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フィクションで解剖――オトメゴコロ乱読修行【21】

【『ノルウェイの森』】村上春樹が「やれやれ」ぼやく文化系の股間を熱くする文学的な男女交際の末路

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――サブカルを中心に社会問題までを幅広く分析するライター・稲田豊史が、映画、小説、マンガ、アニメなどフィクションをテキストに、超絶難解な乙女心を分析。

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 ここ数年、秋の風物詩といえば、村上春樹の「ノーベル文学賞とるとる詐欺」だが、今年も安定のスルー。そんな村上作品を1冊だけ読んでハルキストを気取りたいなら、とりあえず『ノルウェイの森』で間違いなかろう。1987年の書き下ろし長編で、同年の国内年間ベストセラー9位、翌年の2位。現在までに累計1000万部以上も発行されている、名実ともに村上の代表作だ。

 本作で提示され、村上の他作でも同工異曲的に繰り返される「心が壊れた女性を神聖視」「俗世にうまくコミットできない繊細なボクに自己陶酔」といった男性主人公の精神性は、現在のこじらせ文化系中年男子のそれと、ほぼ一致する。30年かけて1000万部を売った国民的文学作品の影響力には、ほとほと戦慄を禁じ得ない。

 物語は、37歳の「僕(ワタナベ・トオル)」が、主に大学時代を回想する一人称形式で進行する。簡単に言えば、精神を病んだ最愛の女性・直子に振り回された「僕」の青春時代を振り返る恋愛小説だ。直子を含む主要登場人物の多くが心を病んでいるか、自死を選ぶか、もしくは両方という、結構な鬱展開も特徴のひとつである。

 本作は、「僕」が直子を神聖な存在として崇め奉るラブストーリーだが、本連載的にはWヒロインとして登場する対照的なもうひとりの女性に注目したい。「僕」と同じ大学に通う女子大生・小林緑だ。緑こそ、我々を苦しめる、しかしついつい縁を結んでしまいがちな、「文化系男子ホイホイ女子」にほかならない。

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