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『クロサカタツヤのネオ・ビジネス・マイニング』第65回

【クロサカタツヤ×鈴木茂哉】“次のIT”とボクらはどう付き合うの? 次世代コンピューティングの専門家に聞いてみた!

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通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

――インターネットの最初のブームに沸き立った’95年から20余年、インターネットそのものが誕生してからは30年以上がたった。その間に、世界はどんどんITによって成長を遂げたけど、バブル崩壊後の足踏みを続けてしまっている我がニッポン。ボクらが楽しく、健やかで、安全に生きていくためには、もはやいろいろと待ったなし。世界がガンガンとテクノロジーに対応し、テクノロジーによって変化していく中、ボクらはそれにどうやって向き合い、追いつき、そして生きていけばいいのか。

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●宛先ポート番号別の年間観測パケット数割合
(※)IoT機器特有のポートを狙った攻撃から、特定のIoT機器の脆弱性を狙ったより高度な攻撃も観測されるようになっており、単純にポート番号だけからわかることが難しいIoT機器を狙った攻撃が「その他」に含まれている。
(出典)NICT「NICTER観測レポート2017」を基に総務省作成

クロサカ 3年前から慶應義塾大学の特任准教授を務めているのですが、今回のゲストはその先輩であり、ネットワークやコンピュータの研究をされている鈴木茂哉さんです。鈴木さんは現在、慶應義塾大学で特任教授としてブロックチェーン・ラボ【1】の副代表を務められていますが、以前から量子コンピューティング【2】にも取り組まれていますね。

鈴木 量子コンピューティングは最近話題が増えてきましたが、実際にはまだ基礎の基礎の段階です。既存の電気回路に例えると、半導体はおろかトランジスタよりも以前の真空管レベル。僕が子どもの頃に、テレビやラジオが真空管からトランジスタに切り替わって、一般家庭で使えるようになりました。だから、今の量子コンピュータは、誰でも使えるような状況のずっと手前です。

クロサカ まだまだ、そうなんですね。ようやく一部のマニアックな人達が触り始めているくらいですか?

鈴木 もっと前の研究段階ですね。最近は、研究のスピードも速いのですが、情報の流通速度も速いから新しい技術に対してマニアックな人達が係わってくるタイミングも早いので、話題に多くなっている部分もあるんじゃないでしょうか。ただ、各方面で投資が加速しているようですから、もうちょっとしたら劇的に違ってくるかもしれません。

クロサカ 最新の情報にたどり着きやすくなっているのは確かにそうですね。

鈴木 検索でたどり着ける情報が増えたのが大きいです。一方で、まだまだ検索ではたどり着けない情報もあって、例えば僕の昔の仕事はググっても出てこないんです。

クロサカ どんな仕事ですか?

鈴木 高校生の頃からコンピュータが好きで「月刊アスキー」に記事を書いていました。学生時代の1985年には起業して『ウィザードリー』の日本語化を手がけたんです。

クロサカ 懐かしいですね。ウィザードリーは僕も遊んでいました!

鈴木 82年に大学に入って、すでに海外ゲームの日本語化の仕事をしていたんです。当時、ウィザードリーは技術的に難しいところがあったため、日本語化されていませんでした。でも、それを解決する方法を持っていたので、渡米して原作者に説明したら許諾を得られたんです。でも残念なことに、この頃はインターネットの登場よりも遙か昔のことなので、ググっても情報が載ってないんですよね。だから、たまに「オレがやった」って嘘をつく人がいて困るんです。

クロサカ 「それオレ詐欺」ってヤツですね。

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慶應大学が運営するSFC研究所。先端的研究ミッションを持つ研究グループとして多数のラボがある。(ブロックチェーン・ラボのウェブサイトより)

鈴木 ゲームだけでなく、いろんな開発をする傍ら、当時からネットワークをつなぐことが好きだったので、今のボスの村井純【3】先生と仲良くしていて、そのうちに研究者になることを決めました。実は、ブロックチェーンについては最初、怪しい技術だと思って近づかなかったんですよ。でも、村井先生が「ちょっとブロックチェーンやらないか」って言い出したので、勉強してみたら僕がこれまでやってきたことと親和性が高かったんです。

クロサカ 博士号を取った論文が、暗号技術についてのものでしたよね。

鈴木 はい。公開鍵暗号【4】を使ってデータの出自をどうやって守るのか、情報の置き場所を変えても元の持ち主を示せるテクニックについてで、ブロックチェーンに近い領域でした。今興味があることのひとつは、ビットコインのような暗号通貨は、同じ1ビットコインでも誰が持っていたビットコインかによって価値が変わる可能性がある、という性質についてです。

クロサカ 日本円なら100円硬貨は誰が持っていても、同じ100円として通用しますよね。ビットコインは違うんですか?

鈴木 ビットコインは匿名性が高いと誤解されていますが、実は誰が、いつ、どんな相手に支払ったのかがすべて記録されて残ります。だから、犯罪に結びついていることが明白なアドレスを経由したビットコインは、新規に払い出されたビットコインとは等価ではない、という考え方もできます。受け取る側が「そのコインはマネーロンダリングに使われたものだから受け取らない」と言い出すことだってあり得るわけです。

クロサカ それは面白いですね。法定通貨の場合、100円硬貨に100円の価値があると、硬貨という物体そのものを根拠に、利用者が“信用(トラスト)”しています。だからこそ、それをコピーする行為が禁止されている。でも、存在がトラストをもたらすという構造は、そのままデジタルにできないというのが今のお話です。

鈴木 そう、そのトラストの在り方が、根本から揺さぶられているんです。

クロサカ ブロックチェーンなどのデジタル技術が「トラスト」について新たな状況を生み出していますが、一方で社会制度はまったく追いついていません。例えば、欧州では「GDPRに従うと公開鍵暗号は個人情報になるから、EUではブロックチェーンが使えない」という論文が出てきました。GDPRはデジタル時代にデータやプライバシーを守るための法律ですが、実は最新のテクノロジートレンドには追いつけていない。

鈴木 技術やソリューションを社会に取り入れるときに、どんなにフレキシビリティを高くデザインしてディプロイメントしても、後からやってきた人には「なんでこんなふうになっているんだ」って怒られてしまいます。例えば、インターネットの普及によってIPアドレスが足らなくなり、それを解決するためにIPv6【5】が作られましたが、それに対して今後IPアドレスが足らなくなることは本当にないのかとか、IPv6の普及に時間が掛かっていることなどへ疑問の声がでてきます。

クロサカ そんな、後からやってきて文句を言われても、困りますよね(笑)。しかしそれを「後出しジャンケン」と嘆くのは簡単ですが、インターネットはもはやビジネスから日常生活まで欠かせないインフラになっているが故の悩ましい実態でもありますし、僕らはそれを目指してきた、とも言えます。

鈴木 その点で、今日のビットコインはやはり概念実証のための実験だと思いますし、今はそうあるべきだとも思います。例えばソースコードの深い改変なしに、暗号アルゴリズムの変更ができないなどといった点です。同じように暗号を使ったインターネットの技術としてDNSSEC【6】があるんですが、これは長期間使うことを初めから考え、議論してできたもの。だからデザインに10年掛かった。

クロサカ ドッグイヤーといわれるほど早い成長を見せてきたネット世界で、10年掛けてひとつの技術を作り上げるってとても贅沢なことに思えます。

鈴木 これからのコンピューティングを考えるときに、どういうデザインで、何を妥協し、何を取り入れて行くのか、その判断を下すのはとても難しい問題です。一方で、今の学生は、僕たちの学生時代よりも明らかに覚えないといけないことが多くて、本当に大変です。そうやって技術を覚えて大学を出ても、2年くらいすると時代遅れになるから、その段階で新しい技術を覚えないといけない。だから、教えている学生には「学ぶ能力が一番重要で、それを継続するしかない」と言っています。渡り鳥と同じで、羽ばたくのを止めると、死んでしまう。

クロサカ 突き放した言い方なんだけど、宿命のようなものなんですよね。僕と鈴木さんは10歳以上、年齢が離れていますが、同時にウェブ以前のインターネットやコンピュータを触っていて、この分野ではギリギリ同世代と言えます。その感覚からすると、今の学生は20年前よりも遥かに大変です。

鈴木 さっきドッグイヤーとおっしゃったけど、今のインターネットの時間の進み方はもう齧歯類ですよね。インターネットの研究を始めた頃、自分のコンピュータでニュースが読めたら良い、という話をしていた。実際にそれは実現しましたが、それどころかフェイクニュースの時代になってしまった。

クロサカ 「パンドラの箱」という比喩を安易に使ってしまいがちですが、インターネットに関しては本当に箱が開いた感じがします。その結果、世界の国々がいろんなアプローチでインターネットを規制しようと、慌てふためいています。

鈴木 僕自身は、グローバルでフラットなインターネットに夢を見て、できるだけそれを実現する技術を開発したいと思ってきました。これから研究者としての残り時間は、そのために使いたいと思っています。

クロサカ インターネットは、もともと「グローバルでフラット」なものとして作られました。それを語るとき「グローバルでフラット」という枕詞は、当たり前のように使われますが、この本当の意味を多くの人が理解していません。実はそれは、とんでもなくアナーキーだし、強烈な自己責任の世界にもなりかねない。そして多くの人々は、そんな激しい世界ではなく、「インターナショナルでセキュア」なインターネットを望んでいる。

鈴木 インターネットの自由を求めていたけど、自由を行使するにはそこまでの責任があることに、気がついていた人がどれだけいるのか。私は全然気がついていませんでした(笑)。

クロサカ 敢えてこの2人の対談なので言ってしまいますが、村井先生ですら、こうなるとは気がついていなかったかもしれません。

鈴木 ブロックチェーンにはトラストレス【7】に関連して「ドント・トラスト・ベリファイ(Don't trust. Verify.)」という言葉があります。この言葉は、決して「信じていない」のではなく、単に「目の前の情報を信じるな」ということしか言っていません。そもそも、信用なしには、契約関係は成立しない。それなのに、トラストレスも含めて、言葉だけが一人歩きしてしまっているのがすごく気持ち悪い。

クロサカ これまでの社会は共同幻想だったかもしれないけれど、インターネットがパンドラの箱を開くまでは、それで成立してきたのも事実です。その現実に我々は今直面していて、それがもしかするとこの20年の困難さの指数関数的な急拡大の要因のひとつじゃないかなと思えてきました。

鈴木 政治の話は好きじゃないけれど、単純に見ると資本主義とITは、人間の幸せという観点で相性が悪い。単純に資本主義的な最適化にITが使われてしまうと、人は不幸になることが多いからです。だから、ブロックチェーンを使えばハッピーになる、とは口が裂けても言えない。でも、ハッピーになる部分は必ずあると思っている。なので、そういうところを細かく見つけて、部分幸福化をしていきたいと思う。

クロサカ 確かに自由主義の考え方とITは相性が悪い。デジタルは、細分化して構造化して定義を定めていくもの。一方で、自由主義は構造も含めてすべてがバラバラであること、または構造化されることから逃れようという姿勢を否定しません。だけど、ITはすべてを構造化する。つまり、僕らはアーキテクチャから逃れられない。

鈴木 ということは、許容性があるアーキテクチャを考えないといけない。そして、それを考えるのがクロサカさん達の世代の仕事です。オレたちが作り出したものすごい化け物をなんとかしてくれ、と言っている感じがして無責任で嫌なんだけど(笑)。

クロサカ いやいや、茂哉さんも逃れられないですよ(笑)。あと20年か30年は一緒に頑張ってもらわないと。

―対談を終えて―

「テクノロジーによる本当の変化は、まだ始まっていないのかもしれない」

 鈴木さんとの対談は、いつにも増して悩ましいものでした。といっても会話が弾まなかったわけではなく、むしろその逆なのですが、話題が多岐にわたるほど、どれもこれも、なんら解決の糸口が見つからない問題ばかりで埋め尽くされていることに、思い至ったのです。

 例えば、対談後半に出てきた「デジタルと資本主義」は、一見とても親和性が高そうですし、実際に近年の金融分野はデジタル技術によって飛躍的な発展を遂げました。しかしよくよく考えると、両者はいずれ対決を余儀なくされる運命にあるようです。

 資本主義が本質的に希求するのは「自由」ですが、そこでいう自由とは、構造のデタラメさを許容する自由でもあります。何しろデタラメが許容されるからこそ、そのデタラメを裁定機会として金を稼ぐことが資本主義の源流にあることは、ベニスの商人やコロンブスの新大陸発見、あるいはオランダのチューリップ球根のバブルといった歴史を紐解けば明らかでしょう。それゆえに金融規制があるわけですが、「政策に対策あり」という言葉の通り、うまいことをやって儲けることが正当化されてきた歴史でもあります。

 しかしデジタルはそうしたデタラメを最初から許しません。例えば私達は、微妙に思い出せない漢字を、ホワイトボードやノートにゴニョゴニョと書いてしまいます。それでも前後の文字や文脈でおおよその意味が通じるからで、これこそがアナログの流儀です。しかしデジタルでそれは成立しないので、私達は常に正確な漢字を思い出しながら文章を書かなければなりません。そしてそれと同じく、デタラメな文字や構文で書いたコードを、計算機は最初から一切受け付けないのです。

 この「予めデタラメを許さない」という価値観に、私達はまだまったく慣れていません。実際、デタラメを積み重ねることで社会が動くという実態もあります。それを「王様は裸だ」と検証を重ねて指摘した結果、本当に構造が崩れてしまったのが、最近でいえばリーマンショックでしょう。そしてその後に何が起きたかといえば、公的資金による救済という、いわば「なかったことにする」ことであり、さらにその引き金となったCDOを再び模倣した、新たなデタラメ金融商品の復活です。

 このように、私達はデタラメを愛し、デタラメの中で生きてきた歴史の影響を、いまだ強く受けながら生きています。ところがデジタル技術は常に「え? デタラメ? 馬鹿じゃないの?」という問いを人間にひたすら突きつけている。そうした衝突を繰り返しながら、三歩進んで二歩下がるような歩みで、「デタラメのない世界」を少しずつ許容しているように思えます。

 そう考えると、私達はデジタル技術がもたらす本当の変化のスタート地点に立ったか、あるいはまだそこにさえも至っていないのかもしれない。だとすると、目の前にあるのは、まだ何も解かれていない問題の荒野なのかもしれない……今回の対談を通じて、そんなとんでもない世界の姿を、改めて感じました。

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鈴木茂哉(すずき・しげや)
博士(政策・メディア)。情報システム研究者およびエンジニア。1989年よりインターネットに基づく情報システム開発に従事。現在、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授。慶應義塾大学SFC研究所ブロックチェーン・ラボ副代表、WIDEプロジェクト運営委員。

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クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。クロサカタツヤ事務所代表。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや国内外の政策プロジェクトに従事。07年に独立。「日経コミュニケーション」(日経BP社)、「ダイヤモンド・オンライン」(ダイヤモンド社)などでコラム連載中。

【1】ブロックチェーン・ラボ
ブロックチェーンの研究と、暗号通貨以外のアプリケーションの確立に向けて国際的な研究ネットワークを構築するため、慶應義塾大学が2016年7月に設立した研究所。

【2】量子コンピューティング
既存のコンピュータは情報をすべて0と1のビットで表現して扱うが、量子コンピュータはひとつのビットが同時に0でも1でもある状態になるため、1回の計算で同時に複数の結果を求められる並列処理に優れている。実現すれば、暗号解読などの計算速度が飛躍的に向上するとされている。

【3】村井純
慶應義塾大学環境情報学部教授。日本のインターネットの父として知られる。

【4】公開鍵暗号
公開鍵と秘密鍵の2つの鍵をペアで扱い、片方の鍵で暗号化すると、もう片方の鍵でしか元に戻せない暗号技術。現在のインターネットにおける、さまざまなセキュリティの基盤になっている。

【5】IPv6
「インターネットプロトコルバージョン6」の略称で、インターネットの基本的な通信規格。インターネットに接続できるデバイスの数が、従来のIPv4では将来不足するため1995年に作られた。

【6】DNSSEC
DNSという、ネット上の住所にあたるIPアドレスという数字を、cyzo.comのような人間が覚えやすい文字列のドメインに変換するインターネットの基礎技術を拡張し、セキュリティを強化したもの。

【7】トラストレス
日本語では「信用不要」と言い、ブロックチェーンの特徴を表わす用語のひとつ。暗号通貨での支払いと受け取りに際し、すべてがブロックチェーンに記録し公開されるため、信用できる第三者による仲介や監査が不要であることを意味している。

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