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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第69回

2014年CESでは花盛り ウェアラブルデバイスの可能性と現状のくすぶり

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

 毎年1月にラスベガスで開かれる世界最大の家電見本市、今年はウェアラブル系のデバイスが花盛り。そのラインナップから見えてくるのは、各社が勇み足で参戦する市場と、その先に広がる展望なのか――?

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『インターネット白書2013-2014 すべてがつながる未来へ』(インプレスR&D)

米ラスベガスで毎年1月に開かれる世界最大の家電見本市CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。今年は腕時計型を中心としたウェアラブルデバイスが花盛りだったようだ。

 出品されたウェアラブルを横断的に見ていこう。

 ランニングやアウトドアスポーツ用のGPS機器で有名なガーミンからは、「Vivofit」という手首型のフィットネスデバイスが登場した。このデバイスの驚くべきところは、なんと一度の充電で1年持つということ。機能的にはナイキの人気ウェアラブル「FuelBand」とほぼ同じで、歩数や距離、カロリー、時計などが表示できるぐらいのようだが、FuelBandは1週間程しかバッテリーが持続しない。

 ウェアラブル全般にいえることだが、耐久性に乏しいという問題もある。ポケットやバッグの中に忍ばせるスマートフォンやタブレットと違い、手首に装着するウェアラブルはあちこちにぶつける可能性が高く、耐水性も要求される。しかし耐衝撃性・耐水性をきちんと備えたデバイスは、まだほとんど出てきていないのが現状だ。この問題についてはコンピュータメーカーより、ガーミンのようにアウトドアで使われることを前提にデバイスを作ってきたメーカーに先行メリットがあると言っていいだろう。これは日本のカシオのような腕時計メーカーにも当てはまる。

 運動量以外のさまざまな身体状況をセンサで測るデバイスも登場した。

 ネタトモ社の「Netatmo JUNE」はイミテーション宝石をブレスレットに乗せたようなちょっとチープなデザインだが、日焼けの具合を教えてくれる手首型のウェアラブル。また仏・モヴェア社の「Gシリーズ」という手首型のデバイスは、身体が良い姿勢を保っているかどうかを測り、チェックしてくれるという。

「Lifeband Touch」は、韓国のLG電子が初めて投入したウェアラブルで、これも手首型。FuelBandに近いが、イヤフォン型の心拍計もオプションで販売するという。これは、テックメディアのビジネスインサイダーが高評価していて注目だ。FuelBandのような運動量計測に、スマホで受信したメッセージやアラートの通知機能を合体させて、軽くて小さいデバイスに収容したという実用性を評価しているようだ。

 このスマホの情報の通知機能を中心としたウェアラブルでは、キックスターターで1000万ドルという史上最高額を調達した「Pebble」が先行している。最初の製品はプラスチック製でデザインについては「オタクっぽい」などと酷評もされていたが、今回のCESで「Pebble Steel」という金属製のケースに入った第2弾製品を投入した。これはアメリカのメディアでもかなり評判が良いようだ。

 CESでのウェアラブル出展を見ると、結局はこのPebbleかナイキのFuelBandのインスパイア系……要するにこれらを真似た製品しか今のところは出てきていない。例えばアーコス社の腕時計型デバイスは、3種類も発表しているわりには、Pebbleに似た白黒の画面で電池の持ちの良いタイプとカラー液晶で電池の持ちの悪いタイプ、流行のカーブした画面を持つタイプと、画面が違うだけでどれもほとんどPebbleインスパイア系で変わりがない。またCSR社の「スマートジュエリー」という製品は、ネックレス型で、LEDを内蔵して通知を可視化し、光って見えるようになっている。宝飾の会社がデザインしているそうだ。

「Razer Nabu」というFuelBandインスパイア系は、液晶画面が手首の外側と内側に2つあり、内側は人に見られたくない情報を表示するのに使うのだとか。ほとんど思いつきの範囲を出ていないアイデアだ。

 中国ZTEの製品に至ってはPebbleそっくりで、「ロゴをなくしたらどっちがPebbleかわからないだろう」などとアメリカのメディアに書かれている。

 他方、グーグルグラスの対抗馬的なメガネ型ウェアラブルは、あまり登場してきていない。「セカイカメラ」を作っていた元頓智ドットの創業者井口尊仁さんが、グーグルグラスに近い「Telepathy」というデバイスを昨年発表して話題を集めているが、今回のCESではメガネ型はそれほど目立たなかったようだ。その中では「Atheer One」というデバイスが、三次元のAR(拡張現実)を売り物にしてクラウドファンディングで資金を募集している。装着すると目の前に立体画像が浮かび上がっているというもので、今年第4四半期に500ドルで市販することを目指しているとか。

 メガネ型は手首型よりもさらに軽量であることを求められ、開発が難しいという問題もあるのかもしれない。いずれにしても、すでに存在する製品を越えるものはまだ登場しておらず、現状ではウェアラブルが爆発的に普及するというのは難しいだろう。あとは今年の秋にも発表されると噂されている、アップルの新しいウェアラブルデバイスに期待するしかないということなのかもしれない。

「モノのインターネット」にウェアラブルは欠かせない

 一方でウェアラブル以外に目を転じてみると、さまざまなセンサを使った新しい製品が登場してきている。例えばインフォモーションスポーツテクノロジーズという企業が開発している「94Fifty」というインテリジェントなバスケットボール。9つのセンサを内蔵し、シュートの速度や回転、円弧の描き方などを解析し、スマホに情報を転送して専用アプリ上でアドバイスしてくれるのだとか。充電用のドック付きで299.95ドル。

 従来はアナログだった製品をセンサでインテリジェント化するという方向では、スリープナンバー社のベッドは音声で固さや傾斜を変更でき、睡眠を計測して、眠りの質を改善してくれるのだという。

 またセンサを組み込むことで、眠っているときの呼吸の度合いや身体の動き、心拍なども測る。このデータをBluetoothでアプリに送信し、例えば大きないびきをかいていたら、枕をそっと高くしていびきを小さくしてくれるといった細かい芸当も可能だ。リモコンを使ってベッドの固さを細かく調整できるので、寝返りが打ちやすくなったり、寝転んでテレビを観てるのか眠ってるのかという状態に合わせた調整もできる。ただしこのベッドはたいへん高価で、クイーンサイズで約8000ドルもする。

 以前の本連載で書いたように、センサを使ってこれまでアナログだったものを「モノのインターネット」に組み込んでいくのは、ITの進化の正しい方向性だ。これらの製品と同じようにウェアラブルも位置付けられる。さまざまなセンサを内蔵させ、人体そのものや人体を取り巻く外界の状況を計測し、これをモノのインターネットに接続し、センサ情報をクラウドで解析してフィードバックする。スマホやタブレットだけでなく、アナログなモノや身体までも統合したこういうネットワークが出来上がってくるというのが近未来のITの姿であり、そこに向かって進んでいくためには、ウェアラブルは欠かせない要素である。そう捉えれば、まだウェアラブルは始まったばかりであり、可能性は非常に大きい。

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佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主著に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)ほか。6月5日に『レイヤー化する世界』(NHK出版)を上梓。


【佐々木が注目する今月のニュースワード】

■Between
カップル専用、2人きりで使うSNSアプリ。こういう超クローズドな方向のSNSが最近、にわかに盛り上がってきている。オープンなフェイスブックやツイッターへの反動といえるかも。

■Edison
インテルが開発したSDカードサイズの超小型パソコン。これだけの大きさながら、デュアルコアCPUとWiFiを搭載しており、外部との通信も可能。

■セルフィ
スマホのカメラで自分を撮ること。英語圏ではごく一般的な用語になり、オックスフォード辞書の13年の「今年の言葉」に選ばれた。日本では「自分撮り」→「自撮り」→「地鶏」というスラングが、なんとなく定着しつつある?

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