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第1特集
イケイケ経産省が"生かす"企業"殺す"企業【1】

トヨタとは仲良く、東電は徹底的に潰せ……!? イケイケ経産省が生かす企業、殺す企業

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――安倍政権に秘書官を送り込むなどして勢いづく経済産業省。「ケンカ官庁」とも揶揄されきた経産省はいま、日本を牽引する有名企業をどうしようとしているのか?

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『エネルギー新産業創造』(日経BP社)

 シャープやルネサスエレクトロニクスなど大手メーカーの不振が新聞紙上を賑わせているが、その際しばしば目にするのが「経産省は支援に前向き」などというフレーズだ。経産省、すなわち経済産業省(以下、経産省)とはなんたるかを定めた「経産省設置法」によれば、経産省とは「産業の発展」を任務としており、電機メーカーなど日本にある企業の多くを監督している中央省庁である。もちろん業績不振などの際に支援に踏み切るのは一握りの大手企業だが、実際には、手厚く保護されている企業から結果として振り回されている企業まで、その関係性はさまざま。そこで本稿では、アベノミクスを牛耳っているとさえいわれる経産省の実態を紹介していこう。

「産業再編の実行に向け、経産省が号砲を鳴らした」

 今年3月15日夕方、首相官邸4階大会議室で開かれた産業競争力会議において配布された資料を見た政府関係者は、経産省の強い意志を感じ取った。茂木敏充経産大臣名義で出された「日本経済の再生に向けた新陳代謝の促進と経営資源の最大活用」と題したその資料は、今後5年間を「集中期間」と位置づけ、企業のM&Aなどを進めて「競争力あるグローバルトップ企業」を作ることを柱としたものだ。これは、将来的に有望だと見なす企業や業種を指定して集中的に資金や人材を投入するという、経産省が“お家芸”としてきた産業政策そのもの。この政府関係者は「安倍政権の発足後、産業再編を進める政策が目立っている」と指摘する。産業再編といえば聞こえはいいいが、要は経産省が「生かす企業」と「殺す企業」を選別し、前者には補助金を注ぐなど手厚く遇し、後者には有力企業との合併を求めるなど市場からの退場を促すという厳しいものだ。

 この産業政策は、戦後復興期から高度経済成長期に威力を発揮した「傾斜生産方式」に、「ターゲティングポリシー」なる今ふうの名前をつけて看板を掛け直したもの。安倍晋三首相肝いりの産業競争力会議でこの政策の推進を宣言した経産省は今後、どの企業・業界を「生かし」、どの企業を「殺す」かの選別作業に入っていくとみられるのだ。その際に重要になるのが、各企業・業種と経産省担当部署との関係。その代表例については、次特集のイラストなどを参照してもらいたい。

 さて、経産省が進める産業再編路線に一役買っているのが、茂木経産大臣だ。93年の衆議院議員当選前には外資系コンサルティング会社のマッキンゼーでコンサルタントを務めていた経験を持つ茂木氏は、産業再編にはかなり前向き。経産大臣就任後は「日本の産業界はプレーヤーが多すぎる」とM&Aの必要性を説く姿が目立つという。経産省関係者は「大臣も官邸も産業政策への理解が早く、安倍政権は“わが社”にとって非常にやりやすい」と笑顔を見せる。“わが社”とは、経産官僚が自省を指して好んで使う言い回し。大手紙経済部記者は「原発事故後、原発を推進してきた経産省は世論の強い批判を受けて影響力を失っていたが、『経産省政権』とも揶揄される安倍政権に交代して重要官庁にカムバックした。アベノミクスの追い風に乗って産業再編で“実績”を積み上げ、失地回復を図ろうとしている」と指摘する。

補助金漬けの企業はかえって“死ぬ”運命に

 ここで、経産省の歴史について振り返っておこう。経産官僚のDNAを最もわかりやすく描いているのが、昭和30年代(1960年前後)の通商産業省(現・経産省)を舞台にした城山三郎の小説『官僚たちの夏』だ。二度もテレビドラマ化されたことでも知られる同作は、「ミスター通産省」と呼ばれた名物事務次官・佐橋滋をモデルとする主人公をはじめ、今から見ると少々アツすぎる通産官僚たちが、日本経済再生に向けて産業競争力を強化するため政策立案に邁進する姿を描いた。

 この時代から通産省が得意としてきた手法が、「行政指導」だ。企業活動の細部にまで張り巡らされた許認可権限を振りかざして、過当競争に陥っている業界などに再編を迫るというもので、70年に富士製鐵と八幡製鐵とが合併して新日本製鐵が誕生した際に通産省が舞台裏で主導したのはよく知られた例。しかし、こうした行政指導は時に「官僚統制だ」と非難され、欧米諸国からも「保護主義的だ」と批判を受けて貿易摩擦を生み出してもきたのも事実である。

 さらに経産省の別名として知られるのが、「ケンカ官庁」だ。これは、霞が関の他官庁から監督業界を“奪う”という経産省の手法を揶揄したもの。高度経済成長期であれば、行政指導を駆使して合併などを進めてさえいれば経産省も存在感を発揮できていた。しかし、産業の集約も進んだ今それだけでは不十分、というわけで、「隣の芝生は青い」とばかり、他省庁が監督する業界を自らの監督業界に収めてきたのである。

 では、経産省から「生かす企業」と認定されると、どんな“恩恵”があるのか。最も知られた手法は、補助金の支給である。例えば、『官僚たちの夏』の昔から手厚い保護を受けている自動車業界を見ると、その恩恵の巨大さがよくわかる。安倍政権がこの1月に決めた緊急経済対策では、電気自動車(EV)などに使う充電器の補助事業に約1000億円が盛り込まれ、さらに同月に決まった13年度予算案でも、同じくEVの導入補助事業関連で約300億円が計上された。

 しかし、こうした補助金について、同じく古くから保護されている電機メーカー幹部は、「補助金は結果的に企業の首を絞める」と言い放つ。このメーカー幹部が例として挙げるのが、09年に導入された「家電エコポイント」だ。リーマン・ショックに対する景気刺激策として導入され、省エネ型の家電を購入すると商品券などと交換できるポイントがもらえるというこの制度、家電メーカーの業績を一時的に押し上げはしたが、11年3月の終了後は「地獄に落ちる」(大手メーカー幹部)ような反動減をもたらした。前出の電機メーカー幹部は、現在の家電メーカー総崩れの状況は経産省の補助金政策がもたらしたものだと主張する。

 しかし、当の経産省は、考えを改める気はないようだ。

「財務が一時的に苦しいシャープであれパナソニックであれ、最先端分野で勝つしか生き残る道はない。実際シャープは(独自の)IGZO液晶で勝負していくとしている。強い部分にリソースを集中し、新陳代謝を進めて成長していただきたい」(「週刊東洋経済」13年2月16日号より)

 経産省の荒井勝喜・情報通信機器課長がこう語ったインタビュー記事が、電機メーカー関係者の間で話題になった。荒井課長は、国内電機メーカーや半導体メーカーなどを担当しており、その発言は今後の国内メーカーが向かう道を指し示すことになる。同記事を読んだという外資系電機メーカー幹部は、「最先端技術を伸ばすためにまた補助金を入れるのだろうが、こういう考えでは日本企業を救うのは難しい」と切り捨てた。

 この幹部が挙げたのは、アップルが12年に発売したRetinaディスプレイモデルのiPad。この商品では、先述の荒井課長も「シャープの強い部分」と指摘する同社開発の高精細低消費電力の液晶「IGZO」が採用されたが、なんとアップルはその性能をわざと落としたという。アップルは、価格競争力をつけるために韓国サムスン電子などが製造するアモルファス液晶とIGZOの2種類のパネルを調達しており、その差がわからないよう、性能で勝るIGZOの解像度を落としたというのだ。電子部品業界の関係者は「現在、アップルなど最終品メーカーが最も気にしているのは価格と安定調達。技術は、ひどいものでなければあまり問題視されない。いまや、『技術力が高ければ売れる』というのは幻想」と突き放す。

 また、「生かす企業」として認定する経産省の選別眼が間違っているという指摘も根強い。そもそも認定する企業・業種が『官僚たちの夏』の時代から代わり映えしておらず、現代の産業構造に対応できていないのだ。その原因は、経産省の組織構造にあるという。

 経産省では、製造産業局が「縦割り局」と呼ばれ、その傘下に自動車課や鉄鋼課、繊維課、非鉄金属課、産業機械課などが置かれ、伝統工芸品からロケットまで幅広い産業を監督している。産業構造の変化に伴い組織改編を続けてきたものの、自動車業界や鉄鋼業界などは1業種に1つの担当課が置かれている上、課長ポストにも実力者が配置されるなど、手厚い布陣が敷かれるのが常だ。

 これに対し、歴史が浅い産業に対する体制は未整備。飲食や福祉、金融、不動産、運輸といったサービス産業については、サービス政策課とヘルスケア産業課などが一手に引き受けているのが現状なのだ。経産省関係者は「自動車課の担当者であれば、自動車メーカーの人間と『必要な対策はないか』などと日常的に意見交換をし、バンバン政策を打っていく。でも、担当業界が広すぎると状況把握で精いっぱい。問題が起きればその都度対応していくといった後手後手の施策しかできない」と内情を明かす。つまり、製造業からサービス産業へのシフトが進む中、経産省の体制はあまりに前例踏襲主義的で、不十分に過ぎるのである。

 制度疲労を抱える経産省に産業政策を委ねているように見える安倍政権。しかし冒頭の政府関係者は「安倍政権も、経産省の手法を全面的に認めているワケではなさそうだ。政権発足から時間がたつほどその傾向が強くなっている」と明かす。官邸と経産省の関係を微妙に変えているとみられるのが、竹中平蔵・慶応大学教授と三木谷浩史・楽天会長兼社長。2人は冒頭で述べた安倍首相肝いりといわれる産業競争力会議の民間議員だが、「特定の産業に資金を投入するのは大変危険だ」(三木谷)と、経産省の政策を真っ向から否定。当初はターゲティングポリシー政策をよく口にしていた甘利明経済再生担当大臣も、最近では「規制改革は経済成長の1丁目1番地」などと、竹中、三木谷の定番フレーズを頻繁に引き合いに出すようになっているという。これは、補助金で企業を囲い込むよりも、むしろ行政指導のような規制をやめて企業を自由にしたほうが経済成長はうまくいくという、経産省とは真逆の主張である。

「効果度外視の予算を投入し、企業に補助金をばらまけば、日本経済がさらに傷むのは目に見えている」(大手紙経済部記者)

 アベノミクスが経産省の“墓碑銘”になるか、それとも日本経済の“墓碑銘”になるか。経産省と日本経済は、大きなターニングポイントに立っているのである。

(文/牧田次郎)

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