時は、その時間を埋めるかのように延々とチャットをする。2人の間の強い絆は、誰にも裂くことのできないように思われた。

 同じ高校に進学し、同じクラスで授業を受ける2人の友情は、さらに強固なものになっていく。そんな2人に新しい友人、レイチェル・ショアフが加わる。女優を志し、歌が得意なレイチェルは学校内の人気者。彼女たちはすぐに意気投合し、周囲の誰もが認める仲のいい3人組となっていった。未成年でありながらアルコールやドラッグに手を出し、週末にはドライブを楽しむようになる。小さな町に流れるゆっくりとした時間に逆らうかのように、3人の青春は暴走していったが、それもまた彼女たちにとっては特別な時間だった。まさに青春を謳歌する3人。しかし、その友情は突然崩壊へと向かう。

 2011年8月16日、レイチェルは自宅にスカイラーとシェリアを招き、お泊まり会を開いた。いつものようにアルコールで盛り上がった3人は、延々とおしゃべりし、キスの真似事をしてお互いを撮影し合った。それは、いつもの3人の時間だった。しかし夜が更けた頃、その友情が壊れる事件が起きてしまう。盛り上がったシェリアとレイチェルは寝室に篭ると、そのまま体を重ね合い、セックスを始めたのだ。その光景を目の当たりにし、衝撃を受けたスカイラーは激高した。取り乱した彼女は、幼馴染であり親友だったシェリアに詰め寄り、激しい口論を繰り広げたのだ。

嫉妬のもつれとツイッター上の暴露

 2人の関係を知ってしまったスカイラーは、嫉妬にかられていた。幼少の頃からずっと一緒だったシェリアとの友情が、レイチェルによって破壊され、さらに2人は体の関係を持つまでに進展していたからだ。しかし、彼女にはシェリアとの友情を終わらせる心の準備は整っていなかった。3人はぎくしゃくしたまま、およそ半年に渡り、友人関係を続けることとなる。

 しかし、2012年3月。再び、事件が起こる。スカイラーとシェリアは、ほかの友人と共に映画館を訪れた。スカイラーは、久しぶりにレイチェル抜きでシェリアと過ごせる時間を楽しみにしていた。しかしシェリアは映画館の座席に着くなり、携帯で誰かとチャットを開始。館内の明かりが落とされても携帯を離さない彼女に、スカイラーは「レイチェルと話してるの?」と問いただす。しかし、シェリアはそっけない態度を示し、チャットを続ける。再び嫉妬に駆られたスカイラーは、シェリアから携帯を取り上げようとするが、彼女は携帯を放さなかった。するとスカイラーは、怒りに任せて彼女の顔面にパンチを放ったのだ。

 この一件を機に、3人の溝は埋められないものとなっていった。シェリアとレイチェルは、周囲にスカイラーへの不満を頻繁に漏らすようになった。一方で、ひとりになってしまったスカイラーは、あの夜見てしまった2人の“関係”を匂わす書き込みをツイッターに連投し始める。2人にとって、それは何よりも恐れていた事態だった。敬虔なクリスチャンの家庭で育った2人にとって、同性同士の体の関係が周囲にばれてしまうことは恐怖以外の何物でもない。やがてシェリアとレイチェルは、ある答えを出す。それは、2人だけの秘密を守るために、スカイラーを殺害することだった。

邪魔者を殺害し、守りたかった秘密

 2012年6月、シェリアとレイチェルはスカイラー殺害を企て始めた。殺害のためのリサーチを進め、実録犯罪を扱ったテレビ番組のファンだったシェリアは、彼女の頸静脈をナイフで刺すのが現実的に一番適しているという答えを出した。そして2人は、殺害に使用する為のナイフを購入するのではなく、自宅のキッチンにあるナイフを使用することを決めた。

 翌月、2人はスカイラーとの約束を取り付ける。関係はすでに壊れていたが、2人は「もう絶対に喧嘩はしない」という約束をスカイラーと交わし、また一緒に夜の町をドライブしようと誘った。日付をまたいだ頃、2人は車でスカイラーの家の角まで迎えに行くと、スカイラーは両親に内緒で一階の寝室の窓から自宅を抜け出し、2人の車に乗り込んだ。

 スカイラーにとって、再び昔のような友情を取り戻すためのドライブになるはずだった。しかし、町に向かうはずの車は、林道へとその方向を変える。人気のない林の中で車を止めた2人は、車から降りたスカイラーを前にナイフを握り締めたのだ。2人は「1、2、3!」の掛け声を合図に、一気に襲い掛かった。ナイフで切りつけられたスカイラーは、驚きと痛みに耐えて走って逃げようと試みたが、すぐに2人に追いつかれ、なす術なく刺され続けた。スカイラーは意識が遠のく中、シェリアに最後の問いかけをした。

「何でなの……」

 だが、彼女の問いはシェリアに届くことはなかった。2人はスカイラーの体を30箇所以上刺し殺害。彼女の死体を小川の近くまで運び、瓦礫などで隠した。さらに、返り血を浴びた洋服をゴミ袋に詰め込み、用意していたペーパータオルで体を拭き、平常を装ったのだ。そして、邪魔者をこの世から消すことに成功した2人は、スカイラーの死を祝うように、再びセックスを始めたのだ。

悲嘆に暮れる親友にかけられた嫌疑

 翌日、スカイラーの両親は、彼女が寝室から姿を消している事に気がつき、警察に通報する。警察による捜査開始後、自宅に取り付けてあった防犯カメラが、スカイラーが車に乗り込む姿を映し出していたため、何者かに連れ出された誘拐事件として、地元メディアは大きく報道。小さな町で起きた少女失踪事件に、ボランティアで集まった住民と警察による大捜索が繰り広げられ始めた。率先して捜索を手伝っていたのは、周囲から彼女の親友として知られていたシェリアだった。

「今日、スカイラーが家に帰ることを心から望んでいる」

 シェリアは、ツイッターに親友が一刻も早く戻るよう書き込みをし、町中にスカイラーの顔写真が印刷されたポスターを貼り続けた。しかし、悲劇の親友を演じ続けたシェリアの隠し事にいち早く気づいたのは、同級生達だった。

「シェリアとレイチェルは何かを隠している」

 やがて、疑いの噂は町中に広まり始めることとなる。ついに警察も、2人に事情聴取を開始。一貫しない2人の証言に警察も不信感を覚え始めていた。度重なる警察からの事情聴取と、2人を取り巻く噂に耐えきれなくなったレイチェルは、取り乱し、自宅で暴れるようになる。発狂する娘を心配した母親は、彼女を精神病院へと送った。これにより、一時的に2人への捜査は中断を余儀なくされる。しかし、警察はすでに2人の容疑を確信していた。

 2013年1月3日。退院したレイチェルは警察からの呼び出しに応じ、その足で警察へと向かった。耐え切れなくなった彼女は、ついに告白をしたのだった。スカイラーをナイフで殺害したこと、彼女が抵抗し、膝に怪我を負ったこと、そして、シェリアもその場にいたことを。レイチェルは警察に向かって呟いた。「私たちは彼女が嫌いだったんです」。スカイラー失踪から181日目の告白だった。

 同月16日、降り積もった雪が溶け始めた頃を見計らって、警察はレイチェルの証言を元に、スカイラーの遺体を捜索。彼女の遺体はすでに白骨化し、頭部だけが無い状態で発見された。スカイラーが生きている事を信じていた彼女の両親は無惨な娘の姿に、哀しみに暮れた。その後、罪を認めたレイチェルは、懲役30年の判決を受ける。シェリアは断固として無罪を主張したが、最終的に司法取引に応じて有罪を認めた。彼女に課された刑は終身刑(仮釈放の可能性有り)だった。

「なぜ?」に答える、同級生たちの証言

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法廷に立つレイチェル

 親友同士の友情のもつれから発生した殺害事件。すべては、あの夜開かれたお泊まり会がきっかけだった。しかし、スカイラーはなぜ、過剰なまでにシェリアとレイチェルの関係に嫉妬し、怒り続けたのだろうか? その答えは、地元のジャーナリストによって出版された本『Pretty Little Killers』に記されていた。本の中で、取材に応じた同級生達は証言する。2人だけでなく、スカイラーもまた同性愛者として校内で認知されていたこと。そして、シェリアに恋心を寄せていたスカイラーは、レイチェルとの関係を目の当たりにし、激しく嫉妬していたという噂があったこと。あの殺人が、親友同士の間で生じた禁断の三角関係が引き起こした無惨な事件であったことを……。

 その噂話を裏付けるように生前、スカイラーは一遍の詩を残していた。それは、恋に破れた彼女が、シェリアに向けて書いた詩なのかもしれない。

〈何もない牧草のように 乾いた草で一杯 それは秋の空気の臭い
私は美しさに囲まれ 私はすべてを受け入れ ここで待っている
理解するには頑固すぎる 時はゆっくり過ぎ 受け入れ始めている
あなたは もう 戻らない あなたに忠実な私の愛は 私を閉じ込めている
あなたの目に映る私 私の心はあなたのもの  私たちの愛が壊れることはない〉

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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