サイゾーpremium  > 連載  > 神保哲生×宮台真司「マル激 TALK ON DEMAND」  >  電波利権の不合理性と政治家と放送局の功...
連載
神保哲生×宮台真司 「マル激 TALK ON DEMAND」 第46回

電波利権の不合理性と政治家と放送局の功罪【後編】

+お気に入りに追加

前編はこちら
中編はこちら

巨大利権のご都合主義と公共電波が持つ役割

神保 なぜ日本の放送行政では、明らかに消費者へのメリットがない施策が繰り返されるのでしょうか?

池田 放送業者が合理的に行動した結果でしょう。経済学で「市場の締め出し」という言葉があります。電力・通信・放送などの自然独占性が強い産業は、役所を使って新規参入を妨害することで、企業努力しなくても儲かる構造ができてしまうのです。それを防ぐためには、市民が監視するしかないのですが、その助けとなるべきマスコミが隠す側に回っているのが問題です。

宮台 マスコミは報じなくてもツイッターやブログなどでネット界隈のオピニオンリーダー層が議論を始めているので、この問題の本質についての情報が、やがて広く共有されるでしょう。ディスクロージャー(情報公開)されていけば、これまで続いてきた国民に不利益な構造も死滅するでしょう。ローカル情報は、高コストな地デジを頼らなくても、低コストなインターネット放送局で十分。ローカル・エリアはケーブルテレビとインターネット放送の競争に任せ、全国エリアは衛星デジタルとインターネット放送の競争に任せるのが、合理的です。地デジ移行をやめ、衛星デジタル一本にして、巨大利権ゆえにご都合主義的に情報を隠してきたメディアには一斉に退場願う。そうすれば新規参入が増え、放送行政について議論をする人々の顔ぶれも変わり、合理的政策に結びつきます。

神保 しかし、これまでの視聴者にメリットのない施策を取り続けていくと、テレビは今後、どんな存在になっていくのでしょう? 今の地上波放送がネット配信になれば、無数にあるチャンネルの中のひとつになり、現在のような特権的な地位を失うことになりかねない。特権を失うのはいいけれど、これまで地上波テレビが担ってきた公共的な役割というのも、まったく無視することはできないだろうと思います。この先テレビをどうしていくべきかの議論は、最終的には「電波とは誰のものなのか」という議論に行き着くと思うんです。池田さんは、テレビと放送について、どんな未来像を思い浮かべますか?

池田 僕としては、テレビ業界の人々が思っているほどには、すぐにテレビはダメにならないと思います。アメリカでは地上波を観ている人は1割くらいで、ほとんどはケーブルテレビを観ていますから、すでにテレビ局は多チャンネルの競争に巻き込まれています。しかし、それでNBCやCBSが地位を失っているかというと、決してそんなことはなくて、ネットワーク局全体で20~30%のシェアを維持しています。なぜなら、一つひとつのチャンネルをチェックすると、一日中観ていられるようなクオリティの、つまりお金がかかった番組を流し続けている局は、それほど多くないからです。放送内容がしっかりしていれば、シェアの下げ止まりはあるはずだし、高齢化社会においてはテレビのシェアは底堅いのではないかと考えます。テレビ局の人は、インターネットを恐れすぎではないでしょうか。

 アメリカの例を見ると、ケーブルテレビを含めたテレビの接触率は、まったく下がっていません。日本もそうで、この20年間、一日のテレビの平均視聴時間は3時間50分くらいで推移しています。テレビは、意外としぶといんですよ。

神保 では、インターネットとのすみ分けや融合については、どのようにお考えでしょうか?

池田 3時間50分の中で、地上波テレビのシェアは少しずつ下がっていて、余った時間に、それこそビデオニュースや、YouTube、ニコニコ動画などが入ってくることはあるでしょう。メディアが多様化すれば、自然におかしな利権構造はなくなっていく。こうして、時間をかけて正常な構造に直していくしかないのかもしれませんね。

宮台 統計を細かく見ると、団塊世代以上の年長者のテレビ視聴は増える傾向ですが、若い世代は携帯電話の普及率が全世帯の半分を超える2002年あたりからテレビ視聴が減る傾向です。10年スパンで見ればテレビは間違いなく廃れてきました。

 僕はTBSラジオの番組審議委員を10年続けていますが、AMラジオのセット・インユース(スイッチONの受信機)は一貫して減る中、聴取率はTBSラジオの独り勝ち。理由は、インターネットユーザーを意識しながら番組のクオリティを高める努力をしてきたからです。

 最近は、ラジオの利用がインターネットに近くなってきました。昔は制作者側からプッシュされるものだったのが、受け手がプルするものに近づいています。その証拠に、大学生たちの世代は、radiko利用も含めたAMラジオのヘビーリスナーと、AMラジオの受信の仕方さえ知らない人に、二極化しました。ラジオを聴く振る舞いは、テレビのそれよりずっと積極的な振る舞いになっています。

 そのことを踏まえて番組審議委員として言い続けてきたのは、可処分時間に限りがある以上、コンテンツのディープユーザーを、無限にチャンネルがあるインターネットと取り合えば、ラジオに勝ち目はないということです。

 加えて、かつてラジオやテレビは、いわゆるマスコミ、つまり皆が知っているコンテンツを提供することでコミュニケーション・ツールとして機能しましたが、ラジオに限って言えば──テレビもそうなりつつあるけれど──限られた島宇宙の中でだけ享受されるがゆえのコミュニケーション・ツールに変わりました。つまりネットに近づいているんです。

 であれば、インターネット化した社会に、ラジオ局側から適応するべきです。それには「主婦向け」「ドライバー向け」など従来的ルーティンを脱し、ネットユーザーがラジオを聴くことでネット利用がもっと楽しくなるようなコンテンツを目指すべきです。

 具体的には、リスナーに「踏み込んだ話はポッドキャストで聴いてね」とか「関連するトークはブログからダウンロードしてね」と呼び掛け、ネットユーザーには「この話の続きの最新版が聴きたければ、来週金曜日の番組をチェックして。ブログへのアップロードは一週間遅れるよ」と呼び掛けるやり方です。

 実際TBSラジオは、ポッドキャストで大々的に番組を流すようになりました。これはネットで直接稼ぐビジネスモデルではなく、ディープなネットユーザーであるほどTBSラジオが聴きたくなるという、ラジオとネットの相互触媒的な共生を目指したものです。それが独り勝ちの一因でしょう。

 一例を紹介しただけですが、ネットを意識せずに済んだ環境から、意識せざるを得ない環境に放送局が移行しなければならなくなりました。「ネットを意識せざるをえない環境にどう適応するか」が重要な課題で、適応できたところは残り、できなかったところは沈没します。

神保 今のテレビ業界は、むしろ逆の方向に行っていますね。インターネットを恐れて、インターネットに積極的に参入していくのではなく、既得権益を守ることを優先しているようです。しかし、短期的にはそれが得策に見えても最終的にそれが自殺行為になる可能性もある。

 原口総務相とソフトバンクの孫正義社長が「光の道」構想(5年間で、全世帯で高速大容量のブロードバンド通信を利用できるようにする構想)を二人三脚で進めていますが、池田さんは「"光の道"よりも"電波の道"を」という言い方をされていますね。

池田 現在、電波は非常に効率悪く使われています。孫さんもそれを認めています。それを補うために光ファイバーを使おうという考えから、ソフトバンクでも家庭や店舗に小型の基地局を設け、それを光ファイバーで結ぼうとしている。iPadの例でもわかるように、今後は無線のインフラが何よりも重要になるはず。日本の電波がテレビ局に占有され、わずかしか使えないとなれば、国力にもかかわってくるでしょう。

神保 日本はブロードバンドでは先進国でしたが、これから無線に移行する上で、世界の潮流に乗り遅れてしまったら意味がないということですね。
(構成/神谷弘一 blueprint)
(『マル激トーク・オン・ディマンド 第484回』を加筆、再構成して掲載)

1010_3shot.jpg

『マル激トーク・オン・ディマンド』
神保哲生と宮台真司が毎週ゲストを招いて、ひとつのテーマを徹底的に掘り下げるインターネットテレビ局「ビデオニュース・ドットコム」内のトーク番組。スポンサーに頼らない番組ゆえ、既存メディアでは扱いにくいテーマも積極的に取り上げ、各所からの評価は高い。(月額525円/税込)

1010_miyadai.jpg

宮台真司
首都大学東京教授。社会学者。近著に『日本の難点』(幻冬舎)、『14歳からの社会学』(世界文化社)など。


1010_jinbo.jpg

神保哲生
ビデオジャーナリスト。ビデオニュース・ドットコム代表。代表作に『ツバルー地球温暖化に沈む国』(春秋社)など。


1010_ikeda.jpg

池田信夫
東大卒業後、78年、NHKへ入局、93年退社。国際大学GLOCOM教授を経て現職。今年3月、アゴラブックス代表取締役に就任。


ログインして続きを読む
続きを読みたい方は...

Recommended by logly
サイゾープレミアム

2022年6・7月号

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

目指すはK-POP? ジャニーズ進化論

移ろいゆくウクライナ避難者

移ろいゆくウクライナ避難者
    • 移ろいゆく【ウクライナ】避難者

NEWS SOURCE

サイゾーパブリシティ