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佐々木俊尚の「ITインサイド・レポート」 第70回

取引所経営破綻で大騒ぎのビットコインとは何か?それは通貨であり得るのか

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進化の歩みを止めないIT業界。日々新しい情報が世間を賑わしてはいても、そのニュースの裏にある真の状況まで見通すのは、なかなか難しいものである――。業界を知り尽くしたジャーナリストの目から、最先端IT事情を深読み・裏読み!

 ニュースで見かけるようになった「ビットコイン」という言葉。仮想通貨であるこのビットコインの取引所が経営破綻したことで、アメリカを中心にこの存在をめぐる議論が巻き起こっている。その仕組みと正体を、ここで探ってみよう。

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Newsweek (ニューズウィーク日本版) 2014年 2/25号 [ビットコインの可能性](阪急コミュニケーションズ)

 仮想通貨ビットコインが話題騒然だ。世界最大のビットコイン取引所だったマウントゴックス社が何者かのサイバー攻撃を受けて保有していたビットコインを消失させてしまい、経営破綻した。中国などビットコイン取引を禁止する国も現れ、価値は乱高下。「ビットコインはそもそも通貨となり得るのか」という議論がネット上では沸騰している。

 仮想通貨と名づけられているが、ビットコインは政府が発行している通貨ではない。どちらかといえば、買い物に使う「ポイント」に近い存在と捉えたほうがわかりやすいかもしれない。たとえばTSUTAYAのTポイントは日本国内ではたいへん普及していて、さまざまな提携先のショップで金券のように買い物に利用することができる。ビットコインはこのポイントをさらに進化させ、国をまたいで簡単に送金したり、実在する専用ATMを使ってドルなどに出金することもできるようになっている。

 ビットコインを発明したのは、サトシ・ナカモトという日本人名を名乗る謎の人物だ。ネット上にP2Pを使って暗号化されたシステムを構築し、このシステムにソフトウェアを使ってアクセスすると、金銀を採掘するのと同じように少しずつビットコインのデータを取り出せるようになっている。

 この採掘ソフトウェアが動く仕組みは、こうだ。ビットコインのすべての取引は、P2Pで分散されたサーバ上に保管されている。このすべての取引がきちんと矛盾なく行われていることを検証する方法として、巨大な計算量が必要な数学的な問題を解くことが求められる。この問題を解けば解くほど、取引がさらに強く検証されることになり、これによってビットコイン自体の信頼度がさらに高まっていくという仕掛けになっているのだ。巧みな考え方だ。

 そしてこの「採掘」は、一度に大量のビットコインを取り出すことはできない。また採掘量にも限界があり、埋蔵されているのは合計2100万枚で、今のところ1200万枚が取り出されているという。

 一定の日時の間には少しずつしか取り出せないため、希少なゴールドを採掘するのと同じように、希少価値を生み出す要因になっている。話題になっていなかった初期の頃は、ソフトを使えば個人でもたくさん取り出せたようだが、いまは世界中の多くの人が採掘しようとしているため、一人あたりの採掘量はたいへん少なくなっている。現段階では個人がパソコンを使って採掘しても、そのパソコン投資の価値に見合うだけの採掘量にはならないまでになっている。

 さて気になるのは、このビットコインは通貨の代替物になり得るのだろうか? という深遠なテーマだ。

 今後もビットコインが流通し、それが世界中で使えるようになって、しかもそれぞれの国にビットコインを現地通貨に換金してくれるサービスがあれば、ビットコインだけで生活できるようになってしまうかもしれない。アマゾンや楽天がその気になれば、オンラインでの買い物をビットコインで支払うこともできるようになるだろう。

 また先進国に移民に行っている新興国の人たちが母国に送金したり、あるいは金融システムが整備されていない新興国間の取引などにビットコインを活用すれば、銀行を経由するのよりもずっと簡単、しかも安価に取引を行うことができるようになる。固定電話回線が敷設されていなかったアフリカなどの地域で無線のモバイル通信が一気に普及したように、金融システム未整備の地域でビットコインが一気に普及するというようなリープフロッグ(遅れていた地域でこそ新しい技術が一気に普及すること)が起きる可能性はある。

 貨幣であることを成り立たせるためには、【1】価値の尺度【2】交換の媒介【3】価値の保管という3つの要素を満たすことが必要だ。ビットコインが流通しているということは、ビットコインによってさまざまなサービスや商品の価値基準が提示され、価値が交換されているということだから、【1】と【2】は満たされている。

 問題は【3】だ。ドルや円などの貨幣と違い、ビットコインには流通量をコントロールする日銀のような中央銀行がない。だから価値は乱高下し、バブルのように急騰したり、急騰しすぎて今度は暴落したりという繰り返しで、ビットコインに投資するのはかなりリスクの高い賭けになってしまっている。これは価値の保管という【3】の要素を実現していない。

金本位制と似ているビットコイングローバル貨幣になれるか

 そもそも今のような貨幣制度になるまでは、世界は金本位制だった。金本位制はゴールドの流通量が決まっているため、インフレになったり不況になったときに通貨の流通量をコントロールして対処するということができない。だから金本位制は廃れて、中央銀行が流通量をコントロールする今のようなシステムに変わったのである。ビットコインは金本位制に似ていて、流通量には上限があり、一定期間に流通する量も誰かのコントロールによって増やしたり減ったりできない。ということは、ビットコインが普及すればするほど、金本位制の行き詰まりと同じような壁にぶつかることになるだろう。

 とはいっても、では国が発行する通貨がつねに「価値の保管」を実現しているのかといえば、必ずしもそうとはいえない。極端な例を挙げれば、かつてジンバブエで発行されていたジンバブエ・ドル。めちゃくちゃな金融政策でハイパーインフレを引き起こし、紙くず同然になった。このジンバブエ・ドルに比べれば、ビットコインの価値のほうがずっとましだといえるではないか。

 そもそも、貨幣は国が発行するものである必要はない。歴史的に見れば、かつての金貨は国が発行していたから価値が担保されていたわけではなく、ゴールドという希少性によって担保されていたのである。であるとすれば、ソフトウェアの採掘による希少性が担保されているビットコインも、「みんながビットコインの価値を認める」と合意すれば、貨幣として成立するということになるはずだ。

 そもそも今のように国の中央銀行が価値を担保しているドルや円などの法定通貨も、国民国家が衰退して行き詰まれば、いずれは価値の担保が難しくなってくるかもしれない。

 そうなった先に、ビットコインはあらためて通貨としての意味を問われるようになるかもしれない。ビットコインは各国政府のコントロールを受けないから、インターネットの中で政府から独立した通貨システムとして作用していく可能性は十分にあるということだ。もしアメリカ経済がひっくり返るようなことがあれば、遠い将来にはビットコインがドルのような基軸通貨になってしまうことだってあり得るだろう。インターネットによってさまざまな分野でのグローバル化が進んでいるが、こういうところも今後はグローバルになっていくのだ。資本がグローバル化し、流通がグローバル化し、製造業がグローバル化し、メディアがグローバル化していく。その先には貨幣というレイヤーがグローバル化してくるというのは、いたって現実的な未来像である。

佐々木俊尚(ささき・としなお)
1961年生まれ。毎日新聞、アスキーを経て、フリージャーナリストに。ネット技術やベンチャービジネスに精通。主著に『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『「当事者」の時代』(光文社新書)、『レイヤー化する世界』(NHK出版)ほか。

【佐々木が注目する今月のニュースワード】

■CarPlay
iPhoneなどアップルのiOSデバイスをクルマのダッシュボードと連携させるiOS in the Carが名称変更し、CarPlayに。クルマとスマホの連携が今年加速する。

■LINEビジネスコネクト
LINEがAPIを公開し、企業側のデータベースと接続できるように。これによって企業が消費者に対してさまざまな個別のメッセージをLINEで送れるようになる。

■WhatsApp
LINEに似たメッセージアプリで、米国で爆発的に普及。フェイスブックが約160億ドル(約1兆6000億円)という驚くべき巨額で買収を発表して話題になった。

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