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萱野稔人と巡る超・人間学【第12回】

萱野稔人と巡る【超・人間学】――人間社会を変革させるトリガーとしての感染症(後編)

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――人間はどこから来たのか 人間は何者か 人間はどこに行くのか――。最先端の知見を有する学識者と“人間”について語り合う。

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(写真/永峰拓也)

今月のゲスト
神里達博[千葉大学国際教養学部教授]

感染症は、人類にいかに大きなインパクトを与え、人間社会と人類史の流れを変えてきたのか。人間と感染症の戦いの歴史と影響を振り返り、ポスト・コロナ時代にもたらされるであろう変化を考える。

萱野 新型コロナウイルスによるパンデミックは、全世界を揺るがす危機にまでなりました。人類史を見ると、これまでも感染症は人類社会に大きな打撃を与えています。と同時に、感染症は人類社会に変化をもたらす要因にもなってきました。例えば天然痘です。15世紀末のコロンブスの航海をきっかけに多くのヨーロッパ人がアメリカ大陸を探検し、そこに入植していきましたが、その過程で天然痘がアメリカ大陸にもちこまれ、相当な数の先住民がその感染によって命を落としていきました。一説には、コロンブスの航海以降、約200年の間に先住民の人口の9割近くがヨーロッパからもちこまれた感染症で死んだともいわれています。それは結果的にアステカ帝国やインカ帝国の滅亡さえももたらすことになりました。なぜアメリカ大陸の先住民には感染症に対する免疫がなく、その一方でヨーロッパ人にはあったのかといえば、ヨーロッパ人は馬や牛を家畜化していたからだと考えられています。

神里 天然痘ウイルスの起源は定かではないのですが、免疫については旧大陸のほうがそういった動物との関係が深かったことは、大きく影響しているでしょう。当然、免疫を獲得するまでに、ヨーロッパでもかなり多くの人が亡くなっているはずですが。

萱野 そもそもアメリカ大陸には、馬や牛といった家畜化できる野生動物がほとんど生息していませんでした。そうした野生動物との関わりの違いが、人類史の帰趨に大きな影響を与えたんですね。

神里 一方、アジアからヨーロッパに伝播したペストやコレラは逆にヨーロッパ人に免疫がなかったため、大流行が起きたという歴史があります。

萱野 ペストは近代以前のヨーロッパに、深刻なパンデミックを何度も引き起こしていますね。とりわけ14世紀の大流行では当時のヨーロッパ人口の3分の2が死亡したとも推定されています。この人口激減によって労働力が希少なものとなり、それまで多数の農奴を酷使することで成り立っていた封建制が崩壊していきました。ペストの大流行が近代的な生産関係を成立させる要因にもなったのです。

神里 感染症の流行が社会の構造まで変えていったということですね。その変化は、ヨーロッパにおける人権や民主主義的な考え方が生まれたこととも関係しているといえるかもしれませんね。ヨーロッパでは17世紀にもペストが流行しましたが、このときも実は、人類史に残る“発見”に影響を与えています。アイザック・ニュートンはペストの流行でケンブリッジ大学が閉鎖されたために、故郷に帰り、その休暇中にひとりで思索を深めているとき、三大業績といわれる“万有引力の法則、微分積分法、光学理論”を着想したからです。

萱野 その17世紀のペストの流行について、20世紀フランスの哲学者ミシェル・フーコーは『監獄の誕生』の中で、「規律訓練」型権力が成立してくるひとつの起源になったと述べています。「規律訓練」型の権力というのは、フーコー自身の概念で、個々人に照準を合わせた細やかな監視と行動管理によって成り立つ権力のことです。つまりペストの流行を抑え込むために、各戸に誰が住んでいるのかが正確に調べ上げられ、その住民がどのような病状を示しているのか、混乱に乗じて犯罪行為などをおかさないか、といったことが一人ひとり監視されるようになったのです。この点で言えば、近代的な権力は感染症対策と切っても切り離せません。

神里 感染症が、政治や権力のかたちを変容させるきっかけにもなったのですね。

公衆衛生の発展と近代的な都市政策

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