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【プレミアム限定連載】アメリカン・トゥルー・クライム列伝【7】

アメリカン・ドリームを掴んだ男の転落人生――「夫はベネズエラで死にました」

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――犯罪大国アメリカにおいて、罪の内実を詳らかにする「トゥルー・クライム(実録犯罪物)」は人気コンテンツのひとつ。犯罪者の顔も声もばんばんメディアに登場し、裁判の一部始終すら報道され、人々はそれらをどう思ったか、井戸端会議で口端に上らせる。いったい何がそこまで関心を集めているのか? アメリカ在住のTVディレクターが、凄惨すぎる事件からおマヌケ事件まで、アメリカの茶の間を賑わせたトゥルー・クライムの中身から、彼の国のもうひとつの顔を案内する。

「死んだはずの男が生きている――」

 2015年、自らの死を偽装し、別人になりすまして生活を続けていた男の居場所を、米国連邦捜査局が突き止めた。あまりに奇怪なこの事件は、地元メディアを中心に報道され続け、大きな話題を呼ぶこととなった。

 男はなぜ死を偽装し、第二の人生を歩む必要があったのだろうか? そこには、男のある計画があった。

移民から軍属、そしてアメリカン・ドリームを掴む

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幸せだった頃のホセと妻のダフニー。

 1970年代、フロリダ州の大学に通うホセ・ランティグアは、若くしてキューバからアメリカへと渡った移民だった。故郷から離れた新天地で勉学に励んだ彼は、卒業後、米軍へと入隊し、20年間に渡って軍人として務めた。その間に、5歳年下の女性と出会い結婚。2人の子供にも恵まれ、退役後は金融会社の役員として仕事に勤しんだ。

 そうして人生の半分以上を過ごしたアメリカの地で、キャリアを積み、55歳となったホセは、さらなる挑戦を決意する。それは、長年の夢であった自分の店を持ち、経営者として成功をする事だった。

 2008年、フロリダ州ジャクソンビルで、彼はついに念願の家具店をオープンした。 地元の人々は、誠実で気立てがいい彼を慕い、地元紙で「人気の店」として特集されるなど、ビジネスは成功を収めた。3年後には2店舗目をオープン。経営者として30人ほどの社員を抱え、海沿いの高級マンションに住み、ノースカロライナ州の山奥には別宅を設けるまでになった。さらにうれしい出来事は続く。長女が孫を身ごもったのだ。アメリカで生活を始めてから、およそ30年。ホセは、ついにアメリカン・ドリームを掴んだかに思われた。

男が企てた、起死回生のトンデモ計画

 しかし2012年、3店舗目のオープンを計画中に、彼のアメリカン・ドリームは悪夢へと変わっていく事となる。家具店を始めて4年。店の経営にかげりが見え始めたのだ。なんとか持ち直そうと奮闘するも、業績は悪化の一途を辿った。多額の負債を抱え、これ以上店を続けることができない状態に陥ったホセは、妻と共にある計画を企て始める。それは、自らに掛けた生命保険を手に入れる為に、死を装うことだった。

 ホセは部下や友人達に「病に冒されている」と嘘をつき、「アメリカでは認可されていない治療を受けるためにベネズエラへ飛ぶ」と伝えた。さらに、保険会社に自分の死を立証するため、現地の医者に賄賂を贈って偽の死亡証明書を作成。すべては、負債から逃れ、再び幸せな生活を取り戻すためだった。

 2013年4月、ホセは滞在先で突然、心臓発作を起こしたとし、計画通り死亡を装った。南米の暑気の中で遺体の腐敗が進み、やむなく現地で火葬されたこと、遺骨は故郷であるキューバに続くカリブ海にひっそりと撒かれたことを、妻は周囲に伝えた。

 妻はそのまま、長年連れ添った夫の突然の客死で悲しみに暮れる未亡人を装い、教会で追悼集会を開き、「アメイジング・グレイス」を歌う参列者達の前で涙した。そして、ホセの死から1カ月後、家具店は、時期を見計らったかのように、約8億円の負債を残して倒産した。

予定外の事態――認められないホセの死

 その後2人は、海沿いの高級マンションを売り払い、人里離れたノースカロライナ州の山奥にある別宅へと身を移す。ホセは、万が一の為に、隠れ部屋まで設けて、万全の態勢で潜伏生活を開始。そして、借金返済の為に、約9億円の生命保険の支払いを求めて、妻は保険会社へと出向いた。

 しかし、ここで問題が生じる。保険会社は、ホセの死を証明できる書類が欠けているとして、支払いを断ったのだ。納得のいかない妻は、息子と共に、なんとしてでも保険金を手にいれる為に、訴訟を起こしたが、検死結果が記されていない事から、一向に保険金が支払われる事はなかった。ホセと妻は、次第に苛立ち始める。

 そして潜伏生活の開始から2年後、2人は海外逃亡を目論んだのか、今度はホセの偽造パスポートの申請を企てる。彼は実在する人物、アーネスト・ウィルズという人物になりすまして申請を行なった。しかし、この行為が大きな誤算となる。

お粗末すぎる発覚の顛末

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当の本人ホセ・ランティグア。前掲の写真とは随分容貌が変わっている。

 2015年3月21日、連邦捜査局はホセ夫婦が住む、ノースカロライナ州の自宅へと向かった。不正に申請された偽造パスポートの捜査線上に、死んだはずのホセの名前が浮上したからだ。

 ホセは申請時に、なりすました人物の身分証明書を使用したのだが、顔写真は自分のものを使用していた。顔認識システムによって、生前のホセが使用していた写真と一致してしまったのだ。さらに、彼がなりすましていた男性は、白人の彼とは肌の色の違う、黒人の男性。加えて、ソーシャル・セキュリティ・ナンバーは、1917年生まれの女性のものを使用するという失態を犯してしまったのだ。

 妻を助手席に乗せ、自宅近くで車を運転していたホセは、捜査官に発見され、妻と共にあえなく逮捕された。発見当時、彼は、カツラを被り、髭を蓄え、変装を施していたという。

 アメリカン・ドリームを掴みかけた男の転落人生――ホセと妻は、老後を刑務所の中で、過ごす事となってしまった。

井川智太(いかわ・ともた)
1980年、東京生まれ。印刷会社勤務を経て、テレビ制作会社に転職。2011年よりニューヨークに移住し日系テレビ局でディレクターとして勤務。その傍らライターとしてアメリカの犯罪やインディペンデント・カルチャーを中心に多数執筆中。

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