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町山智浩の「映画がわかる アメリカがわかる」 第107回

『バース・オブ・ア・ネイション』――名作『國民の創生』は生まれ変わったか?奴隷解放映画の憂鬱

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『バース・オブ・ア・ネイション』

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1832年、バージニア州で起こった奴隷による反乱を描いた作品。綿花農園で働く黒人奴隷の息子として生まれたナット・ターナーは、聡明さゆえ、聖書を学ぶことを許可された。そこで彼はすべての人間は神の元で平等であると学ぶ。ある日、自らが置かれた状況に疑問を感じるナットは、天啓を受け、奴隷を率い反乱を起こす。第32回サンダンス映画祭審査員大賞、観客賞を受賞。

監督、脚本、出演:ネイト・パーカー。日本公開は来年初旬予定。


 D・W・グリフィス監督の『國民の創生』(1915年)は、映画史上における最高傑作のひとつである。それまでの劇映画は、セットの中で演技する俳優たちを固定カメラでただ撮るだけの、舞台の記録のようなものだった。だが、グリフィスはヒロインを演じるリリアン・ギッシュの美しい顔にぐっと寄ってクローズアップしたり、絶体絶命の人々と、それを助けに走るヒーローをカットバックさせたり、現在も続く娯楽映画の基本的なテクニックを開発した。だから、エイゼンシュタインの『戦艦ポチョムキン』(25年)と共に、映画を学ぶ者なら必ず観ることが義務付けられている。

 だが、『國民の創生』は取り扱いの難しい映画だ。なぜなら、南北戦争の後、解放された黒人奴隷が選挙に行くのを妨害するKKKを正義の味方として描いているからだ。さらに、この映画がアメリカで国民的に大ヒットしたことで、それまで消滅していたKKKが復活した。彼らは黒人をリンチし、黒人教会に爆弾を投げ込み、それは今も続いている。『國民の創生』は技術的には素晴らしいが罪深い映画なのだ。

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